権利条約で未来を拓く 新時代への提言と総括所見 (次世代の障害当事者からの提言) テーマ:「盲ろう者も共に手と手をつなぎ未来へ」 提言者:みやぎ盲ろう児・者友の会 会長 小山 賢一(弱視難聴) 1.盲ろう者の困難と日常生活 ・目と耳の両方が不自由な盲ろう者は、@移動、Aコミュニケーション、B情報入手(受信)に複合的に困難を抱える。 ・目の前の状況も含めてリアルタイムで状況(情報)が把握できない、外部からの情報等が入りにくい、自力での移動が難しい、外部と連絡がとれない、自由にコミュニケーションがとれず意思伝達、意思疎通が難しいことは、日常社会生活でも災害時など有事の際も大きなバリア、リスクとなることがある。 ・見えない(見えにくい)、聞こえない(聞こえにくい)盲ろう者はコミュニケーション(意思疎通)も情報を受信して、理解し、考えて、行動するまでに、見えて聞こえる人の何倍もの時間と労力(エネルギー)を要する。(「盲ろう時間」への理解と配慮が必要) 2.東日本大震災の状況 ・東日本大震災発生時、直後に停電、防災無線が入らない(聞こえない)、強く長い揺れで身動きがとれない、固定電話も携帯電話もつながらない状況であった。 ・避難所生活では、特に自力での移動ができず、トイレに行きたい時に行けず困った。 ・プライベート空間がないままの数ヶ月の避難所生活は、常に誰かに見られているような感覚になり、自分の意思だけでは動けず、大きなストレスとなった。 ・見えない、聞こえにくい状況では周囲の状況も把握できず、周囲に声もかけにくかった。 ・情報通信網が断たれ、外部からの情報が入りにくかった。 ・新しい環境ではメンタルマップも失った。 3.新型コロナウィルス感染症発生後の生活 ・見えない未知なるウィルス、分からないことへの不安は、盲ろう者として物理的にも心理的にも動けなくなった。 ・「社会的距離(ソーシャルディスタンス)」の確保、「密集」「密接」「密閉」のいわゆる3密を避ける新しい生活様式は、見えない聞こえない盲ろう者には、「触れる」ことでコミュニケーションをとったり、情報を受けたり、通訳・介助の支援を受けるうえで「密接」や「接触」は避けられず、新たなバリアとなり、周囲や社会の理解を得ることに時間もかかった。 ・オンラインによる対応が増えてくると、必要な情報通信機器が利用できない盲ろう者は、社会や情報から引き離されるリスクもある。(盲ろう者には、直接対面によるコミュニケーションや情報が必要。) 4.盲ろう者としての活動のなかで ・盲ろう者は、その存在が社会にあまり知られていない。 ・盲ろう者と初めて関わる行政や事業者からは、「前例がない」「対応できかねる」などと言われることも多い。 ・盲ろうの障害や困難、必要とする合理的配慮や支援のニーズの説明にも理解を得るにも長い時間がかかる。 ・僻地在住の盲ろう者として活動するなかで、移動の制約も大きく、環境面や福祉サービスなども地域格差が非常に大きい。 ・宮城県の「障害を理由とする差別を解消し、障害のある人もない人も共生する社会づくり条例」の検討会に盲ろう当事者として関わり、条例に意見を反映してもらうことができた。 5.権利条約・パラレルレポート第11条に関連して ・日頃の生活のなかで、災害時や緊急時に自力での避難や安全確保、情報通信や連絡が自由にできない盲ろう者をはじめとする障害者や高齢者等が緊急・災害時に生き延びるために大切なことは次の5つである。 @お互いの存在や状況を知ること A当事者の情報受信方法に配慮した様々な形での情報提供 Bコミュニケーション(意思疎通)がとれる日頃からの関わり C情報や状況、支援のニーズの共有と変化への対応 D衣食住の生活のなかで地域や社会と関わり合っていくこと 6.権利条約で未来を拓く 新時代への提言と総括所見 ・障害者権利条約第24条第3項の(C)に「盲ろう」がしっかり明記され、この条約により、教育だけでなく、あらゆる分野においても、盲ろうが独自の障害種別として国際的に位置づけられている。 ・条約にもとづき、国内法でも「盲ろう」を独自の障害種別として位置づけられることが求められる。 ・国内法や各地域の条例も障害者権利条約と整合性をとり、リンクさせていく必要がある。 ・東日本大震災の被災体験から、必要とする人が、必要とした時に必要とした場所で、必要とした物や情報、人による支援や合理的配慮が受けられるようにニーズの把握と対応ができる社会システムづくりの必要性も感じる。 ・第三者ではなく、当事者の発信する機会の確保、当事者が直接関われるように法律や条例で、しっかり具現化していく必要もある。 ・自力での対応が難しい障害者にとって、人の力と情報と必要とするものをいかにタイムリーにつなげるかが重要である。 ・誰も取り残さない社会を目指し、障害当事者も「つなぐ」「つながる」「つなげる」活動を共にしていきたい。