障害のある人の権利に関する条約
前文
この条約の締約国は、
(a) 世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものとして、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利を認める国際連合憲章において宣明された原則を想起し、
(b) 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人はいかなる区別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、
(c) すべての人権及び基本的自由の普遍性、不可分性、相互依存性及び相互関係性並びに障害のある人に対してすべての人権及び基本的自由の差別のない完全な享有を保障する必要性を改めて確認し、
(d) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、子どもの権利に関する条約並びにすべての移住労働者及びその家族構成員の権利保護に関する国際条約を想起し、
(e) 障害(ディスアビリティ)が形成途上にある概念であること、並びに障害が機能障害(インペアメント)のある人と態度上及び環境上の障壁との相互作用であって、それらの者が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものから生じることを認め、
(f) 障害者に関する世界行動計画及び障害のある人の機会均等化に関する基準規則に含まれる原則及び政策指針が、障害のある人の機会を一層平等化するための国内的、地域的及び国際的な政策、立案、計画及び行動の促進、形成及び評価に影響を与えるに当たり重要であることを認め、
(g) 持続可能な開発の関連戦略の不可分の一部として障害問題の主流化が重要であることを強調し、
(h) また、いかなる人に対しても障害に基づく差別は人間の固有の尊厳を侵害するものであることを認め、
(i) 更に、障害のある人の多様性を認め、
(j) 障害のあるすべての人(一層集中的な支援を必要とする人を含む。)の人権を促進し及び保護する必要性を認め、
(k) これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、世界のすべての地域において、社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に障害のある人が依然として直面していることを憂慮し、
(l) あらゆる国特に開発途上国における障害のある人の生活状況を改善するために国際協力が重要であることを認め、
(m) 地域社会(コミュニティ)の全般的な福利及び多様性への障害のある人の貴重な既存の及び潜在的な貢献を認め、更に、障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、障害のある人の帰属意識が高められること、並びに社会の人間的、社会的及び経済的開発並びに貧困の根絶に多大な前進がもたらされることを強調し、
(n) 障害のある人にとって、その個人の自律及び自立(自ら選択を行う自由を含む。)が重要であることを認め、
(o) 障害のある人が、政策及び計画(障害のある人に直接的に関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定過程に積極的に関与する機会を有するべきであることを考慮し、
(p) 人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的、先住的若しくは社会的出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害のある人の困難な状況を憂慮し、
(q) 障害のある女性及び少女が、家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取を度々受ける危険に一層さらされていることを認め、
(r) 障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、すべての人権及び基本的自由を完全に享有すべきであることを認め、また、このために子どもの権利に関する条約の締約国により約束された義務を想起し、
(s) 障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力にジェンダーの視点を組み込む必要があることを強調し、
(t) 障害のある人の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、これに関しては、障害のある人に対する貧困の負の影響に取り組むことが必須であることを認め、
(u) 国際連合憲章に含まれる目的及び原則の完全な尊重に基づく平和及び安全の条件並びに適用のある人権文書の遵守が、障害のある人、特に武力紛争下及び外国の占領下の障害のある人の完全な保護に不可欠であることを想起し、
(v) 障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たり、物理的、社会的及び経済的環境のアクセシビリティ、保健及び教育のアクセシビリティ並びに情報及びコミュニケーションのアクセシビリティが重要であることを認め、
(w) 個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと並びに国際人権章典において認められる権利の促進及び遵守のために努力する責任を有することを認識し、
(x) 家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であり、かつ、社会及び国による保護を受ける権利を有すること、また、障害のある人及びその家族の構成員が、障害のある人の権利の完全かつ平等な享有に家族が貢献することを可能とするための必要な保護及び援助を受けるべきであることを確信し、
(y) 開発途上国及び先進国の双方において、障害のある人の権利及び尊厳を促進し及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約が、障害のある人の著しく社会的に不利な立場を是正することに重要な貢献をすること、並びに市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野への障害のある人の平等な機会を伴った参加を促進することを確信して、
次のとおり協定した。
第1条 目的
この条約は、障害のあるすべての人によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し及び確保すること、並びに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。
障害(ディスアビリティ)のある人には、種々の障壁との相互作用により、他の者との平等を基礎とした社会への完全かつ効果的な参加を妨げることのある、長期の身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害(インペアメント)のある人を含む。
第2条 定義
この条約の適用上、
「コミュニケーション」には、筆記、音声、簡単な言葉、朗読者及び拡大・代替コミュニケーションの様式、手段及び形態(アクセシブルな情報コミュニケーション機器を含む。)とともに、言語、文字表示、点字、触覚コミュニケーション、拡大文字及びアクセシブルなマルチメディアを含む。
「言語」には、音声言語、手話及び他の形態の非音声言語を含む。
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、合理的配慮を行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む。
「合理的配慮」とは、特定の場合において必要とされる、障害のある人に対して他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。
「ユニバーサルデザイン」とは、改造又は特別な設計を必要とすることなしに、可能な最大限の範囲内で、すべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計(デザイン)をいう。「ユニバーサルデザイン」は、特定の範囲の障害のある人のための支援装置が必要とされる場合には、これを排除してはならない。
第3条 一般的原則
この条約の原則は、次のものとする。
(a) 固有の尊厳、個人の自律(自ら選択を行う自由を含む。)及び人の自立の尊重
(b) 非差別
(c) 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン
(d) 差異の尊重、並びに人間の多様性及び人間性の一部としての障害のある人の受容
(e) 機会の平等
(f) アクセシビリティ
(g) 男女の平等
(h) 障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重、及び障害のある子どもがそのアイデンティティを保持する権利の尊重
第4条 一般的義務
1 締約国は、障害に基づくいかなる種類の差別もない、障害のあるすべての人のためのすべての人権及び基本的自由の完全な実現を確保し及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。
(a) この条約において認められる権利を実施するためにすべての適切な立法措置、行政措置その他の措置をとること。
(b) 障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む。)をとること。
(c) すべての政策及び計画において障害のある人の人権の保護及び促進を考慮すること。
(d) この条約に合致しないいかなる活動又は行為をも差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従い行動することを確保すること。
(e) いかなる個人、団体又は民間企業による障害に基づく差別をも撤廃するためのすべての適切な措置をとること。
(f) 第2条に定義するすべての人向けに設計された物品、サービス、備品及び設備であって、障害のある個人に特有の必要を満たし、障害のある人の利用可能性及び使用を促進し、かつ、基準及び指針の開発の際にユニバーサルデザインを促進するための可能な限り最低限の調整及び最小の費用を要すべきものを研究し及び開発することを開始し又は促進すること。
(g) 負担可能な費用の機器を優先させて、障害のある人に適した新機器(情報コミュニケーション機器、移動補助用具、装置及び支援機器を含む。)を研究し及び開発することを開始し又は促進すること、並びに当該新機器の利用可能性及び使用を促進すること。
(h) 移動補助用具、装置及び支援機器(新機器を含む。)に関する並びに他の形態の援助、支援サービス及び設備に関するアクセシブルな情報を障害のある人に提供すること。
(i) この条約において認められる権利により保障される支援及びサービスの提供を一層向上させるために、障害のある人と共に働いている専門家及び職員に対する当該権利に関する訓練を促進すること。
2 各締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、この条約に含まれる義務であって国際法に基づき即時的に適用されるものに違反しない限り、それらの権利の完全な実現を漸進的に達成するという観点から、自国における利用可能な資源の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で措置をとることを約束する。
3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策を発展させ及び実施するに当たり、並びに障害のある人と関連する事項に係る他の意思決定過程において、障害のある人(障害のある子どもを含む。)を代表する団体を通じて、障害のある人と緊密に協議し、かつ、障害のある人を積極的に関与させる。
4 この条約のいかなる規定も、締約国の法律又は締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって、障害のある人の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。この条約のいずれかの締約国において法律、条約、規則又は慣習によって認められ又は存する人権及び基本的自由については、この条約がそれらの権利若しくは自由を認めていないこと又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それらの権利及び自由を制限し又は逸脱してはならない。
5 この条約は、いかなる制限又は例外もなしに連邦国家のすべての地域について適用する。
第5条 平等及び非差別
1 締約国は、すべての人が法の前及び下において平等であり、かつ、いかなる差別もなしに法の平等な保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、また、障害のある人に対していかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な保護を保障する。
3 締約国は、平等を促進し及び差別を撤廃するため、合理的配慮が行われることを確保するためのすべての適切な行動をとる。
4 障害のある人の事実上の平等を促進し又は達成するために必要な特定の措置は、この条約に規定する障害に基づく差別と解してはならない。
第6条 障害のある女性
1 締約国は、障害のある女性及び少女が複合的な差別を受けていることを認め、また、これに関しては、障害のある女性及び少女によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を確保するための措置をとる。
2 締約国は、この条約に定める人権及び基本的自由の行使及び享有を女性に保障することを目的として、女性の完全な発展、地位の向上及びエンパワーメントを確保するためのすべての適切な措置をとる。
第7条 障害のある子ども
1 締約国は、障害のある子どもによる他の子どもとの平等を基礎としたすべての人権及び基本的自由の完全な享有を確保するためのすべての必要な措置をとる。
2 障害のある子どもに関するあらゆる活動において、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする。
3 締約国は、障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、自己に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を有することを確保する。この場合において、障害のある子どもの意見は、その年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとする。締約国は、また、障害のある子どもが当該権利を実現するための支援であって障害及び年齢に適したものを提供される権利を有することを確保する。
第8条 意識向上
1 締約国は、次のための即時的、効果的かつ適切な措置をとることを約束する。
(a) 障害のある人に関する社会全体(家族を含む。)の意識の向上、並びに障害のある人の権利及び尊厳の尊重の育成
(b) あらゆる生活領域における障害のある人に関する固定観念、偏見及び有害慣行(性及び年齢に基づくものを含む。)との闘い
(c) 障害のある人の能力及び貢献に関する意識の促進
2 このため、締約国がとる措置には次のことを含む。
(a) 次のことのために計画された効果的な公衆向けの意識向上キャンペーンを開始し及び維持すること。
(i) 障害のある人の権利の受容を育むこと。
(ii) 障害のある人に対する肯定的認識及び一層大きな社会的意識を促進すること。
(iii) 障害のある人の技能、功績及び能力並びに職場及び労働市場への貢献についての認識を促進すること。
(b) 教育制度のあらゆる段階(幼年期からのすべての子どもの教育制度を含む。)において、障害のある人の権利を尊重する態度を育成すること。
(c) すべてのメディア機関が、この条約の目的に合致するように障害のある人を描写することを奨励すること。
(d) 障害のある人及びその権利に関する意識向上のための訓練計画を促進すること。
第9条 アクセシビリティ
1 締約国は、障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、都市及び農村双方において、物理的環境、輸送機関、情報及びコミュニケーション(情報コミュニケーション機器及びシステムを含む。)並びに公衆に開かれた又は提供される他の設備及びサービスへのアクセスを確保するための適切な措置をとる。このような措置は、アクセシビリティにとっての妨害物及び障壁を明らかにし及び撤廃することを含むものとし、特に次に対して適用する。
(a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内外の設備(学校、住居、医療設備及び職場を含む。)
(b) 情報サービス、コミュニケーション・サービスその他のサービス(電子サービス及び救急サービスを含む。)
2 締約国は、また、次のことのための適切な措置をとる。
(a) 公衆に開かれた又は提供される設備及びサービスのアクセシビリティに関する最低限度の基準及び指針の実施を発展させ、公表し及び監視すること。
(b) 公衆に開かれた又は提供される設備及びサービスを提供する民間主体が、障害のある人に係るアクセシビリティのあらゆる側面を考慮することを確保すること。
(c) 障害のある人が直面するアクセシビリティに係る事項についての訓練をすべての関係者に提供すること。
(d) 公衆に開かれた建物その他の設備において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形態の表示を提供すること。
(e) 公衆に開かれた建物その他の設備のアクセシビリティを容易にするためのライブ・アシスタンス(人又は動物による支援)の諸形態及び媒介者のサービス(ガイド、朗読者及び専門職の手話通訳者を含む。)を提供すること。
(f) 情報への障害のある人のアクセスを確保するため、障害のある人に対する他の適切な形態の援助及び支援を促進すること。
(g) 障害のある人が新たな情報コミュニケーション機器及システム(インターネットを含む。)にアクセスすることを促進すること。
(h) 早期の段階において、アクセシブルな情報コミュニケーション機器及びシステムに関する設計、開発、生産及び分配を、それらを最小の費用でアクセシブルにするようにして促進すること。
第10条 生命に対する権利
締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを改めて確認し、また、障害のある人が他の者との平等を基礎として当該権利を効果的に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。
第11条 危険のある状況及び人道上の緊急事態
締約国は、国際法、特に国際人道法及び国際人権法に基づく義務に従い、危険のある状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生の状況を含む。)における障害のある人の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置をとる。
第12条 法の前における平等な承認
1 締約国は、障害のある人が、すべての場所において、法の前に人として認められる権利を有することを改めて確認する。
2 締約国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。
3 締約国は、障害のある人がその法的能力を行使するに当たり必要とする支援への障害のある人のアクセスを提供するための適切な措置をとる。
4 締約国は、国際人権法に従い、法的能力の行使に関連するすべての措置が濫用を防止するための適切かつ効果的な保護を定めることを確保する。当該保護は、法的能力の行使に関連する措置が個人の権利、意思及び選択を尊重し、利益相反及び不当な影響を生じさせず、個人の状況に比例し及び適合し、可能な限り最も短い期間適用し、並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査に従うことを確保しなければならない。当該保護は、そのような措置が個人の権利及び利益に影響を及ぼす程度に比例したものでなければならない。
5 この条の規定に従うことを条件として、締約国は、財産の所有又は相続についての、自己の財務管理についての並びに銀行貸付、抵当その他の形態の金融上の信用への平等なアクセスについての障害のある人の平等な権利を確保するためのすべての適切かつ効果的な措置をとる。締約国は、また、障害のある人がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。
第13条 司法へのアクセス
1 締約国は、障害のある人がすべての法的手続(調査段階その他の予備段階のものを含む。)において、直接及び間接の参加者(証人を含む。)として効果的な役割を果たすことを容易にするため、障害のある人に対して他の者との平等を基礎とした司法への効果的なアクセス(手続上の及び年齢に適した配慮の提供を通じたものを含む。)を確保する。
2 障害のある人のための司法への効果的なアクセスの確保を助長するため、締約国は、司法運営の分野に携わる者(警察官及び刑務官を含む。)に対する適切な訓練を促進する。
第14条 身体の自由及び安全
1 締約国は、次のことを確保する。
(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。
(b) 障害のある人が他の者との平等を基礎として自由を不法に又は恣意的に奪われないこと、いかなる自由も法律で定めることなしに奪われないこと、並びにいかなる場合においても障害の存在により自由の剥奪が正当化されないこと。
2 締約国は、障害のある人が、いかなる手続を通じても自由を奪われた場合には、他の者との平等を基礎として国際人権法による保障を受ける権利を有すること、並びにこの条約の趣旨及び原則に従い取り扱われること(合理的配慮を行うことによるものを含む。)を確保する。
第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
1 何人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。特に、何人も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。
2 締約国は、障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを、他の者との平等を基礎として防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
1 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待(それらのジェンダーに基づく側面を含む。)から家庭の内外で障害のある人を保護するためのすべての適切な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。
2 締約国は、また、特に、障害のある人並びにその家族及び介助者に対する適切な形態のジェンダー及び年齢に敏感な援助及び支援を確保することにより、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防止するためのすべての適切な措置(暴力及び虐待の事件を防止し、認識し及び報告する方法に関する情報及び教育の提供を通じたものを含む。)をとる。締約国は、保護サービスが年齢、ジェンダー及び障害に敏感であることを確保する。
3 あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、締約国は、障害のある人のために設けられたすべての設備及び計画が独立の当局により効果的に監視されることを確保する。
4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待による被害者である障害のある人の身体的、認知的及び心理的な回復、リハビリテーション及び社会復帰を促進するためのすべての適切な措置(保護サービスの提供を通じたものを含む。)をとる。このような回復及び復帰は、障害のある人の健康、福祉、自尊心、尊厳及び自律を育成し並びにジェンダー及び年齢に特有の必要を考慮に入れる環境において行われなければならない。
5 締約国は、障害のある人に対する搾取、暴力及び虐待の事例が発見され、調査され、かつ、適切な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策(女性及び子どもに焦点を合わせた法令及び政策を含む。)を定める。
第17条 個人のインテグリティの保護
障害のあるすべての人は、他の者との平等を基礎として、その身体的及び精神的なインテグリティを尊重される権利を有する。
第18条 移動の自由及び国籍
1 締約国は、他の者との平等を基礎として、移動の自由、居所を選択する自由及び国籍についての障害のある人の権利を認める。このため、締約国は、特に次のことを確保する。
(a) 障害のある人が、国籍を取得し及び変更する権利を有し、かつ、その国籍を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。
(b) 障害のある人が、国籍に係る文書若しくは他の身元に係る文書を入手し、所有し及び利用する能力、又は移動の自由についての権利の行使を容易にするために必要とされることのある関連手続(出入国手続等)を行う能力を、障害を理由として奪われないこと。
(c) 障害のある人が、いずれの国(自国を含む。)からも離れる自由を有すること。
(d) 障害のある人が、自国に入国する権利を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。
2 障害のある子どもは、出生の後直ちに登録される。障害のある子どもは、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその親を知りかつその親によって養育される権利を有する。
第19条 自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージョン
この条約の締約国は、障害のあるすべての人に対し、他の者と平等な選択の自由を有しつつ地域社会で生活する平等な権利を認め、また、障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適切な措置をとる。このため、締約国は、特に次のことを確保する。
(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として居住地及びどこで誰と住むかを選択する機会を有し、かつ、特定の生活様式で生活することを義務づけられないこと。
(b) 障害のある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会の支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセスすること。
(c) 一般住民向けの地域社会のサービス及び設備が、障害のある人にとって平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人の必要に応ずること。
第20条 個人の移動性(モビリティ)
締約国は、障害のある人の最大限可能なまで自立した個人の移動性を確保するための効果的な措置をとる。このため、締約国は、特に次のことを行う。
(a) 障害のある人が選択する方法で及び時に、かつ、負担可能な費用で、障害のある人の個人の移動性を容易にすること。
(b) 質の高い、移動補助用具、装置、支援機器、ライブ・アシスタンス(人又は動物による支援)の諸形態及び媒介者への障害のある人のアクセスを、特にそれらを負担可能な費用で利用可能にすることにより容易にすること。
(c) 障害のある人に対し及び障害のある人と共に働いている専門職員に対し、移動技能の訓練を提供すること。
(d) 移動補助用具、装置及び支援機器を生産する主体が、障害のある人の移動性のあらゆる側面を考慮するよう奨励すること。
第21条 表現及び意見の自由、並びに情報へのアクセス
締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、自ら選択するあらゆる形態のコミュニケーション(第2条に定義するもの)を通じて、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる。このため、締約国は、特に次のことを行う。
(a) 障害のある人に対し、適時にかつ追加の費用の負担なしに、アクセシブルな形式で、かつ、異なる種類の障害に適応した機器を用いて、公衆向けの情報を提供すること。
(b) 公の対話において、手話、点字、拡大・代替コミュニケーション、並びに障害のある人が自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、様式及び形態を用いることを承諾し及び容易にすること。
(c) 公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体が、障害のある人のために情報及びサービスをアクセシブルかつ使用可能な形式で提供するよう勧奨すること。
(d) マス・メディア(インターネットにより情報を提供する者を含む。)が、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルにするよう奨励すること。
(e) 手話の使用を承認し及び促進すること。
第22条 プライバシーの尊重
1 障害のあるいかなる人も、居住地又は生活様式にかかわらず、そのプライバシー、家族、家庭、通信その他の形態のコミュニケーションについて恣意的に若しくは不法に干渉され、又は名誉及び信用を不法に攻撃されることはない。障害のある人は、こうした干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
2 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の個人情報、健康情報及びリハビリテーション情報に係るプライバシーを保護する。
第23条 家庭及び家族の尊重
1 締約国は、他の者との平等を基礎として、婚姻、家族、親子関係及び親族関係に係るすべての事項に関し、障害のある人に対する差別を撤廃するための効果的かつ適切な措置をとるものとし、また、次のことを確保する。
(a) 婚姻をすることのできる年齢の障害のあるすべての人に対し、両当事者の自由かつ完全な合意に基づいて婚姻をし及び家族を形成する権利が認められること。
(b) 障害のある人に対し、子どもの数及び出産間隔について自由にかつ責任をもって決定する権利、並びにその年齢に適した仕方で生殖・出産及び家族計画に関する情報及び教育にアクセスする権利が認められること。また、障害のある人に対し、これらの権利を行使することを可能とするために必要な手段が提供されること。
(c) 障害のある人(障害のある子どもを含む。)が他の者との平等を基礎として生殖能力を保持すること。
2 締約国は、子どもの後見、監督、管財、養子縁組又は国内法令にこれらに類する制度が存在する場合にはその制度についての障害のある人の権利及び責任を確保する。あらゆる場合において、子どもの最善の利益は至上である。締約国は、障害のある人が子どもの養育についての責任を遂行するに当たり、その者に対し適切な援助を与える。
3 締約国は、障害のある子どもが家族生活に関し平等の権利を有することを確保する。この権利を実現するため並びに障害のある子どもの隠匿、遺棄、放置及び隔離を防止するため、締約国は、障害のある子ども及びその家族に対して早期の及び包括的な情報、サービス及び支援を提供することを約束する。
4 締約国は、子どもがその親の意思に反してその親から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が、司法の審査に従うことを条件として、適用のある法律及び手続に従い、その分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。いかなる場合であっても、子どもは、その子どもの障害又は一方若しくは両方の親の障害を理由として親から分離されない。
5 締約国は、直近の家族が障害のある子どもを監護することができない場合には、一層大きな範囲の家族の中で、また、それがないときは地域社会の中の家庭的な環境で、代替的な監護を提供するためのすべての努力を行うことを約束する。
第24条 教育
1 締約国は、教育についての障害のある人の権利を認める。この権利を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、締約国は、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度及び生涯学習であって、次のことに向けられたものを確保する。
(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する意識を十分に開発すること、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
(b) 障害のある人が、その人格、才能、創造力並びに精神的及び身体的な能力を最大限度まで発達させること。
(c) 障害のある人が、自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。
2 この権利を実現するため、締約国は、次のことを確保する。
(a) 障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、並びに障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと。
(b) 障害のある人が、自己の住む地域社会において、他の者との平等を基礎として、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること。
(c) 個人の必要に応じて合理的配慮が行われること。
(d) 障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要とする支援を一般教育制度内で受けること。
(e) 完全なインクルージョンという目標に則して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置が提供されること。
3 締約国は、障害のある人が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするための生活技能及び社会性の発達技能を習得することを可能としなければならない。このため、締約国は、次のことを含む適切な措置をとる。
(a) 点字、代替的筆記文字、拡大・代替コミュニケーションの様式、手段及び形態、並びに歩行技能の習得を容易にすること、並びにピア・サポート及びピア・メンタリングを容易にすること。
(b) 手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること。
(c) 盲、ろう又は盲ろうの人(特に子ども)の教育が、その個人にとって最も適切な言語並びにコミュニケーションの様式及び手段で、かつ、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境で行われることを確保すること。
4 この権利の実現を確保することを助長するため、締約国は、手話又は点字についての適格性を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用するための並びに教育のすべての段階において教育に従事する専門家及び職員に対する訓練を行うための適切な措置をとる。その訓練には、障害への認識、適切な拡大・代替コミュニケーションの様式、手段及び形態の使用、並びに障害のある人を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れなければならない。
5 締約国は、障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、一般の高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習にアクセスすることができることを確保する。このため、締約国は、障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保する。
第25条 健康
締約国は、障害のある人が障害に基づく差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有することを認める。締約国は、ジェンダーに敏感な保健サービス(保健関連のリハビリテーションを含む。)への障害のある人のアクセスを確保するためのすべての適切な措置をとる。特に、締約国は、次のことを行う。
(a) 障害のある人に対し、他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の無償の又は負担可能な費用の保健サービス(性及び生殖に関する保健分野のサービス、並びに地域社会の公衆衛生計画を含む。)を提供すること。
(b) 障害のある人がその障害に特有な理由により必要とする保健サービス(適切な場合には早期発見及び早期治療を含む。)、並びに更なる障害(特に子ども及び高齢者の障害を含む。)を最小化し及び予防するためのサービスを提供すること。
(c) これらのサービスを、障害のある人自身が属する地域社会(農村地域を含む。)に可能なかぎり近くで提供すること。
(d) 保健の専門家に対し、特に、十分な説明に基づく自由な同意を得た上で、他の者と同一の質のケアを障害のある人に提供するよう要請すること。このため、締約国は、特に、障害のある人の人権、尊厳、自律及び必要への職員の意識を高めるように、公的及び私的な保健部門に対する訓練活動及び職業倫理規則の普及を行う。
(e) 公正かつ合理的な方法で提供されなければならない健康保険及び、生命保険を国内法が認めるときは、生命保険の提供に当たり、障害のある人に対する差別を禁止すること。
(f) ヘルス・ケア、保健サービス又は食料及び飲料の提供が障害に基づいて差別的に拒否されることを防止すること。
第26条 ハビリテーション及びリハビリテーション
1 締約国は、障害のある人が、最大限の自立、十分な身体的、精神的、社会的及び職業的な能力、並びに生活のあらゆる側面への完全なインクルージョン及び参加を達成しかつ維持することを可能とするための効果的かつ適切な措置(ピア・サポートを通じたものを含む。)をとる。このため、締約国は、特に、保健、雇用、教育及び社会サービスの分野において、包括的なハビリテーション及びリハビリテーションのサービス及び計画を、次のように組織し、強化し及び拡張する。これらのサービス及び計画は、
(a) 可能な限り最も早い段階で開始され、かつ、個人の必要及び長所に関する学際的な評価に基づく。
(b) 地域社会及び社会のあらゆる側面への参加及びインクルージョンを支援し、任意的に受け入れられ、かつ、障害のある人自身の属する地域社会(農村地域を含む。)に可能なかぎり近くで利用可能である。
2 締約国は、ハビリテーション及びリハビリテーションのサービスに従事する専門家及び職員に対する初期訓練及び継続訓練を充実させることを促進する。
3 締約国は、障害のある人のために設計された支援装置及び支援機器の利用可能性、知識及び使用であって、ハビリテーション及びリハビリテーションと関連するものを促進する。
第27条 労働及び雇用
1 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の労働の権利を認める。この権利には、障害のある人にとって、開かれた、インクルーシブで、かつ、アクセシブルな労働市場及び労働環境において、障害のある人が自由に選択し又は引き受けた労働を通じて生計を立てる機会についての権利を含む。締約国は、特に次のことのための適切な行動(立法措置を通じたものを含む。)をとることにより、雇用の過程で障害を持った者を含む障害のある人のために労働の権利の実現を保障し及び促進する。
(a) あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全で健康的な労働条件を含む。)に関し、障害に基づく差別を禁止すること。
(b) 他の者との平等を基礎として、公正かつ良好な労働条件(平等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬、ハラスメントからの保護を含む安全で健康的な作業条件、並びに苦情処理を含む。)についての障害のある人の権利を保護すること。
(c) 他の者との平等を基礎として、障害のある人が労働の権利及び労働組合の権利を行使することができることを確保すること。
(d) 障害のある人が、一般の技術指導計画、職業指導計画、職業紹介サービス、職業訓練及び継続訓練に効果的にアクセスすることを可能とすること。
(e) 労働市場における障害のある人の雇用機会及び昇進、並びに職業を求め、それに就き、それを継続し及びそれに復帰する際の支援を促進すること。
(f) 自営の機会、起業の機会、協同組合の結成及び自己の事業を起こす機会を促進すること。
(g) 公的部門において障害のある人を雇用すること。
(h) 積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション計画)、奨励制度その他の措置を含むことのある適切な政策及び措置を通じて、民間部門における障害のある人の雇用を促進すること。
(i) 職場において障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保すること。
(j) 障害のある人が開かれた労働市場において労働経験を習得することを促進すること。
(k) 障害のある人の職業リハビリテーション及び専門リハビリテーション、職業維持並びに職場復帰の計画を促進すること。
2 締約国は、障害のある人が奴隷状態又は隷属状態に置かれず、かつ、強制的又は義務的労働から他の者との平等を基礎として保護されることを確保する。
第28条 十分な生活水準及び社会保護
1 締約国は、自己及びその家族の十分な生活水準(十分な食料、衣類及び住居を含む。)についての並びに生活条件の不断の改善についての障害のある人の権利を認め、また、この権利を障害に基づく差別なしに実現することを保障し及び促進するための適切な行動をとる。
2 締約国は、社会保護についての障害のある人の権利、及びこの権利を障害に基づく差別なしに享有することについての障害のある人の権利を認め、また、その権利の実現を保障し及び促進するための適切な行動をとる。これには次の措置を含む。
(a) 清浄な水への障害のある人の平等なアクセスを確保するための措置、並びに障害と関連のある必要に係る適切かつ負担可能なサービス、装置その他の支援へのアクセスを確保するための措置
(b) 社会保護計画及び貧困削減戦略への障害のある人、特に障害のある女性及び少女並びに障害のある高齢者のアクセスを確保するための措置
(c) 障害に関連した費用に係る国の援助(十分な訓練、カウンセリング、財政援助及びレスパイト・ケアを含む。)への貧困の状況下で生活している障害のある人及びその家族のアクセスを確保するための措置
(d) 公共の住宅供給計画への障害のある人のアクセスを確保するための措置
(e) 退職に関する給付及び計画への障害のある人の平等なアクセスを確保すること。
第29条 政治的及び公的活動への参加
締約国は、障害のある人に対して政治的権利及びこの権利を他の者との平等を基礎として享有する機会を保障するものとし、また、次のことを約束する。
(a) 特に次のことにより、障害のある人が、直接に又は自由に選んだ代表を通じて、他の者との平等を基礎として、政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害のある人が投票し及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。
(i) 投票の手続、設備及び用具が適切であること、アクセシブルであること並びに理解し及び利用しやすいことを確保すること。
(ii) 適切な場合には支援機器及び新機器の使用を容易にして、障害のある人が選挙及び国民投票において脅迫を受けずに秘密投票を通じて投票する権利、並びに障害のある人が選挙において立候補し、効果的に公職に就き及び政府のすべての段階においてすべての公務を遂行する権利を保護すること。
(iii) 選挙人としての障害のある人の意思の自由な表明を保障すること、及びこのため必要な場合には、障害のある人の要求に応じて、障害のある人自身により選ばれた者が投票する際に援助を与えること。
(b) 障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として政治に効果的かつ完全に参与することのできる環境を積極的に促進すること、並びに次を含む政治への障害のある人の参与を奨励すること。
(i) 国の公的又は政治的活動に関係のある非政府機関及び非政府団体への参加、並びに政党の活動及び運営への参加
(ii) 国際的、国内的、地域的及び地方的に障害のある人を代表するための障害のある人の団体の結成及びこれへの加入
第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
1 締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認め、また、次のことを確保するためのすべての適切な措置をとる。
(a) 障害のある人が、アクセシブルな形式を通じて、文化的作品へのアクセスを享受すること。
(b) 障害のある人が、アクセシブルな形式を通じて、テレビ番組、映画、演劇その他の文化的な活動へのアクセスを享受すること。
(c) 障害のある人が、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス等の文化的な興行又はサービスが行われる場所へのアクセスを享受し、また、可能な限度において国の文化的に重要な記念碑及び遺跡へのアクセスを享受すること。
2 締約国は、障害のある人が、自己の利益のためばかりではなく社会を豊かにするために、創造的、芸術的及び知的な潜在能力を育成し及び活用する機会を有することを可能とするための適切な措置をとる。
3 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法令が文化的作品への障害のある人のアクセスを妨げる不合理な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適切な行動をとる。
4 障害のある人は、他の者との平等を基礎として、その特有の文化的及び言語的なアイデンティティ(手話及びろう文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。
5 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とするため、締約国は、次のことのための適切な措置をとる。
(a) 障害のある人が、あらゆる段階における主流のスポーツ活動に可能な最大限の範囲内で参加することを奨励し及び促進すること。
(b) 障害のある人が障害特有のスポーツ及びレクリエーション活動を組織し、発展させ及びそれに参加する機会を有することを確保すること、並びにこのため適切な指導、訓練及び資源が他の者との平等を基礎として提供されることを奨励すること。
(c) 障害のある人が、スポーツ及びレクリエーション活動の開催地並びに観光地にアクセスすることを確保すること。
(d) 障害のある子どもが、遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツ活動(学校制度におけるこれらの活動を含む。)への参加に他の子どもと平等にアクセスすることを確保すること。
(e) 障害のある人が、レクリエーション、観光、余暇及びスポーツ活動の編成に責任を負う者及び団体によるサービスにアクセスすることを確保すること。
第31条 統計及びデータ収集
1 締約国は、この条約を実現するための政策を形成し及び実施することを可能とするための適切な情報(統計及び研究データを含む。)を収集することを約束する。この情報を収集し及び保存する過程は、
(a) 障害のある人のプライバシーの秘密及び尊重を確保するために法的に確立された保護(データ保護に関する法令を含む。)を遵守しなければならず、
(b) 人権及び基本的自由を保護する国際的に受け入れられた規範並びに統計の収集及び使用に関する倫理原則を遵守しなければならない。
2 この条の規定に従い収集された情報は、適切な場合には分類されなければならず、また、この条約に基づく締約国の実施の評価を助長するために並びに障害のある人がその権利を行使する際に直面する障壁を明らかにし及び当該障壁に取り組むために用いられなければならない。
3 締約国は、当該統計の普及に関する責任を引き受け、かつ、障害のある人及び他の者に対して当該統計のアクセシビリティを確保する。
第32条 国際協力
1 締約国は、この条約の目的及び趣旨を実現するための国内的な努力を支援するものとして国際協力及びその促進が重要であることを認め、また、これに関しては、国家相互間において、並びに適切な場合には国際的及び地域的な関係機関並びに市民社会特に障害のある人の団体と共同して、適切かつ効果的な措置をとる。このような措置には、特に次のことを含むことができる。
(a) 国際開発計画を含む国際協力が、障害のある人にとって、インクルーシブかつアクセシブルであることを確保すること。
(b) 特に、情報、経験、訓練計画及び最善の実践の交換及び共有を通じて、能力形成を容易にしかつ支援すること。
(c) 研究における並びに科学的及び技術的知識へのアクセスにおける協力を容易にすること。
(d) 特に、アクセシブルな支援機器へのアクセス及びその共有を容易にすることにより並びに技術移転を通じて、適切な場合には、技術援助及び経済援助を提供すること。
2 この条の規定は、この条約に基づく義務を履行する各締約国の義務に影響を及ぼすものではない。
第33条 国内的な実施及び監視(モニタリング)
1 締約国は、その組織体制に従い、この条約の実施に関連する事項を取り扱う1又は2以上の中心的機関を政府内に指定するものとし、また、多様な部門及び多様な段階における関連のある活動を容易にするための政府内の調整機関の設置又は指定を十分に考慮する。
2 締約国は、その法的及び行政的な制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した枠組み(適切な場合には、1又は2以上の独立した仕組みを含む。)を締約国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。その仕組みを指定し又は設ける場合には、締約国は、人権の保護及び促進のための国内機関の地位及び機能に関する原則を考慮に入れる。
3 市民社会、特に、障害のある人及び障害のある人を代表する団体は、監視の過程に関与し、かつ、完全に参加する。
第34条 障害のある人の権利に関する委員会
1 障害のある人の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、以下に定める任務を行う。
2 委員会は、この条約の効力発生の時は12人の専門家で構成する。委員会の委員は、追加の60番目の批准又は加入の後に6人追加するものとし、最大で18人を限度とする。
3 委員会の委員は、個人の資格で職務を遂行するものとし、また、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力及び経験を認められなければならない。締約国は、その候補者を指名する場合には、第4条3に定める規定を正当に考慮するよう招請される。
4 委員会の委員は、締約国により選出されるものとする。その選出に当たっては、委員の分配が地理的に衡平に行われること、異なる文明形態及び主要な法体系が代表されること、ジェンダーの釣合いがとれた代表にすること並びに障害のある専門家が参加することを考慮に入れる。
5 委員会の委員は、締約国会議の会合において、締約国により自国民の中から指名された者の名簿の中から秘密投票により選出される。この会合は、締約国の3分の2をもって定足数とする。この会合においては、出席しかつ投票する締約国の代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た者をもって委員会に選出された委員とする。
6 委員会の委員の最初の選挙は、この条約の効力発生の日の後6箇月以内に行うものとし、その後の選挙は、2年ごとに行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも4箇月前までに、締約国に対し、自国が指名する者の氏名を2箇月以内に提出するよう書簡で要請する。その後は、同事務総長は、指名された者のアルファべット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、この条約の締約国に送付する。
7 委員会の委員は、4年の任期で選出され、再指名された場合には、再選される資格を有する。ただし、最初の選挙において選出された委員のうち6人の委員(これらの委員は、最初の選挙の後直ちに、5に規定する会合において議長がくじで定めるものとする。)の任期は、2年で終了する。
8 委員会の6人の追加の委員の選挙は、この条の関連規定に従い、定期的な選挙の場において行うものとする。
9 委員会の委員が死亡し、辞任し又は他の理由により自己の職務を遂行することができなくなった旨を宣言した場合には、当該委員を指名した締約国は、当該委員の残任期間中その職務を遂行する他の専門家で、この条の関連規定に定められた資格を有しかつ要件を満たす者を任命する。
10 委員会は、手続規則を定める。
11 国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供するものとし、また、委員会の最初の会合を招集する。
12 この条約に基づいて設置する委員会の委員は、国際連合総会が委員会の任務の重要性を考慮して決定する条件に従い、同総会の承認を得て、国際連合の財源から報酬を受ける。
13 委員会の委員は、国際連合の特権及び免除に関する条約の関連規定に定める国際連合のための職務を行う専門家の便益、特権及び免除を享受する。
第35条 締約国の報告
1 各締約国は、この条約に基づく約束を履行するためにとった措置及びその措置によりもたらされた進歩に関する包括的な報告を、この条約が自国について効力を生じた後2年以内に、国際連合事務総長を通じて委員会に提出する。
2 その後は、締約国は、新たにとった措置に関する後の報告を少なくとも4年ごとに及び委員会が要請するときに提出する。
3 委員会は、報告の内容に適用されるいかなる指針をも決定する。
4 委員会に対して包括的な最初の報告を提出した締約国は、その後の報告においては、既に提供した情報を繰り返す必要はない。締約国は、委員会への報告を作成する場合には、開かれた透明性のある過程を通じて報告の作成を検討し及び第4条3に定める規定を正当に考慮するよう招請される。
5 報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び困難を記載することができる。
第36条 報告の検討
1 各報告は、委員会が検討する。委員会は、当該報告に関する提案及び一般的な性格を有する勧告であって適切と認めるものを表明するものとし、また、これらの提案及び勧告を関係締約国に送付する。当該締約国は、委員会に対する応答として自国が適切と認めるいかなる見解をも表明することができる。委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を締約国に要請することができる。
2 締約国の報告が提出期限を著しく過ぎている場合には、委員会は、関係締約国に対し、その利用可能な信頼できる情報に基づいて当該締約国におけるこの条約の実施を審議する必要がある旨の通告(当該通告の後3箇月以内に当該締約国により関連のある報告が提出されなかったときに当該審議を行う。)をすることができる。委員会は、関係締約国に対し、この検討に参加するよう招請する。当該締約国が関連のある報告を提出することにより通告に応えた場合には、1の規定が適用される。
3 国際連合事務総長は、報告をすべての国が利用できるようにする。
4 締約国は、報告を自国において公衆が広く利用できるようにするものとし、また、当該報告に関連する提案及び一般的な性格を有する勧告へのアクセスを容易にする。
5 委員会は、締約国からの報告に含まれている技術的な助言若しくは援助の要請又はこれらの必要性の記載に、これらの要請又は必要性の記載に関する委員会の見解及び勧告がある場合には当該見解及び勧告とともに対応するため、適切と認める場合には、専門機関、国際連合の基金及び計画並びに他の権限のある機関に締約国からの報告を送付する。
第37条 締約国と委員会との協力
1 各締約国は、委員会と協力するものとし、また、委員会の委員がその任務を果たすことを支援する。
2 委員会は、締約国との関係において、この条約の実施のために国内能力を高める方法及び手段(国際協力を通じたものを含む。)を正当に考慮する。
第38条 委員会と他の機関との関係
この条約の効果的な実施を促進し及びこの条約が対象とする分野における国際協力を奨励するため、
(a) 専門機関及び他の国際連合の機関は、その任務の範囲内にある事項に関するこの条約の規定の実施についての検討に際し、代表を出す権利を有する。委員会は、適切と認める場合には、専門機関及び他の権限のある機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について専門家の助言を提供するよう要請することができる。委員会は、専門機関及び他の国際連合の機関に対し、それらの任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について報告を提出するよう招請することができる。
(b) 委員会は、その任務を遂行するに当たり、国際人権条約が設けた他の関係諸機関それぞれの報告指針、提案及び一般的な性格を有する勧告の整合性を確保するため並びにそれらの諸機関の任務遂行上の重複を避けるため、適切な場合には、それらの諸機関と協議する。
第39条 委員会の報告
委員会は、その活動につき2年ごとに総会及び経済社会理事会に報告するものとし、また、締約国から得た報告及び情報の検討に基づいて提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。これらの提案及び一般的な性格を有する勧告は、締約国から意見がある場合にはその意見とともに、委員会の報告に記載する。
第40条 締約国会議
1 締約国は、この条約の実施に関するいずれの事案をも審議するため、締約国会議において定期的に会合をもつ。
2 締約国会議は、国際連合事務総長がこの条約の効力発生の後6箇月以内に招集する。後の会合は、国際連合事務総長が2年ごとに又は締約国会議の決定により招集する。
第41条 寄託先
この条約の寄託先は、国際連合事務総長とする。
第42条 署名
この条約は、2007年3月30日に、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国及び地域的な統合のための機関による署名のために開放しておく。
第43条 拘束されることについての同意
この条約は、これに署名した国により批准されなければならず、また、これに署名した地域的な統合のための機関により正式確認が行わなければならない。この条約は、これに署名していない国又は地域的な統合のための機関による加入のために開放しておく。
第44条 地域的な統合のための機関
1「地域的な統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、この条約が規律する事項に関しその加盟国から権限の委譲を受けたものをいう。当該機関は、その正式確認書又は加入書において、この条約が規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。その後は、当該機関は、その権限の範囲の実質的な変更を寄託先に通報する。
2 この条約において「締約国」についての規定は、地域的な統合のための機関の権限の範囲内で当該機関に準用する。
3 第45条1並びに第47条2及び3の適用上、地域的な統合のための機関によって寄託されるいずれの文書をも数えてはならない。
4 地域的な統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この条約の締約国であるその構成国の数と同数の票を投ずる権利を締約国会議で行使することができる。当該機関は、その構成国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。
第45条 効力発生
1 この条約は、20番目の批准書又は加入書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。
2 20番目の批准書、正式確認書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し、正式に確認し、又はこれに加入する国又は地域的な統合のための機関については、この条約は、当該国又は当該機関によりこれらの文書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。
第46条 留保
1 この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は認められない。
2 留保は、いつでも撤回することができる。
第47条 改正
1 いずれの締約国も、この条約の改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、改正案の審議及び決定のための締約国会議の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会議を招集する。会議において出席しかつ投票する締約国の3分の2以上の多数によって採択された改正案は、同事務総長が、承認のため国際連合総会に提出し、その後は受諾のため、すべての締約国に提出する。
2 1の規定に従って採択されかつ承認された改正は、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。その後は、いずれの締約国に対しても、自国の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。改正は、それを受諾した締約国のみを拘束する。
3 締約国会議がコンセンサス方式により決定する場合には、1の規定に従って採択されかつ承認された改正であって、第34条、第38条、第39条及び第40条に専ら関連するものは、すべての締約国に対して、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。
第48条 廃棄
締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。
第49条 アクセシブルな形式
この条約の本文は、アクセシブルな形式で利用できるものにしなければならない。
第50条 正文
この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とする。
以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。
障害のある人の権利に関する条約の選択議定書
この議定書の締約国は、次のとおり協定した。
第1条〔個人通報に対する委員会の権限〕
1 この議定書の締約国(以下「締約国」という。)は、条約の規定の当該締約国による侵害の犠牲者であると主張する当該締約国の管轄の下にある個人若しくは集団が提出する通報、又はそれらの個人若しくは集団のために提出する通報を障害のある人の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)が受理し及び検討する権限を有することを認める。
2 委員会は、この議定書の締約国でない条約の締約国についての通報を受理してはならない。
第2条〔通報を受理できない場合〕
委員会は、次の場合には、通報を受理することができないと判断する。
(a) 通報が匿名である場合
(b) 通報が、通報提出の権利の濫用を構成する場合又は条約の規定と両立しない場合
(c) 同一の事案が、委員会ですでに検討された場合又は国際的な調査若しくは解決のための他の手続により審議されたか若しくは審議されている場合
(d) 利用し得るすべての国内的な救済措置を尽くしていない場合。ただし、当該救済措置の実施が不当に遅延する場合又は効果的な救済をもたらす可能性に乏しい場合は、この限りでない。
(e) 通報が、明らかに根拠を欠いている場合又は十分に疎明されていない場合
(f) 通報の対象となる事実が、関係締約国についてこの議定書が効力を生ずる前に発生した場合。ただし、当該事実が効力発生の日まで継続している場合は、この限りでない。
第3条〔関係国への照会〕
第2条の規定に従うことを条件として、委員会は、提出された通報について、内密にその締約国の注意を喚起する。注意を喚起された国は、6箇月以内に、その事案についての及び当該国がとった救済措置がある場合には当該救済措置についての書面の説明又は声明を委員会に提出する。
第4条〔暫定措置〕
1 委員会は、通報が受理されてから本案の決定に至るまでのいつでも、関係締約国に対し、その早急な検討のために、主張された違反の被害者に生じ得る回復不能な損害を回避するために必要となり得る暫定的な措置を当該締約国がとるよう求める要請を送付することができる。
2 委員会が1の規定に基づく裁量を行使する場合であっても、これは通報の受理可能性又は本案についての決定を意味するものではない。
第5条〔通報の検討〕
委員会は、この議定書に基づき通報を検討する場合には、非公開の会合を開催する。委員会は、通報を検討した後、その提案を、及び勧告がある場合には当該勧告を、関係締約国及び請願者に送付する。
第6条〔情報に対する委員会の調査〕
1 委員会は、締約国による条約に定める権利の重大な又は系統的な侵害を示す信頼できる情報を受領した場合には、当該締約国に対し、当該情報についての検討に協力し及びこのために当該情報についての見解を提出するよう要請する。
2 委員会は、関係締約国が提出したすべての見解を他の入手可能なすべての情報と共に考慮した上で、1人又は2人以上の委員を指名して調査を行わせ及び委員会への早急な報告を行わせることができる。
3 委員会は、2の調査結果を検討した後、当該調査結果を意見及び勧告とともに関係締約国に送付する。
4 関係締約国は、委員会が送付した調査結果、意見及び勧告を受領した後6箇月以内に、当該国の見解を委員会に送付する。
5 調査は内密に行われるものとし、また、関係締約国の協力は手続のすべての段階において求められる。
第7条〔調査に応えてとった措置〕
1 委員会は、この議定書の第6条に基づいて行われる調査に応えて関係締約国がとった措置の詳細を条約第35条に基づく当該国の報告に含めるよう締約国に要請することができる。
2 委員会は、必要なときは、第6条4に定める6箇月の期間の終了後に、調査に応えてとった措置を委員会に通報するよう関係締約国に要請することができる。
第8条〔第6条及び第7条に対する適用除外宣言〕
各締約国は、この議定書の署名若しくは批准又はこれへの加入の際に、委員会が第6条及び第7条に規定する権限を有することを認めない旨を宣言することができる。
第9条〔寄託先〕
この議定書の寄託先は、国際連合事務総長とする。
第10条〔署名〕
この議定書は、2007年3月30日に、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国及び地域的な統合のための機関による署名のために開放しておく。
第11条〔拘束されることについての同意〕
この議定書は、条約を批准し又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名した国により批准されなければならない。この議定書は、条約を正式に確認し又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名した地域的な統合のための機関により正式確認が行わなければならない。この議定書は、条約を批准し、正式に確認し、又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名していない国又は地域的な統合のための機関による加入のために開放しておく。
第12条〔地域的な統合のための機関〕
1「地域的な統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、条約及びこの議定書が規律する事項に関しその加盟国から権限の委譲を受けたものをいう。当該機関は、その正式確認書又は加入書において、条約及びこの議定書が規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。その後は、当該機関は、その権限の範囲の実質的な変更を寄託先に通報する。
2 この議定書において「締約国」についての規定は、地域的な統合のための機関の権限の範囲内で当該機関に準用する。
3 第13条1及び第15条2の適用上、地域的な統合のための機関によって寄託されるいずれの文書をも数えてはならない。
4 地域的な統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この議定書の締約国であるその構成国の数と同数の票を投ずる権利を締約国の会合で行使することができる。当該機関は、その構成国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。
第13条〔効力発生〕
1 条約の効力発生を条件として、この議定書は、10番目の批准書又は加入書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。
2 10番目の批准書、正式確認書又は加入書が寄託された後にこの議定書を批准し、正式に確認し、又はこれに加入する国又は地域的な統合のための機関については、この議定書は、当該国又は当該機関によりこれらの文書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。
第14条〔留保〕
1 この議定書の趣旨及び目的と両立しない留保は認められない。
2 留保は、いつでも撤回することができる。
第15条〔改正〕
1 いずれの締約国も、この議定書の改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、改正案の審議及び決定のための締約国の会合の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会合の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会合を招集する。会合において出席しかつ投票する締約国の3分の2以上の多数によって採択された改正案は、同事務総長が、承認のため国際連合総会に提出し、その後は受諾のため、すべての締約国に提出する。
2 1の規定に従って採択されかつ承認された改正は、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。その後は、いずれの締約国に対しても、自国の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。改正は、それを受諾した締約国のみを拘束する。
第16条〔廃棄〕
締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この議定書を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。
第17条〔アクセシブルな形式〕
この議定書の本文は、アクセシブルな形式で利用できるものにしなければならない。
第18条〔正文〕
この議定書は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とする。
以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの議定書に署名した。
【条文見出し一覧】
障害のある人の権利に関する条約
前文
第1条 目的
第2条 定義
第3条 一般的原則
第4条 一般的義務
第5条 平等及び非差別
第6条 障害のある女性
第7条 障害のある子ども
第8条 意識向上
第9条 アクセシビリティ
第10条 生命に対する権利
第11条 危険のある状況及び人道上の緊急事態
第12条 法の前における平等な承認
第13条 司法へのアクセス
第14条 身体の自由及び安全
第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
第17条 個人のインテグリティの保護
第18条 移動の自由及び国籍
第19条 自立した生活(生活の自律)及び地域社会へのインクルージョン
第20条 個人の移動性(モビリティ)
第21条 表現及び意見の自由、並びに情報へのアクセス
第22条 プライバシーの尊重
第23条 家庭及び家族の尊重
第24条 教育
第25条 健康
第26条 ハビリテーション及びリハビリテーション
第27条 労働及び雇用
第28条 十分な生活水準及び社会保護
第29条 政治的及び公的活動への参加
第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
第31条 統計及びデータ収集
第32条 国際協力
第33条 国内的な実施及び監視(モニタリング)
第34条 障害のある人の権利に関する委員会
第35条 締約国の報告
第36条 報告の検討
第37条 締約国と委員会との協力
第38条 委員会と他の機関との関係
第39条 委員会の報告
第40条 締約国会議
第41条 寄託先
第42条 署名
第43条 拘束されることについての同意
第44条 地域的な統合のための機関
第45条 効力発生
第46条 留保
第47条 改正
第48条 廃棄
第49条 アクセシブルな形式
第50条 正文
障害のある人の権利に関する条約の選択議定書
第1条〔個人通報に対する委員会の権限〕
第3条〔関係国への照会〕
第4条〔暫定措置〕
第5条〔通報の検討〕
第6条〔情報に対する委員会の調査〕
第7条〔調査に応えてとった措置〕
第8条〔第6条及び第7条に対する適用除外宣言〕
第9条〔寄託先〕
第10条〔署名〕
第11条〔拘束されることについての同意〕
第12条〔地域的な統合のための機関〕
第13条〔効力発生〕
第14条〔留保〕
第15条〔改正〕
第16条〔廃棄〕
第17条〔アクセシブルな形式〕
第18条〔正文〕
【訳者より】
(*1)この日本語訳は、「障害のある人の権利に関する条約CONVENTION ON THE RIGHTS OF PERSONS WITH DISABILITIES」及び「障害のある人の権利に関する条約の選択議定書OPTIONAL PROTOCOL TO THE CONVENTION ON THE RIGHTS OF PERSONS WITH DISABILITIES」の全文仮訳である。
(*2)この仮訳の訳出に当たり、国連ウェブサイトに掲載されている“True
Certified Copies”の英語版テキストを基本的に利用した他に、必要に応じて、その仏語版等のテキストも利用した(http://www.un.org/esa/socdev/enable/plenaryofga06.htm, visited 19 February 2007)。
(*3)上記の英語版テキストは、訳者が確認できた限りでは、第61回国連総会において採択された決議61/106(UN
Doc. A/RES/61/106, 24 January 2007)の附属書I 及び IIに収められた英語版テキストと基本的に同じ内容である。ただし、日本訳語に反映する必要がないような形式上の相違(例えば条文番号及び見出しが「左端」(後者)から「中央」(前者)に移動されたなどの違い)はある。
(*4)選択議定書に附した各条文の見出し〔 〕は、原文テキストには附されていない。
(*5)この仮訳では、各種条約集その他の関係諸文献を参考にしたが、日本が当事国の条約のテキストで類似表現があるものについては、公定訳に合わせたものもあれば、そうではないものもある。後者の例として、公定訳では一般に「適当な」と訳されている“appropriate”を本仮訳では「適切な」と訳したり、公定訳では「女子」・「児童」と訳されている部分を「女性」・「子ども」と訳したりした。
(*6)訳文中の丸括弧内の言葉には、例えば「(…を含む。)」の場合のように、原文にはカッコが付されていないが、訳語ではカッコ内に入れたものがある。また、括弧内には、別の翻訳可能性のある言葉を補ったものもある。その例として、「障害(ディスアビリティ)」や「監視(モニタリング)」等のように、英語の訳語にカタカナ表記(ディスアビリティ、モニタリング)を補った場合がある他、「自立した生活(生活の自律)」や「ライブ・アシスタンス(人又は動物による支援)」等のように、英語の訳語・カタカナ表記に仏語及び/又は西語の訳語(人又は動物による支援、生活の自律)を補った場合もある。
(*7)英語版テキストと仏語版等のテキストとで意味が異なると解される場合を含め、訳語の選定については、現在なお判断に迷うものが残されている。この仮訳(2007年3月29日付訳)の訳語は今後、必要に応じて変更する可能性がある。
(*8)この仮訳の作成に当たり、多くの方々・諸団体から御助言・御協力をさまざまな機会に得ることができました。記して感謝を申し上げます。
(*9)無断転載は御遠慮ください。
川島聡・長瀬修 仮訳(2007年3月29日付訳)