資料 2

2011年6月22日

東日本大震災
宮城県における障害のある人たちの被災状況と
JDFみやぎ支援センターの活動

JDFみやぎ支援センター
事務局長 小野 浩

1.宮城県における障害のある人と障害者支援事業所の被災状況

(1)障害のある人の被災状況
 大震災発生から3ヵ月と1週間が経過した6月19日現在、東日本大震災による死亡者数は15,462人、未だ安否が確認されていない人は7,650人に及ぶ。そのうち、宮城県は9,251人の人が亡くなり、4,723人の安否が確認できていない。しかしこうした被災者のうち、障害のある人の被災状況を、宮城県ならびに市町村は把握していない。
 5月31日に開かれた宮城県主催の障害者団体・支援者団体との意見交換会では、宮城県が調査した県内障害者支援事業所の利用者・職員等の被災状況と事業所の被害状況が報告された。しかしその数字は、あくまでも障害者支援事業所を利用している利用者に限られたものであった(死亡15人、安否未確認7人)。
 死亡ならびに安否未確認を含む6月19日現在の被災者総数は13,974人であり、宮城県全体の対人口被災率は0.59%であり、津波被害の甚大だった沿岸部では1.14%だった。これらの人口比ならびに対人口被災率で、被災した障害のある人の人数を推計すると、被災者13,974人のうち、対人口比率の4.4%では614人となるが、対人口被災率で推計すると、県全体で82人、沿岸部では159人の被災が予測される。移動が困難なため津波の襲来から逃れることができなかった人や、津波警報を確認・認識することのできなかった障害のある人たちは確実に逃げ遅れたであろうことを想定すると、障害のある人の被災者数は、対人口被災率の推計を上回るのではないかと思われる。
 JDFみやぎ支援センターは、開設時から、宮城県や各市町村に協力を求めながら、在宅の障害のある人の被災・生活状況の把握に努めてきた。避難所・福祉避難所生活者ならびに在宅者を含めて、6月17日現在、1,386人の障害のある人と確認・対話し、必要な支援をおこなってきたが、未だ障害のある人の被災状況の全容は把握できていない。

●宮城県の人口・障害者数ならびに被災者数

  人口 障害者数 被災者(死亡、安否未確認)
人数 人口比 人数 対人口
被災率
宮城県 2,346,290人 103,892人 4.42% 13,974人 0.59%
沿岸部自治体 ※ 1,227,346人 53,511人 4.35% 1.14%

 ※ 仙台市沿岸部の人口等は、太白区、若林区、宮城野区

(2)障害者支援事業所の被災及び再開状況
 JDFみやぎ支援センターは、在宅の障害のある人の生活状況の把握と同時に、沿岸部を重点に、障害者支援事業所の被災状況についての調査をおこなった。第一次調査結果は、4月20日に、流失・焼失・全壊等30ヶ所を含めて93ヶ所の事業所が被災したことを公表した。
 この調査結果とともに、その後宮城県が電話による聞き取り調査をおこなったデータをもとに、6月から県内500ヶ所の障害者支援事業所の再開状況の調査をおこなった。
 500ヶ所の事業所のうち、損壊のなかった235ヶ所の事業所、ならびに軽微の損壊にとどまった227ヶ所の事業所の多くは、震災後の一定の時期に再開していた。また、それらの事業所のうち福祉避難所に指定された事業所もあるが、指定避難所や福祉避難所に入れない障害のある人たちの自主的な避難先にもなっていた事業所も少なくない。
 また、流失・焼失・全壊・半壊してしまった事業所は38ヶ所あり、そのうち、既存の建物を修繕して再開したところが15ヶ所、他の建物やプレハブ等を利用して再開した事業所は13ヶ所だった。
 しかし、閉鎖・再開のめどがたっていないところが10ヶ所あり、その事業内訳は、グループホーム・ケアホームが5ヶ所、児童デイサービスが2ヶ所、就労継続支援B型、就業・生活支援センター、地域活動支援センターが各1ヶ所だった。

2.JDFみやぎ支援センターの経過と活動状況

(1)経過
 JDFみやぎ支援センターは、3月30日に開設式をおこない、仙台ワークキャンパスに設置した。設置当初の仙台市内は、ガソリンや灯油不足などの震災後の混乱が続いており、すべてのガソリンスタンドや公衆浴場等も、翌日以降の整理券を配布している状態にあった。またスーパーマーケットは閉店しており、コンビニエンスストアが開店していても、まったく商品が陳列されていない状態のもとで活動を開始した。
 そのため、山形コロニーに継続したガソリン供給の支援を依頼し、それを燃料に、ガソリン携行缶・食糧・生活物資を、避難所指定を受けていない障害者支援事業所等に提供する活動から開始した。
 また宮城県保健福祉部障害福祉課は、3月30日の開設直後に、JDFみやぎ支援センターの紹介文書を発行し、すべての市町村行政に通知した(FAXが不通の自治体は直接届けた)。この紹介文書を受けて、JDFみやぎ支援センターは、各市町村行政を訪問し、支援センターの趣旨・目的を説明するとともに、避難所や在宅の障害のある人の生活状況、障害者支援事業所の情報等を収集した。
 避難所や障害者支援事業所を訪問し、障害のある人たちとその家族等への生活物資、福祉・介護用品等の提供と並行して、各市町村行政や専門機関に対して、在宅者の生活状況の把握と支援活動の協力を求めたが、地元行政との連携はきわめて困難であった。その要因は、巨大地震と大津波による被害が甚大であり、行政機能や組織が壊滅している自治体も多く、避難民への対応と支援に追われ、個別課題への対応が困難な自治体が多かったことがあげられる。
 そうしたなかにありながら、東松島市では、保健師との連携が可能になり、市内被災地の障害のある人たちの自宅・避難所訪問の調査を連携して実施した。またその延長線の活動として、同市内の障害のある人たちへのタクシー券配布を協力して実施した。そうした活動によって1,967人の障害者手帳所持者のうち、551人の確認と対話が可能になった。
 また山元町では、町社会福祉協議会と連携して、同社協運営の事業所の再開支援にとりくむことによって、避難所生活者との確認・対話をひろげることができた。
 さらに、気仙沼市や南三陸町への継続的な支援の必要性から、4月28日に、北部支援センターを登米市・若葉園に設置した。北部支援センターの設置に伴って、南三陸町の相談支援センター・障害者支援事業所の再開を支援することが可能になり、現在も継続的な支援をおこなっている。

(2)宮城県内の障害者団体、他団体との連携
 JDFみやぎ支援センターは、宮城県内のすべての障害者団体で構成する「被災障害者を支援するみやぎの会」と連携して活動を展開している。
 定期的な役員間の協議・調整をおこなうとともに、JDFみやぎ支援センターと被災障害者を支援する会との共催で、これまで3回の「情報交換会」を開催し、各障害者団体会員の被災状況や必要な支援活動についての情報交換をおこない、今後の生活再建・復興計画にむけての意見交換をおこなっている。
 また被災障害者を支援する会に参加している障害当事者団体の安否未確認会員の状況把握などをJDFみやぎ支援センターとして協力してきた。
 さらに居宅支援事業者の「たすけっと」を拠点に活動している「ゆめ風基金」とは、情報交換・支援活動の連携などの協力関係を構築してきた。

(3)現在の活動状況
JDFみやぎ支援センターは、現在、以下のような活動を展開している。
@みやぎ支援センター(本部・仙台市、第2福寿園)
●石巻市・女川町の障害のある人が生活している避難所の「定期巡回訪問」(4コース)
・各避難所で暮らしている障害当事者の生活状況を把握しながらの継続的支援
・避難所担当者、リーダー、保健師、地域の相談支援センター等と情報交換と連携
●山元町社会福祉協議会運営の障害者支援事業所への継続支援
・職員欠員状態の作業所の日常活動の継続支援と利用者の仮設住宅への転居支援
●名取市の障害者支援事業所の再開支援(終了)
●東松島市の障害者支援事業所への継続支援と生活支援センターとの連携
・職員欠員状態の作業所の日常活動の継続支援
・生活支援センターとの連携による避難生活者への支援
●在宅の精神障害のある人への訪問相談支援(仙台市、名取市)
●避難所からの仮設住宅への転居支援(生活物資の確保、仮設への転居など)
●未再開の障害者支援事業所、また再開後に困難を抱えている事業所への訪問・支援

A北部支援センター(登米市、若葉園)
●南三陸町の相談支援センター・障害者支援事業所の再開・継続支援
・相談支援センターの相談活動の支援
・障害当事者の通院・入浴のための移動支援
・障害者支援事業所の活動・送迎支援
●石巻市の障害者支援事業所への継続支援
●気仙沼市の生活支援センターと連携した物資提供
●登米市の生活支援センターの相談業務の支援
・南三陸町等からの600人の避難者の中の障害のある人への相談・生活支援
●未再開の障害者支援事業所、また再開後に困難を抱えている事業所への訪問・支援

3.今後の課題

(1)県・市町村の復興計画の策定
 宮城県に限らず、東北の被災地は、いまなお復興に程遠い実態にある。とくに津波によって甚大な被害を受けた被災地は、地盤沈下による満潮時の冠水、回収したガレキの放置、放置されたガレキ・ゴミの腐敗物からの大量の害虫発生、電気・給排水等のライフラインの未整備、仮設住宅の不足と不備など、生活基盤の復旧・復興はきわめて遅れている。 障害分野では、未だに障害のある人の被災や生活状況の把握が立ち遅れていることが大きな問題点である。また公共交通機関が壊滅してしまった被災地域では、障害のある人の移動手段が断たれてしまった状態にある。たとえ仮設住宅が整備されても、その地域に、居宅支援事業者や就労支援の事業者が皆無であれば、自立した生活は不可能である。
 一方、宮城県や仙台市は、すでに復興計画のマスタープランを策定し、2011年度中に計画策定する予定である。マスタープランには、障害に関連した項目はあるものの、福祉施策の一部にとどまっている。こうした傾向は、障害に限らず高齢者や子ども施策においても同様と思われる。また復興計画は、あくまでも地方自治法上では、自治体の「基本計画」にとどまるもので、予算編成の根拠となる「実施計画」には位置づけられていない。
 まして壊滅的な被害を被った自治体担当者は、「障害問題も、避難住民全体の問題の一つとして捉えている」と説明している。多くの住民や行政担当者も被災者であるため、その説明は間違いではない。しかし「全体の課題の一つ」とすることによって、結果として障害施策が「置き去り」や「後回し」にされてしまいかねないことは十分危惧される。
 復興は、震災前の生活・経済基盤や地域コミュニティを取り戻すことでもあるが、「震災以前よりも住みよいまちづくり」が求められる。つまり、復興計画ならびに実施計画を策定するにあたっては、障害者権利条約が提唱する「誰もが、わけへだてなく、支えないつながり合える社会」をつくる視点は欠かせない。そのためにも、障害当事者や社会的な支援が必要な人たちが参画した復興計画づくりをすすめることが求められる。

(2)当面する課題と今後の支援活動
 生活再建・復興計画に障害施策を反映させる政策づくりと運動は、被災地の障害者団体の使命であり、課題である。JDFみやぎ支援センターの負うべき課題ではない。しかしながら現状では、未だに避難所生活を余儀なくされ、支援やサービスの届かない障害のある人たちが多く存在している。また津波被災地で移動、活動、余暇などを支援する事業者も職員不足や場の喪失などの課題を負っている。
 その結果、JDFみやぎ支援センターの活動は、6月末を目安としていたが、「自らの力で立ち上がる目途が見えてきた時期」が、支援活動を収束する時期ではないかと考える。そのため、しばらく一定の期間の支援活動の延長が求められる。
 その際、国や県の強力なイニシアチブによって、在宅の障害のある人たちの生活状況の把握は急務である。また、JDFの支援活動に対して、改めて厚労省による正式な紹介とともに、災害援助費等を含めた公費による助成が求められる。

4.JDFみやぎ支援センターの体制と組織

 3月30日の開設以来、北は北海道から南は沖縄まで、延べ400人のスタッフが支援活動に参加している。またJDFとして設置したことによって、さまざまな障害団体からスタッフが派遣され、障害や団体の種別を超えた活動を展開してきた。
 JDFみやぎ支援センターは、以下のような体制で運営している。

JDF被災障害者支援総合対策本部

          |

みやぎ支援センター(敬称略)
●代表 阿部 一彦
(被災障害者を支援するみやぎの会 代表)
●センター責任者 株木 孝尚
(被災障害者を支援するみやぎの会)

      (連携)|

被災障害者を支援するみやぎの会
宮城県内のすべての障害者団体で構成。

(1)みやぎ支援センター本部
●センター事務局長
支援センター及び北部支援センターの運営・管理実務の統轄、渉外を担当
●事務局次長
週単位の活動目標・計画(訪問、支援活動等)の「活動計画」「ニーズ確認表」を作成
●事務局員
@支援員・車両管理・会計担当(1名)
 支援員の登録・写真撮り、車両登録・緊急車両登録申請、支援員の宿泊・食事・入浴等の生活管理、会計
Aニーズ対応担当(2名)
 訪問調査、電話相談等から発生したニーズを把握し、人的支援・物資を手配し、提供スケジュールの確立
B活動記録管理・広報担当(2名)
 訪問聞き取り・電話聞き取り等の調査をもとに「聞き取り調査集計表」へのデータ入力。「聞き取り票」からニーズを把握し「ニーズ対応」に申し送り。訪問調査・支援活動の「活動記録」の作成と支援センターニュース「ゆい」の作成
●支援員
JDF加盟団体からの派遣職員によってチーム編成し訪問調査・支援活動にとりくむ。

(2)みやぎ北部支援センター(サテライト)
●北部センター事務局長
北部支援センターの運営及び対象地域の渉外を担当
●事務局次長
相談支援センターならびに障害者支援事業所の常駐担当(2名)
●事務局員
支援員、事務及び本部への連絡担当
●支援員
JDF加盟団体からの派遣職員によってチームを編成し、訪問調査・支援活動にとりくむ。

(添付資料)
@宮城県 障害福祉団体等との意見交換会 資料
A宮城県ならびに津波被災地域の障害者数と避難所等における確認・対話人数
C宮城県 障害者支援事業所別被災及び再開状況一覧
D障害保健福祉関係主管課長会議資料(6月30日)