JDF 障害者差別解消法に関するアンケート結果について
太田修平 JDF(日本障害フォーラム)差別解消法推進委員会委員長
※日本障害者協議会 発行「すべての人の社会」2019年2月号掲載
● 3年見直しの中で実効性を追求
2010年からの「障がい者制度改革」により、長年の悲願であった『障害者差別解消法』が、2016年施行された。
私たち障害者団体は実効性ある“差別禁止”法を求めていたが、紛争解決の仕組みなど、重要な部分が今後の課題として先送りされた。
差別解消法には「3年後の見直し規定」があり、日本障害フォーラム(JDF)ではその見直しの中で実効性ある法律にしていくため、
差別解消法の実態、特に相談窓口に焦点を当て、昨年1月〜5月、JDF構成団体を中心に、全国の障害者に対してアンケートを実施した。
方法は、構成団体経由による電子メール送信が主であった。回答は、ホームページからのインターネット、FAX、郵送により、ほぼ全都道府県から965件の回答があった。
その概要を以下に示すが、私たちが注目しなければならないのは、差別解消法の認知度や、相談機関に関する認知度が低いことで、
どこかに相談した人の中でも、解決に至っていないケースが解決したケースを大きく上回っていることである。
● 差別と決別するために
差別解消法は差別を受けた時に訴えて解決していくための法律である。アンケートから見えることは法律が十分に機能していないということである。
また「差別を受けた」と申し立てることも障害者にとっては、負担や労力、多くの時間を割かなければならないことであり、それを考えると、申し立てることをあきらめてしまうケースも多いと考えられる。
回答からは、少数ではあるが、障害者団体に相談して解決が図られた事例も少なくない。紛争解決にあたっては、障害当事者の役割が大きいことを示している。
また、今の法律では何を指して「不当な差別的取扱い」というのかを明らかにしていない。相談機関に訴え出ても相手側から強い弁解があると、それ以上話を進められないようになっている。
「3年後の見直し」は、形だけではなく、この法律があることによって差別をなくしていくためのものでなければならない。
自由記述(次ページ)でもわかる通り、雇用や公共交通機関の中で、その他、さまざまなサービス提供に際して、障害者は日々、差別に直面している。
その悔しく、腹立たしい思いと決別していきたい。
この調査結果を多くの方に活用していただくとともに、JDFとしてさらに分析を加え、「3年後の見直し」に向けた政策提起をしていく考えである。
● 集計から
以下に調査概要を示す。
○調査期間は、2018年1月30日〜5月15日
○調査対象は、障害当事者(家族・支援者の代筆・代理回答含む)
回答者は、本人664人(68.8%)、家族204人(21.1%)、本人の回答を支援者が代理記入74人(7.7%)、無回答(NA)23人(2. 4%)で、計965人だった。
回答者の年齢層は、40代以上が642人で、7割近くを占め、男女別では、女性419人(43.4%)、男性504人(52.3%)、NA37人(3.8%)だった。
障害種別(重複回答)は、肢体不自由が288人(29.8%)と最多、次いで精神障害237人(24.6%)、聴覚障害188人、発達障害171人(17.7%)、知的障害143人(14.8 %)、視覚障害91人(9.4 %)、言語障害76人(7.9 %)、内部障害35人(3.6 %)、盲ろう20人(2.1 %)の順であった。
問1)法施行後に障害を理由とする差別と考えられる経験をしたと答えた人は458人(47.5 %)、経験してない人は472人(48.9 %)とほぼ同数であった。
問2)法に基づき、差別と考えられる扱いを受けた時に相談できる窓口があることを知っているのは324人(33.6 %)、聞いたことはあるが具体的に分からない340人(35.2 %)、
知らない281人(29.1 %)で、知った方法は役所や公的機関に問い合わせて知った33人(38.4%)、障害関係団体の紹介が24人(27.9 %)だった。
問3)相談窓口に相談したことで、問題が解決した人は26人(30.2%)、解決してない59人(68.6%)だった。
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○解決した事例
・30代、男性、本人が回答、肢体不自由
職場の差別を、障害者団体に紹介された社会福祉協議会に相談し、仲介してもらい、無事仕事復帰できた。
・30代、男性、本人が回答、精神障害
試験中に休息する可能性を伝えたが実現されない上に休息を理由に受講資格またまた剥奪されかけたことを障害団体の紹介で障害福祉課に相談し、
仲介してもらい、補講により受講資格を認められた。
・60代、男性、代理人が回答、言語障害・肢体不自由・難病、在宅の重度障害者
選挙の投票を希望したが、役所での手続きが分からず良い返事がなかったため、同様の家族に確認し、県の担当者に相談、結果的に在宅で投票できたが、
公的機関での相談窓口を周知徹底してほしい。
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○2016年4月以降に経験した差別の自由記述(一部)
1 学校で
・先生にほぼ無視され特別支援学校に自ら転入した。
・中学校で、親が申し出たにもかかわらず、自閉症の特性にあった支援が受けられなかった。
・障害特性からくる間違った理解で結果的に先生の求める言動ができないことを「うそつき」と言われた。そのできないところを、支援級で指導、教育して欲しいのを理解してもらえなかった。
・高校で個別の配慮をお願いしても「特別扱いはできない」と言われるだけで結局退学した。
2 職場で
・視覚障害を理由に、キャリアを無視した配置転換、無視や排除などのハラスメント
・難聴と伝えたが、健聴者と同じレベルだと言われ、配慮をお願いしても聞いてもらえなかった。
・研修先に参加拒否された。
・身体障害で肉体労働を積極的にできないことを知っている上司から肉体労働を強要された。
・健常者と同じように働かないと給料は払えないと言われた。
3 事業所などで
・施設に来ても、あなたにできる仕事はないとはっきり言われた。
4 交通機関で (移動、係員の対応など)
・乗りたい電車に連絡がつかないからダメと言われた。
・駅改札で、希望する電車の乗車案内(誘導)を依頼したが断られた。
・駅員に忘れ物を伝えた時、聞こえないので筆談を求めたが、大声で何度も小さな子に対するような言い方をされ、最終的にメモ帳とペンを目の前にバンと叩くように置き、殴り書きされた。
・バス運転手の荒い介助と、面倒くさそうな態度
・電車内で車椅子が邪魔だと大声で言われた。
・福祉タクシーの利用を、15時以降は暗くなり危ないという理由で断られた。
5 飲食店、ホテル、銀行、その他の店などで
・電話で言葉がわからないと切られる。
・盲導犬ユーザーだが、カフェに入ろうとした際、店が狭い、混んでいるという理由で入店を断られた。
・ろう児をスイミングスクールに通わせたいと申請したが断られた。
・買い物時、耳が悪いと言ってもそのまま話された。
6 病院で
・順番待ちで呼ばれても聞こえず、後回しにされた。
・健康診断で、車椅子対応の体重計が用意されず、毎回、体重が自己申告になっている。
・介助がないので子宮がん検診が受けられない。
・婦人科で、性交渉の可能性がないだろうから検査はいらないだろうという感じのことを医師に言われ検診しなかった。
・歯科で初診の時、難聴を伝えると、それは困ると言われた。
7 役所、公的機関などで
・役所で難聴であると伝えたら、1人で来たのか?夫か息子に来てもらえないのかと言われた。
・肢体不自由のため、市役所で装具の相談をした時、歩けないのに装具いらないでしょと言われた。
・お前ら税金で養ってやってるのだからもっと低姿勢になれ!と言われた。
・役所に差別を受けていることを伝えても、聴いたたけで何もしてくれなかった。解決に至らなかった。
・ハローワークでのぞんざいな説明、皮肉、嘲笑。
8 地域生活、住まいに関すること
・賃貸契約以前に、写真付の証明書が障害手帳だとわかったら、即断られた。
※この他、制度上の問題、無理解による言動など多くの記述がありました。詳細はJDFのサイトでご覧いただけます。
以上、日本障害者協議会 発行「すべての人の社会」2019年2月号掲載
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