障害のある人の権利に関する条約 仮訳

川島聡=長瀬修仮訳(2008年5月30日付)

【凡例】

1. この川島=長瀬仮訳(2008年5月30日付)は、2006年12月13日に国連総会で採択された“Convention on the Rights of Persons with Disabilities”と“Optional Protocol to the Convention on the Rights of Persons with Disabilities”の全文仮訳である。この仮訳の訳出に当たり、2007年2月19日時点で、国連のウェブサイト(http://www.un.org/esa/socdev/enable/plenaryofga06.htm, visited 19 February 2007)に掲載されていた“True Certified Copies”の英語正文を基本的に利用するとともに、必要に応じて、その仏語正文・西語正文を利用した。なお、この仮訳は、日本障害フォーラムのホームページ(http://www.normanet.ne.jp/~jdf/shiryo/convention/)等で公表した従前の仮訳(2007年3月29日付、2007年10月29日付)を改訂したものである。

2. この仮訳は、各種条約集その他の関係諸文献を参考にしたが、日本が締約国の条約の中に類似した表現があるものについては、公定訳に合わせたものもあれば、そうではないものもある。後者の例として、公定訳では一般に「適当な」と訳されている“appropriate”を本仮訳では「適切な」と訳したり、公定訳では「女子」「児童」と訳されている部分を「女性」「子ども」と訳したりした。また、この仮訳の作成に当たり、「障害者の権利に関する条約」の日本政府仮訳も参考にした(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/shomei_32.pdf, visited 11 October 2007)。

3. この条約の選択議定書の正文には条文見出しがないが、訳者が亀甲括弧〔 〕内に条文見出しを補った。また、亀甲括弧〔 〕内には、別の翻訳可能性のある言葉を補った。例えば、障害〔ディスアビリティ〕や監視〔モニタリング〕等のようにカタカナ表記を補った場合や、ライブ・アシスタンス〔人又は動物による支援〕等のように英語正文のカタカナ表記に仏西正文の訳語を補った場合などがある。

【謝辞】

 この仮訳の作成に当たり、大変多くの方々から貴重な御助言・御協力をさまざまな機会に頂戴いたしました。心より感謝を申し上げます。


【条文見出し】

障害のある人の権利に関する条約

前文
第1条 目的
第2条 定義
第3条 一般原則
第4条 一般的義務
第5条 平等及び非差別〔無差別〕
第6条 障害のある女性
第7条 障害のある子ども
第8条 意識向上
第9条 アクセシビリティ
第10条 生命に対する権利
第11条 危険のある状況及び人道上の緊急事態
第12条 法律の前における平等な承認
第13条 司法へのアクセス
第14条 身体の自由及び安全
第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
第17条 個人のインテグリティ〔不可侵性〕の保護
第18条 移動の自由及び国籍
第19条 自立した生活〔生活の自律〕及び地域社会へのインクルージョン
第20条 個人の移動性
第21条 表現及び意見の自由並びに情報へのアクセス
第22条 プライバシーの尊重
第23条 家庭及び家族の尊重
第24条 教育
第25条 健康
第26条 ハビリテーション及びリハビリテーション
第27条 労働及び雇用
第28条 適切〔十分〕な生活水準及び社会保護
第29条 政治的及び公的活動への参加
第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
第31条 統計及びデータ収集
第32条 国際協力
第33条 国内的な実施及び監視〔モニタリング〕
第34条 障害のある人の権利に関する委員会
第35条 締約国の報告
第36条 報告の検討
第37条 締約国と委員会との協力
第38条 委員会と他の機関との関係
第39条 委員会の報告
第40条 締約国会議
第41条 寄託先
第42条 署名
第43条 拘束されることについての同意
第44条 地域的な統合のための機関
第45条 効力発生
第46条 留保
第47条 改正
第48条 廃棄
第49条 アクセシブルな様式
第50条 正文

障害のある人の権利に関する条約の選択議定書

第1条〔個人通報についての委員会の権限〕
第2条〔通報を受理できない場合〕
第3条〔関係国への照会〕
第4条〔暫定措置〕
第5条〔通報の検討〕
第6条〔委員会の調査〕
第7条〔調査に応えて講じた措置〕
第8条〔第6条及び第7条に対する適用除外宣言〕
第9条〔寄託先〕
第10条〔署名〕
第11条〔拘束されることについての同意〕
第12条〔地域的な統合のための機関〕
第13条〔効力発生〕
第14条〔留保〕
第15条〔改正〕
第16条〔廃棄〕
第17条〔アクセシブルな様式〕
第18条〔正文〕


障害のある人の権利に関する条約

前文

 この条約の締約国は、

(a) 世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものとして、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び価値並びに平等のかつ奪い得ない権利を認める国際連合憲章において宣明された原則を想起し、

(b) 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての者はいかなる区別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、

(c) すべての人権及び基本的自由の普遍性、不可分性、相互依存性及び相互関連性、並びに障害のある人に対してすべての人権及び基本的自由の差別のない完全な享有を保障する必要性を再確認し、

(d) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、子どもの権利に関する条約並びにすべての移住労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約を想起し、

(e) 障害〔ディスアビリティ〕が形成途上にある〔徐々に発展している〕概念であること、また、障害が機能障害〔インペアメント〕のある人と態度及び環境に関する障壁との相互作用であって、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げるものから生ずることを認め、

(f) 障害者に関する世界行動計画及び障害のある人の機会均等化に関する基準規則に規定する原則及び政策指針が、障害のある人の機会を一層均等化するための国内的、地域的及び国際的な政策、立案、計画及び行動の促進、形成及び評価に影響を及ぼすに当たり重要であることを認め、

(g) 持続可能な開発の関連戦略の不可分の一部として障害問題の主流化が重要であることを強調し、

(h) また、いかなる者に対しても障害に基づく差別が人間の固有の尊厳及び価値を侵害するものであることを認め、

(i) 更に、障害のある人の多様性を認め、

(j) 障害のあるすべての人(一層多くの支援を必要とする障害のある人を含む。)の人権を促進し及び保護する必要性を認め、

(k) これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、障害のある人が、世界のすべての地域において、社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に依然として直面していることを憂慮し、

(l) あらゆる国、特に開発途上国における障害のある人の生活状況を改善するために国際協力が重要であることを認め、

(m) 障害のある人が、地域社会の全般的な福利及び多様性に対して既に又は潜在的に貴重な貢献をしていることを認め、また、障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、障害のある人の帰属意識が高められること並びに社会の人間的、社会的及び経済的開発並びに貧困の根絶に大きな前進がもたらされることを認め、

(n) 障害のある人にとって、その個人の自律及び自立(自ら選択する自由を含む。)が重要であることを認め、

(o) 障害のある人が、政策及び計画(障害のある人に直接関連のある政策及び計画を含む。)に係る意思決定過程に積極的に関与する機会を有すべきであることを考慮し、

(p) 人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的、先住的若しくは社会的出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害のある人の置かれた困難な状況を憂慮し、

(q) 障害のある女性及び少女が、家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取を受ける一層大きな危険にしばしばさらされていることを認め、

(r) 障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、すべての人権及び基本的自由を完全に享有すべきであることを認め、また、このため、子どもの権利に関する条約の締約国が負う義務を想起し、

(s) 障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力にジェンダーの視点を組み込む必要があることを強調し、

(t) 障害のある人の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、これに関しては、障害のある人に及ぼす貧困の悪影響に取り組むことが緊要であることを認め、

(u) 国際連合憲章に規定する目的及び原則の完全な尊重並びに適用のある人権文書の遵守に基づく平和及び安全の状況が、障害のある人、特に武力紛争下及び外国の占領下の障害のある人の完全な保護に不可欠であることに留意し、

(v) 障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することを可能とするに当たり、物理的、社会的、経済的及び文化的環境、保健〔健康〕及び教育並びに情報通信についてのアクセシビリティが重要であることを認め、

(w) 個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと、並びに国際人権章典において認められる権利の促進及び遵守のために努力する責任を有することを認識し、

(x) 家族が、社会の自然かつ基礎的な単位であり、かつ、社会及び国による保護を受ける権利を有することを確信し、また、障害のある人及びその家族の構成員が、障害のある人の権利の完全かつ平等な享有に家族が貢献することを可能とするために必要な保護及び援助を受けるべきであることを確信し、

(y) 障害のある人の権利及び尊厳を促進し及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約が、開発途上国及び先進国の双方において、障害のある人の社会的に著しく不利な立場を是正することに重要な貢献を行うこと、並びに市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野への障害のある人の平等な機会を伴う参加を促進することを確信して、

次のとおり協定した。

第1条 目的
 この条約は、障害のあるすべての人によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し及び確保すること、並びに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。
障害〔ディスアビリティ〕のある人には、長期の身体的、精神的、知的又は感覚的な機能障害〔インペアメント〕のある人を含む。これらの機能障害は、種々の障壁と相互に作用することにより、機能障害のある人が他の者との平等を基礎として社会に完全かつ効果的に参加することを妨げることがある。

第2条 定義

 この条約の適用上、

「コミュニケーション〔意思伝達・通信〕」とは、筆記〔文字言語〕、音声装置、平易な言葉、口頭朗読その他の拡大代替〔補助代替〕コミュニケーションの形態、手段及び様式(アクセシブルな情報通信技術〔情報通信機器〕を含む。)とともに、言語、文字表示〔文字表記〕、点字、触覚による意思伝達、拡大文字及びアクセシブルなマルチメディア等をいう。
「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語等をいう。
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、合理的配慮を行わないことを含むあらゆる形態の差別を含む。
「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適切な変更及び調整であって、特定の場合に必要とされるものであり、かつ、不釣合いな又は過重な負担を課さないものをいう。
「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなしに、可能な最大限の範囲内で、すべての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。「ユニバーサルデザイン」は、特定の範囲の障害のある人向けの機能を備えた補装具〔補助器具〕が必要とされる場合には、これを排除するものではない。

第3条 一般原則
 この条約の原則は、次のとおりとする。

(a) 固有の尊厳、個人の自律(自ら選択する自由を含む。)及び人の自立に対する尊重

(b) 非差別〔無差別〕

(c) 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン

(d) 差異の尊重、並びに人間の多様性の一環及び人類の一員としての障害のある人の受容

(e) 機会の平等〔均等〕

(f) アクセシビリティ

(g) 男女の平等

(h) 障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重、及び障害のある子どもがそのアイデンティティを保持する権利の尊重

第4条 一般的義務
1 締約国は、障害に基づくいかなる種類の差別もない、障害のあるすべての人のすべての人権及び基本的自由の完全な実現を確保し及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。

(a) この条約において認められる権利を実施するため、すべての適切な立法措置、行政措置その他の措置をとること。

(b) 障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む。)をとること。

(c) すべての政策及び計画において、障害のある人の人権の保護及び促進を考慮に入れること。

(d) この条約に合致しないいかなる行為又は慣行をも差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従い行動することを確保すること。

(e) いかなる個人、団体又は民間企業による障害に基づく差別をも撤廃するためのすべての適切な措置をとること。

(f) 第2条に定めるユニバーサルデザインを用いた物品〔製品〕、サービス、備品〔設備〕及び施設についての研究及び開発を開始し又は促進すること。この場合において、これらの物品〔製品〕、サービス、備品〔設備〕及び施設は、障害のある個人に特有の必要〔ニーズ〕を満たすため、それらの供給及び使用を促進するため並びに基準及び指針の策定の際のユニバーサルデザインの採用を促進するため、可能な限り最小の調整及び最小の費用を要するものとすべきである。

(g) 負担可能な費用の技術〔機器〕を優先して、障害のある人に適した新たな技術〔機器〕(情報通信技術〔情報通信機器〕、移動補助具、補装具〔補助器具〕及び支援技術〔支援機器〕を含む。)についての研究及び開発を開始し又は促進すること、並びにそのような新たな技術〔機器〕の供給及び使用を促進すること。

(h) 移動補助具、補装具〔補助器具〕及び支援技術〔支援機器〕(新たな技術〔機器〕を含む。)に関する並びに他の形態の援助、支援サービス及び施設〔設備〕に関するアクセシブルな情報を障害のある人に提供すること。

(i) この条約において認められる権利により保障される支援及びサービスを一層効果的に提供するため、障害のある人と共に行動する専門家及び職員に対する当該権利に関する訓練を促進すること。

2 各締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段〔資源〕の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で措置をとることを約束する。ただし、この規定は、この条約に含まれる義務であって国際法に基づいて即時的に適用可能なものに影響を及ぼすものではない。

3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策を策定し及び実施するに当たり、並びに障害のある人と関連する問題についての他の意思決定過程において、障害のある人(障害のある子どもを含む。)を代表する団体を通じて、障害のある人と緊密に協議し、かつ、障害のある人を積極的に関与させる。

4 この条約のいかなる規定も、締約国の法律又は締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって、障害のある人の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。この条約のいずれかの締約国において法律、条約、規則又は慣習によって認められ又は存する人権及び基本的自由については、この条約がそれらの権利若しくは自由を認めていないこと又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それらの権利及び自由を制限し又は逸脱してはならない。

5 この条約は、いかなる制限又は例外もなしに、連邦国家のすべての地域について適用する。

第5条 平等及び非差別〔無差別〕
1 締約国は、すべての者が、法律の前及び下において平等であり、いかなる差別もなしに法律による平等な保護及び利益を受ける権利を有することを認める。

2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な法的保護を障害のある人に保障する。

3 締約国は、平等を促進し及び差別を撤廃するため、合理的配慮が行われることを確保するためのすべての適切な措置をとる。

4 障害のある人の事実上の平等を促進し又は達成するために必要な特定の措置は、この条約に定める差別と解してはならない。

第6条 障害のある女性
1 締約国は、障害のある女性及び少女が複合的な差別を受けていることを認識し、また、これに関しては、障害のある女性及び少女がすべての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを確保するための措置をとる。

2 締約国は、この条約に定める人権及び基本的自由の行使及び享有を女性に保障することを目的として、女性の完全な発展、地位の向上及びエンパワーメントを確保するためのすべての適切な措置をとる。

第7条 障害のある子ども
1 締約国は、障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、すべての人権及び基本的自由を完全に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。

2 障害のある子どもに関するあらゆる決定において、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする。

3 締約国は、障害のある子どもが、自己に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を有することを確保する。この場合において、障害のある子どもの意見は、他の子どもとの平等を基礎として、その年齢及び成熟度に応じて十分に考慮されるものとする。締約国は、また、障害のある子どもが、当該権利を実現〔行使〕するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する。

第8条 意識向上
1 締約国は、次のための即時的、効果的かつ適切な措置をとることを約束する。

(a) 障害のある人の置かれた状況に対する社会全体(家族を含む。)の意識の向上、並びに障害のある人の権利及び尊厳に対する尊重の促進

(b) あらゆる生活領域における障害のある人に対する固定観念、偏見及び有害慣行(性及び年齢を理由とするものを含む。)との闘い

(c) 障害のある人の能力及び貢献に対する意識の促進

2 このため、締約国が講ずる措置には、次のことを含む。
(a) 次のために、効果的な公衆啓発活動を開始し及び維持すること。

 (i) 障害のある人の権利を受容する態度の育成

 (ii) 障害のある人に対する肯定的認識及び一層高い社会的意識の促進

 (iii) 障害のある人の技能、功績及び能力並びに職場及び労働市場への貢献に対する認識の促進

(b) すべての段階の教育制度、特に幼年期からのすべての子どもの教育制度において、障害のある人の権利を尊重する態度を促進すること。

(c) すべての媒体〔メディア〕機関が、この条約の目的に合致するように障害のある人を描写するよう奨励すること。

(d) 障害のある人及びその権利に対する意識を向上させるための訓練計画を促進すること。

第9条 アクセシビリティ
1 締約国は、障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、都市及び農村の双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術〔情報通信機器〕及び情報通信システムを含む。)、並びに公衆に開かれ又は提供される他の施設〔設備〕及びサービスにアクセスすることを確保するための適切な措置をとる。このような措置は、アクセシビリティにとっての妨害物及び障壁を明らかにし及び撤廃することを含むものとし、特に次の事項について適用する。

(a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内外の施設〔設備〕(学校、住居、医療施設〔医療設備〕及び職場を含む。

(b) 情報サービス、通信サービスその他のサービス(電子サービス及び緊急時サービスを含む。)

2 締約国は、また、次のことのための適切な措置をとる。

(a) 公衆に開かれ又は提供される施設〔設備〕及びサービスのアクセシビリティに関する最低基準及び指針を策定し及び公表すること、並びにこれらの最低基準及び指針の実施を監視〔モニター〕すること。

(b) 公衆に開かれ又は提供される施設〔設備〕及びサービスを提供する民間主体が、障害のある人にとってのアクセシビリティのあらゆる側面を考慮に入れることを確保すること。

(c) 障害のある人が直面するアクセシビリティに係る問題についての訓練をすべての関係者に提供すること。

(d) 公衆に開かれた建物その他の施設〔設備〕において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形式の表示を提供すること。

(e) 公衆に開かれた建物その他の施設〔設備〕のアクセシビリティを容易にするためのライブ・アシスタンス〔人又は動物による支援〕及び媒介者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳者を含む。)のサービスを提供すること。

(f) 障害のある人が情報にアクセスすることを確保するため、障害のある人に対する他の適切な形態の援助及び支援を促進すること。

(g) 障害のある人が新たな情報通信技術〔情報通信機器〕及び情報通信システム(インターネットを含む。)にアクセスすることを促進すること。

(h) 早い段階において、アクセシブルな情報通信技術〔情報通信機器〕及び情報通信システムに関する設計、開発、生産及び分配を、それらを最小の費用でアクセシブルにするようにして促進すること。

第10条 生命に対する権利
 締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを再確認し、また、障害のある人が他の者との平等を基礎として当該権利を効果的に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。

第11条 危険のある状況及び人道上の緊急事態
 締約国は、国際法、特に国際人道法及び国際人権法に基づく義務に従い、危険のある状況(武力紛争、人道上の緊急事態及び自然災害の発生を含む。)における障害のある人の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置をとる。

第12条 法律の前における平等な承認
1 締約国は、障害のある人が、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。

2 締約国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。

3 締約国は、障害のある人がその法的能力の行使に当たり必要とする支援にアクセスすることができるようにするための適切な措置をとる。

4 締約国は、国際人権法に従い、法的能力の行使に関連するすべての措置には濫用を防止するための適切かつ効果的な保護が含まれることを確保する。当該保護は、法的能力の行使に関連する措置が、障害のある人の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反及び不当な影響を生じさせないこと、障害のある人の状況に対応し及び適合すること、可能な限り最も短い期間に適用すること、並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査に服することを確保するものとする。当該保護は、当該措置が障害のある人の権利及び利益に及ぼす影響の程度に対応したものとする。

5 締約国は、この条の規定に従うことを条件として、財産の所有又は相続についての、自己の財務管理についての並びに銀行貸付、抵当その他の形態の金融上の信用への平等なアクセスについての障害のある人の平等な権利を確保するためのすべての適切かつ効果的な措置をとる。締約国は、また、障害のある人がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。

第13条 司法へのアクセス
1 締約国は、障害のある人がすべての法的手続(調査〔捜査〕段階その他の予備段階のものを含む。)において直接及び間接の参加者(証人を含む。)として効果的な役割を果たすことを容易にするため、手続上の配慮及び年齢に適した配慮を行うこと等により、障害のある人が他の者との平等を基礎として司法に効果的にアクセスすることを確保する。

2 締約国は、障害のある人が司法に効果的にアクセスすることを確保することに役立てるため、司法に係る分野に携わる者(警察官及び刑務官を含む。)に対する適切な訓練を促進する。

第14条 身体の自由及び安全
1 締約国は、次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。

(b) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、自由を不法に又は恣意的に奪われないこと、いかなる自由の剥奪も法律に従い行われること、及びいかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在により正当化されないこと。

2 締約国は、障害のある人が、いずれの手続を通じても自由を奪われた場合には、他の者との平等を基礎として国際人権法による保障を受ける権利を有すること、並びにこの条約の趣旨及び原則に従い取り扱われること(合理的配慮を行うことによるものを含む。)を確保する。

第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由
1 いかなる者も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。特に、いかなる者も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。

2 締約国は、障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを、他の者との平等を基礎として防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。

第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由
1 締約国は、家庭の内外におけるあらゆる形態の搾取、暴力及び虐待(これらのジェンダーを理由とする状況を含む。)から障害のある人を保護するためのすべての適切な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。

2 締約国は、また、搾取、暴力及び虐待の事案を防止し、認識し及び報告する方法に関する情報及び教育を提供すること等を通じて、特に、障害のある人並びにその家族及び介助者に対してジェンダー及び年齢を考慮した適切な形態の援助及び支援を行うことを確保することにより、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防止するためのすべての適切な措置をとる。締約国は、保護サービスが年齢、ジェンダー及び障害を考慮したものであることを確保する。

3 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、障害のある人向けのすべての施設〔機関・設備〕及び計画が、独立した当局により効果的に監視〔モニター〕されることを確保する。

4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の被害者となる障害のある人の身体的、認知的及び心理的な回復、リハビリテーション並びに社会復帰〔社会的再統合〕を促進するためのすべての適切な措置(保護サービスの提供によるものを含む。)をとる。このような回復及び復帰は、障害のある人の健康、福祉、自尊心、尊厳及び自律を促進する環境において行われるものとし、ジェンダー及び年齢に特有の必要〔ニーズ〕を考慮に入れる。

5 締約国は、障害のある人に対する搾取、暴力及び虐待の事案が明らかにされ、調査〔捜査〕され、かつ、適切な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策(女性及び子どもに重点を置いた法令及び政策を含む。)を策定する。

第17条 個人のインテグリティ〔不可侵性〕の保護
 障害のあるすべての人は、他の者との平等を基礎として、その身体的及び精神的なインテグリティ〔不可侵性〕を尊重される権利を有する。

第18条 移動の自由及び国籍
1 締約国は、障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、移動の自由、居所を選択する自由及び国籍についての権利を認めるものとし、特に次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、国籍を取得し及び変更する権利を有すること、並びにその国籍を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。

(b) 障害のある人が、国籍に係る文書若しくは身元に係る他の文書を入手し、所有し及び利用する法的資格、又は移動の自由についての権利の行使を容易にするために必要とされることのある関連手続(出入国手続等)を行う法的資格を、障害を理由として奪われないこと。

(c) 障害のある人が、いずれの国(自国を含む。)からも離れる自由を有すること。

(d) 障害のある人が、自国に入国する権利を恣意的に又は障害を理由として奪われないこと。

2 障害のある子どもは、出生の後直ちに登録されるものとする。障害のある子どもは、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、可能な限りその親を知りかつその親によって養育される権利を有する。

第19条 自立した生活〔生活の自律〕及び地域社会へのインクルージョン
 この条約の締約国は、障害のあるすべての人に対し、他の者と平等の選択の自由をもって地域社会で生活する平等の権利を認める。締約国は、障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適切な措置をとるものとし、特に次のことを確保する。

(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、居住地及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること、並びに特定の生活様式で生活するよう義務づけられないこと。

(b) 障害のある人が、地域社会における生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(パーソナル・アシスタンスを含む。)にアクセスすること。

(c) 一般住民向けの地域社会サービス及び施設〔設備〕が、障害のある人にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人の必要〔ニーズ〕に応ずること。

第20条 個人の移動性
 締約国は、障害のある人が可能な限り自立〔自律〕して移動することを確保するための効果的な措置をとるものとし、特に次のことを行う。

(a) 障害のある人が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、負担可能な費用で移動することを容易にすること。

(b) 障害のある人が、質の高い移動補助具、補装具〔補助器具〕、支援技術〔支援機器〕、ライブ・アシスタンス〔人又は動物による支援〕及び媒介者のサービスにアクセスすることを、特に、これらを負担可能な費用で利用可能なものとすることにより容易にすること。

(c) 障害のある人に対し及び障害のある人と共に行動する専門職員に対し、移動技能の訓練を提供すること。

(d) 移動補助具、補装具〔補助器具〕及び支援技術〔支援機器〕を生産する主体が、障害のある人の移動のあらゆる側面を考慮に入れるよう奨励すること。

第21条 表現及び意見の自由並びに情報へのアクセス
 締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、第2条に定めるあらゆる形態のコミュニケーションであって自ら選択するものにより、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる。このため、締約国は、特に次のことを行う。

(a) 障害のある人に対し、適時にかつ追加の費用の負担なしに、様々な種類の障害に適応したアクセシブルな様式及び技術〔機器〕により、一般公衆向けの情報を提供すること。

(b) 障害のある人が、その公的な活動において、手話、点字、拡大代替〔補助代替〕コミュニケーション並びに自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、形態及び様式を用いることを受け入れ及び容易にすること。

(c) 一般公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体が、情報及びサービスを障害のある人にとってアクセシブルかつ使用可能な様式で提供するよう勧奨すること。

(d) 大衆媒体〔マス・メディア〕(インターネットで情報を提供する主体を含む。)が、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルなものとするよう奨励すること。

(e) 手話の使用を承認し及び促進すること。

第22条 プライバシーの尊重
1 障害のあるいかなる人も、居住地又は生活様式のいかんを問わず、そのプライバシー、家族、家庭又は通信その他の形態のコミュニケーションを恣意的に若しくは不法に干渉され、又は名誉及び信用を不法に攻撃されることはない。障害のある人は、このような干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。

2 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の個人情報、健康に関連する情報及びリハビリテーションに関連する情報についてのプライバシー〔秘密性〕を保護する。

第23条 家庭及び家族の尊重
1 締約国は、他の者との平等を基礎として、婚姻、家族、親子関係及び親族関係に係るすべての事項に関し、障害のある人に対する差別を撤廃するための効果的かつ適切な措置をとるものとし、次のことを確保する。

(a) 婚姻をすることのできる年齢にある障害のあるすべての人が、両当事者の自由かつ完全な合意に基づいて婚姻をし及び家族を形成する権利を認めること。

(b) 障害のある人が、子どもの数及び出産間隔を自由にかつ責任をもって決定する権利、並びにその年齢に適した方法で生殖・出産及び家族計画に関する情報及び教育にアクセスする権利を認めること。また、障害のある人がこれらの権利を行使することを可能とするために必要な手段を提供すること。

(c) 障害のある人(障害のある子どもを含む。)が他の者との平等を基礎として生殖能力を保持すること。

2 締約国は、子どもの後見、監督、管財、養子縁組又は国内法令にこれらに類する制度が存在する場合にはその制度についての障害のある人の権利及び責任を確保する。あらゆる場合において、子どもの最善の利益は至上である。締約国は、障害のある人が子どもの養育についての責任を遂行するに当たり、その者に対して適切な援助を与える。

3 締約国は、障害のある子どもが家族生活について平等の権利を有することを確保する。締約国は、この権利を実現するため並びに障害のある子どもの隠匿、遺棄、放置及び隔離を防止するため、障害のある子ども及びその家族に対し、包括的な情報、サービス及び支援を早期に提供することを約束する。

4 締約国は、子どもがその親の意思に反してその親から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が、司法の審査に従うことを条件として、適用のある法律及び手続に従い、その分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。いかなる場合にも、子どもは、その子どもの障害又は一方若しくは両方の親の障害を理由として親から分離されない。

5 締約国は、最も近い関係にある家族〔親及び兄弟姉妹〕が障害のある子どもを監護〔ケア〕することができない場合には、より広い範囲の家族の中で代替的な監護〔ケア〕を提供し、また、これが不可能なときは、地域社会の中の家庭的な環境で代替的な監護〔ケア〕を提供するためのすべての努力を行うことを約束する。

第24条 教育
1 締約国は、教育についての障害のある人の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度及び生涯学習であって、次のことを目的とするものを確保する。

(a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する意識を十分に開発すること。また、人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。

(b) 障害のある人が、その人格、才能、創造力並びに精神的及び身体的な能力を可能な最大限度まで発達させること。

(c) 障害のある人が、自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。

2 締約国は、1の権利を実現するに当たり、次のことを確保する。

(a) 障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、及び障害のある子どもが障害を理由として無償のかつ義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと。

(b) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、その生活する地域社会において、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること。

(c) 各個人の必要〔ニーズ〕に応じて合理的配慮が行われること。

(d) 障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要とする支援を一般教育制度の下で受けること。

(e) 完全なインクルージョンという目標に則して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置がとられること。

3 締約国は、障害のある人が教育制度及び地域生活に完全かつ平等に参加することを容易にするための生活技能及び社会性の発達技能を習得することを可能としなければならない。このため、締約国は、次のことを含む適切な措置をとる。

(a) 点字、代替文字、拡大代替〔補助代替〕コミュニケーションの形態、手段及び様式、並びに歩行技能の習得を容易にすること。また、ピア・サポート〔障害のある人相互による支援〕及びピア・メンタリング〔障害のある人相互による助言・指導〕を容易にすること。

(b) 手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること。

(c) 盲人、ろう者又は盲ろう者(特に子どもの盲人、ろう者又は盲ろう者)の教育が、その個人にとって最も適切な言語並びにコミュニケーションの形態及び手段で、かつ、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境で行われることを確保すること。

4 締約国は、1の権利の実現を確保することを容易にするため、手話又は点字についての適格性を有する教員(障害のある教員を含む。)を雇用するための並びに教育のすべての段階において教育に従事する専門家及び職員に対する訓練を行うための適切な措置をとる。この訓練には、障害に対する意識の向上、適切な拡大代替〔補助代替〕コミュニケーションの形態、手段及び様式の使用、並びに障害のある人を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れなければならない。

5 締約国は、障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、一般の高等教育、職業訓練、成人教育及び生涯学習にアクセスすることができることを確保する。このため、締約国は、障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保する。

第25条 健康
 締約国は、障害のある人が障害に基づく差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有することを認める。締約国は、障害のある人がジェンダーを考慮した保健サービス(保健に関連するリハビリテーションを含む。)にアクセスすることを確保するためのすべての適切な措置をとる。締約国は、特に、次のことを行う。

(a) 障害のある人に対し、他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の無償の又は負担可能な費用の保健サービス(性及び生殖に関する保健サービス、並びに地域社会の公衆衛生計画を含む。)を提供すること。

(b) 障害のある人が特にその障害のために必要とする保健サービスを提供すること。当該保健サービスには、適切な場合には早期発見及び早期介入〔早期治療〕が含まれるとともに、二次障害〔新たに出現する障害〕、特に子ども及び高齢者の二次障害を最小にし及び予防するためのサービスが含まれる。

(c) 当該保健サービスを、障害のある人自身が属する地域社会(農村を含む。)に可能な限り近くで提供すること。

(d) 保健の専門家に対し、他の者と同一の質の医療〔ケア〕(特に、十分な説明に基づく自由な同意に基づいたもの)を障害のある人に提供するよう要請すること。このため、締約国は、特に、障害のある人の人権、尊厳、自律及び必要〔ニーズ〕に対する意識が高められるように、公的及び私的な保健部門のために訓練活動を先導し及び倫理規則を普及する。

(e) 健康保険及び国内法において生命保険が認められている場合には生命保険が障害のある人に対して公正かつ妥当な方法で提供されるものとし、これらの保険の提供に当たり障害のある人に対する差別を禁止すること。

(f) ヘルス・ケア若しくは保健サービス又は食料若しくは飲料の提供が障害に基づいて差別的に拒否されることを防止すること。

第26条 ハビリテーション及びリハビリテーション
1 締約国は、障害のある人が、最大限の自立〔自律〕、十分な身体的、精神的、社会的及び職業的な能力、並びに生活のあらゆる側面への完全なインクルージョン及び参加を達成しかつ維持することを可能とするため、特にピア・サポート〔障害のある人相互による支援〕を活用して、効果的かつ適切な措置をとる。このため、締約国は、特に保健、雇用、教育及び社会サービスの分野において、ハビリテーション及びリハビリテーションについての包括的〔多様〕なサービス及び計画を企画し、強化し及び拡張する。この場合において、これらのサービス及び計画は、次のとおりとする。

(a) 可能な限り最も早い段階で開始すること、並びに個人の必要〔ニーズ〕及び能力〔長所〕に関する学際的な評価に基づくこと。

(b) 地域社会及び社会のあらゆる側面への障害のある人の参加及びインクルージョンを容易にするものであること、障害のある人により任意〔自由〕に受け入れられるものであること、並びに障害のある人により自己の属する地域社会(農村を含む。)に可能な限り近くで利用されることができること。

2 締約国は、ハビリテーション及びリハビリテーションのサービスに従事する専門家及び職員に対する初期訓練及び継続訓練の充実を促進する。

3 締約国は、障害のある人向けの補装具〔補助器具〕及び支援技術〔支援機器〕であって、ハビリテーション及びリハビリテーションを容易にするものの供給、知識及び使用を促進する。

第27条 労働及び雇用
1 締約国は、障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、労働についての権利を認める。この権利には、障害のある人にとって開かれ、インクルーシブで、かつ、アクセシブルな労働市場及び労働環境において、障害のある人が自由に選択し又は引き受けた労働を通じて生計を立てる機会についての権利を含む。締約国は、特に次のことのための適切な措置(立法措置を含む。)をとることにより、障害のある人(雇用の過程で障害を持つこととなった者を含む。)のために労働についての権利の実現を保障し及び促進する。

(a) あらゆる形態の雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、雇用の継続、昇進並びに安全かつ健康的な作業条件を含む。)に関し、障害に基づく差別を禁止すること。

(b) 他の者との平等を基礎として、公正かつ良好な労働条件(平等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬を含む。)、安全かつ健康的な作業条件(いやがらせ〔ハラスメント〕からの保護を含む。)及び苦情救済についての障害のある人の権利を保護すること。

(c) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、職業上の権利及び労働組合の権利を行使することができることを確保すること。

(d) 障害のある人が、一般公衆向けの技術指導及び職業指導に関する計画、職業紹介サービス並びに継続的な職業訓練サービスに効果的にアクセスすることを可能とすること。

(e) 労働市場における障害のある人の雇用機会及び昇進を促進すること。また、障害のある人が職業を求め、それに就き、それを継続し及びそれに復帰する際の支援を促進すること。

(f) 自己雇用〔自営〕の機会、企業家精神〔アントレプレナーシップ〕、協同組合の組織及び自己の事業の開始〔起業〕を促進すること。

(g) 公的部門において障害のある人を雇用すること。

(h) 適切な政策及び措置を通じて、民間部門における障害のある人の雇用を促進すること。これらの政策及び措置には、積極的差別是正措置、奨励措置その他の措置を含めることができる。

(i) 職場において障害のある人に対して合理的配慮が行われることを確保すること。

(j) 障害のある人が開かれた労働市場において職業経験を得ることを促進すること。

(k) 障害のある人の職業リハビリテーション及び専門リハビリテーション、職業維持並びに職場復帰の計画を促進すること。

2 締約国は、障害のある人が奴隷状態又は隷属状態に置かれないこと及び強制的又は義務的労働から他の者との平等を基礎として保護されることを確保する。

第28条 適切〔十分〕な生活水準及び社会保護
1 締約国は、自己及びその家族の適切〔十分〕な生活水準(適切〔十分〕な食料、衣類及び住居を含む。)についての並びに生活条件の不断の改善についての障害のある人の権利を認めるものとし、この権利を障害に基づく差別なしに実現することを保障し及び促進するための適切な措置をとる。

2 締約国は、社会保護についての障害のある人の権利及びこの権利を障害に基づく差別なしに享有することについての障害のある人の権利を認めるものとし、この権利の実現を保障し及び促進するための適切な措置をとる。これには、次の措置を含む。

(a) 障害のある人が、清浄な水に平等にアクセスすることを確保するための措置、並びに障害のある人が、障害に関連する必要〔ニーズ〕に係る適切かつ負担可能なサービス、補装具〔補助器具〕その他の支援にアクセスすることを確保するための措置

(b) 障害のある人、特に、障害のある女性及び少女並びに障害のある高齢者が、社会保護計画及び貧困削減計画にアクセスすることを確保するための措置

(c) 貧困の状況下で生活している障害のある人及びその家族が、障害に関連する費用をまかなうための国の援助(適切〔十分〕な訓練、カウンセリング、財政援助及びレスパイト・ケアを含む。)にアクセスすることを確保するための措置

(d) 障害のある人が、公的な住宅供給計画にアクセスすることを確保するための措置

(e) 障害のある人が、退職に関する給付及び計画に平等にアクセスすることを確保するための措置

第29条 政治的及び公的活動への参加
 締約国は、障害のある人に対し、政治的権利の享有及びこの権利を他の者との平等を基礎として行使する機会を保障するものとし、次のことを約束する。

(a) 特に次のことにより、障害のある人が、直接に又は自由に選んだ代表を通じて、他の者との平等を基礎として、政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害のある人が投票し及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。

 (i) 投票の手続、施設〔設備〕及び資料が適切であること、アクセシブルであること並びに理解し及び利用しやすいことを確保すること。

 (ii) 適切な場合には、支援技術〔支援機器〕及び新たな技術〔機器〕の使用を容易にすることにより、障害のある人が、選挙及び国民投票において脅迫を受けることなく秘密投票により投票する権利、選挙に立候補する権利、並びに政府のすべての段階において効果的に公職に就き及びすべての公務を遂行する権利を保護すること。

 (iii) 選挙人としての障害のある人の意思の自由な表明を保障すること。このため、必要な場合には、障害のある人の要請に応じて、障害のある人自身により選ばれた者が投票の際に援助することを認めること。

(b) 障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、政治に効果的かつ完全に参加することのできる環境を積極的に促進すること。また、障害のある人が政治に参加することを奨励すること。政治への参加には、次のことを含む。

 (i) 国の公的又は政治的活動に関係のある非政府機関及び非政府団体に参加すること、並びに政党の活動及び運営に参加すること。

 (ii) 国際的、国内的、地域的及び地方的な段階において、障害のある人を代表するための障害のある人の団体を結成し、及びこれに加入すること。

第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加

1 締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認めるものとし、次のことを確保するためのすべての適切な措置をとる。

(a) 障害のある人が、アクセシブルな様式を通じて、文化的作品へのアクセスを享受すること。

(b) 障害のある人が、アクセシブルな様式を通じて、テレビ番組、映画、演劇その他の文化的な活動へのアクセスを享受すること。

(c) 障害のある人が、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス等の文化的な公演又はサービスが行われる場所へのアクセスを享受し、また、可能な限度において国の文化的に重要な記念物及び遺跡へのアクセスを享受すること。

2 締約国は、障害のある人が、自己の利益のためのみでなく社会を豊かにするためにも、創造的、芸術的及び知的な潜在能力を開発し及び活用する機会を有することを可能とするための適切な措置をとる。

3 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法令が文化的作品への障害のある人のアクセスを妨げる不合理な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適切な措置をとる。

4 障害のある人は、他の者との平等を基礎として、その独自の文化的及び言語的なアイデンティティ(手話及びろう文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。

5 締約国は、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とするため、次のことのための適切な措置をとる。

(a) 障害のある人が、あらゆる段階における主流〔一般〕のスポーツ活動に可能な最大限の範囲内で参加することを奨励し及び促進すること。

(b) 障害のある人が、障害に特有のスポーツ及びレクリエーションの活動を組織し、発展させ及びこれに参加する機会を有することを確保すること。また、このため、適切な指導、訓練及び資源が他の者との平等を基礎として提供されるよう奨励すること。

(c) 障害のある人が、スポーツ及びレクリエーションの開催地並びに観光地にアクセスすることを確保すること。

(d) 障害のある子どもが、他の子どもとの平等を基礎として、遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動(学校制度におけるこれらの活動を含む。)に参加することができることを確保すること。

(e) 障害のある人が、レクリエーション、観光、余暇及びスポーツの活動の企画に責任を負う者及び団体によるサービスにアクセスすることを確保すること。

第31条 統計及びデータ収集
1 締約国は、この条約を実現するための政策を形成し及び実施することを可能とするための適切な情報(統計及び研究データを含む。)を収集することを約束する。締約国は、この情報を収集し及び保存する過程において、次の事項を遵守しなければならない。

(a) 障害のある人の秘密性の保持及びプライバシーの尊重を確保するための法定の保護(データ保護に関する法令を含む。)

(b) 人権及び基本的自由を保護するための国際的に受け入れられた規範、並びに統計の収集及び利用に関する倫理原則

2 この条の規定に従い収集された情報は、適切な場合には分類されるものとし、この条約に基づく締約国の義務の履行の評価に役立てるために並びに障害のある人がその権利を行使する際に直面する障壁を明らかにし及び当該障壁に取り組むために用いられる。

3 締約国は、これらの統計の普及についての責任を負うものとし、障害のある人及び他の者がこれらの統計にアクセスすることができることを確保する。

第32条 国際協力
1 締約国は、この条約の目的及び趣旨を実現するための国内的な努力を支援するものとして国際協力及びその促進が重要であることを認識し、また、これに関しては、国家間において、並びに適切な場合には国際的及び地域的な関係機関並びに市民社会(特に障害のある人の団体)と共同して、適切かつ効果的な措置をとる。このような措置には、特に次のことを含むことができる。

(a) 国際協力(国際的な開発計画を含む。)が、障害のある人にとって、インクルーシブかつアクセシブルであることを確保すること。

(b) 特に、情報、経験、訓練計画及び最良の実践の交換及び共有を通じて、能力形成を容易にしかつ支援すること。

(c) 研究における協力並びに科学的及び技術的知識へのアクセスを容易にすること。

(d) 適切な場合には、特に、アクセシブルな支援技術〔支援機器〕へのアクセス及びその共有を容易にすることにより並びに技術移転を通じて、技術援助及び経済援助を提供すること。

2 この条の規定は、この条約に基づく義務を履行する各締約国の義務に影響を及ぼすものではない。

第33条 国内的な実施及び監視〔モニタリング〕
1 締約国は、その制度に従い、この条約の実施に関連する事項を取り扱う1又は2以上の担当部局〔フォーカルポイント〕を政府内に指定する。締約国は、また、異なる部門及び段階におけるこの条約の実施に関連する活動を容易にするため、政府内に調整のための仕組みを設置し又は指定することに十分な考慮を払う。

2 締約国は、その法律上及び行政上の制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し及び監視〔モニター〕するための枠組み(適切な場合には、1又は2以上の独立した仕組みを含む。)を自国内で維持し、強化し、指定し又は設置する。締約国は、当該仕組みを指定し又は設置する場合には、人権の保護及び促進のための国内機関の地位及び機能に関する原則を考慮に入れる。

3 市民社会、特に、障害のある人及び障害のある人を代表する団体は、監視〔モニタリング〕の過程に完全に関与し、かつ、参加する。

第34条 障害のある人の権利に関する委員会
1 障害のある人の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、以下に定める任務を行う。

2 委員会は、この条約の効力発生の時は12人の専門家で構成する。委員会の委員は、更に60の国が批准し又は加入した後に6人まで増加するものとし、最大で18人とする。

3 委員会の委員は、個人の資格で職務を遂行するものとし、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力及び経験を認められた者とする。締約国は、委員の候補者を指名する場合には、第4条3の規定に十分な考慮を払うよう要請される。

4 委員会の委員は、締約国により選出されるものとする。その選出に当たっては、委員が地理的に衡平に配分されること、異なる文明形態及び主要な法体系が代表されること、ジェンダーの釣合いがとれた代表にすること並びに障害のある専門家が参加することを考慮に入れる。

5 委員会の委員は、締約国会議の会合において、締約国により自国民の中から指名された者の名簿の中から秘密投票により選出される。この会合は、締約国の3分の2をもって定足数とする。この会合においては、出席しかつ投票する締約国の代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た者をもって委員会に選出された委員とする。

6 委員会の委員の最初の選挙は、この条約の効力発生の日の後6箇月以内に行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも4箇月前までに、締約国に対し、自国が指名する者の氏名を2箇月以内に提出するよう書簡で要請する。その後は、同事務総長は、指名された者のアルファべット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、この条約の締約国に送付する。

7 委員会の委員は、4年の任期で選出される。委員は、1回のみ再選される資格を有する。ただし、最初の選挙において選出された委員のうち6人の委員(これらの委員は、最初の選挙の後直ちに、5に規定する会合の議長によりくじ引で選ばれるものとする。)の任期は、2年で終了する。

8 委員会の6人の追加的な委員の選挙は、この条の関連規定に従い、定期的な選挙の場において行うものとする。

9 委員会の委員が死亡し、辞任し又は他の理由により自己の職務を遂行することができなくなった旨を宣言した場合には、当該委員を指名した締約国は、当該委員の残任期間中その職務を遂行する他の専門家で、資格を有し、かつ、この条の関連規定に定める要件を満たすものを任命する。

10 委員会は、手続規則を定める。

11 国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供するものとし、委員会の最初の会合を招集する。

12 この条約に基づいて設置する委員会の委員は、国際連合総会が委員会の任務の重要性を考慮して決定する条件に従い、同総会の承認を得て、国際連合の財源から報酬を受ける。

13 委員会の委員は、国際連合のための職務を行う専門家の便益、特権及び免除であって、国際連合の特権及び免除に関する条約の関連規定に定めるものを享受する。

第35条 締約国の報告
1 各締約国は、この条約に基づく義務を履行するためにとった措置及びこの措置によりもたらされた進捗に関する包括的な報告を、この条約が自国について効力を生じた後2年以内に、国際連合事務総長を通じて委員会に提出する。

2 その後は、締約国は、少なくとも4年ごとに及び委員会が要請するときはいつでも、後続の報告を提出する。

3 委員会は、報告の内容に適用されるいかなる指針をも決定する。

4 委員会に対して包括的な最初の報告を提出した締約国は、その後の報告においては、既に提供した情報を繰り返す必要はない。締約国は、委員会への報告を作成する場合には、公開され、かつ、透明性のある過程を通じて報告の作成を検討し、及び第4条3の規定に十分な考慮を払うよう要請される。

5 報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び困難を記載することができる。

第36条 報告の検討
1 各報告は、委員会が検討する。委員会は、当該報告について、適切と認める提案及び一般的な性格を有する勧告を行うものとし、これらの提案及び勧告を関係締約国に送付する。当該締約国は、自国が選択する情報を提供することにより、委員会に回答することができる。委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を締約国に要請することができる。

2 締約国の報告が提出期限を著しく過ぎている場合には、委員会は、当該締約国に対し、委員会にとって利用可能な信頼し得る情報に基づいて当該締約国におけるこの条約の実施を審査することが必要である旨を通告することができる。ただし、当該審査は、当該通告の後3箇月以内に当該締約国により関連のある報告が提出されなかったときにのみ行われる。委員会は、当該締約国に対し、この審査に参加するよう要請する。当該締約国が関連のある報告を提出することにより回答する場合には、1の規定が適用される。

3 国際連合事務総長は、1の報告をすべての締約国が利用することができるようにする。

4 締約国は、1の報告を自国において公衆が広く利用することができるものとし、当該報告に関連する提案及び一般的な性格を有する勧告へのアクセスを容易にする。

5 委員会は、適切と認める場合には、締約国からの報告に含まれている技術的な助言若しくは援助の要請又はこれらの必要性の記載に対処するため、これらの要請又は必要性の記載に関する委員会の見解及び勧告がある場合には当該見解及び勧告とともに、国際連合の専門機関、基金及び計画並びに他の権限のある機関に当該報告を送付する。

第37条 締約国と委員会との協力
1 各締約国は、委員会と協力するものとし、委員会の委員がその任務を果たすことを支援する。

2 委員会は、締約国との関係において、この条約の実施のための国内的能力を高める方法及び手段(国際協力を通じたものを含む。)に十分な考慮を払う。

第38条 委員会と他の機関との関係
 この条約の効果的な実施を促進し及びこの条約が対象とする分野における国際協力を奨励するため、

(a) 専門機関及び他の国際連合の機関は、その任務の範囲内にある事項に関するこの条約の規定の実施についての検討に際し、代表を出す権利を有する。委員会は、適切と認める場合には、専門機関及び他の権限のある機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について専門家の助言を提供するよう要請することができる。委員会は、専門機関及び他の国際連合の機関に対し、これらの任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について報告を提出するよう要請することができる。

(b) 委員会は、その任務を遂行するに当たり、人権に関する国際条約が設けた他の関係諸機関それぞれの報告指針、提案及び一般的な性格を有する勧告との整合性を確保するため、並びにそれらの諸機関との任務遂行上の重複を避けるため、適切な場合には、それらの諸機関と協議する。

第39条 委員会の報告
 委員会は、その活動につき2年ごとに国際連合総会及び経済社会理事会に報告するものとし、締約国から得た報告及び情報の検討に基づいて提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。これらの提案及び一般的な性格を有する勧告は、締約国から意見がある場合にはその意見とともに、委員会の報告に記載する。

第40条 締約国会議
1 締約国は、この条約の実施に関するいずれの事案をも審議するため、締約国会議を定期的に開催する。

2 締約国会議は、国際連合事務総長がこの条約の効力発生の後6箇月以内に招集する。その後の締約国会議は、国際連合事務総長が2年ごとに又は締約国会議の決定により招集する。

第41条 寄託先
 この条約の寄託先は、国際連合事務総長とする。

第42条 署名
 この条約は、2007年3月30日に、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国及び地域的な統合のための機関による署名のために開放しておく。

第43条 拘束されることについての同意
 この条約は、これに署名した国により批准されなければならず、また、これに署名した地域的な統合のための機関により正式確認が行われなければならない。この条約は、これに署名していない国又は地域的な統合のための機関による加入のために開放しておく。

第44条 地域的な統合のための機関
1「地域的な統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、この条約が規律する事項に関しその加盟国から権限の委譲を受けたものをいう。当該機関は、その正式確認書又は加入書において、この条約の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。その後は、当該機関は、その権限の範囲の実質的な変更を寄託先に通報する。

2 この条約において「締約国」についての規定は、地域的な統合のための機関の権限の範囲内で当該機関に準用する。

3 次条1並びに第47条2及び3の適用上、地域的な統合のための機関によって寄託されるいずれの文書をも数えてはならない。

4 地域的な統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この条約の締約国であるその加盟国の数と同数の票を投ずる権利を締約国会議で行使することができる。当該機関は、その加盟国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。

第45条 効力発生
1 この条約は、20番目の批准書又は加入書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。

2 20番目の批准書、正式確認書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し、正式に確認し、又はこれに加入する国又は地域的な統合のための機関については、この条約は、当該国又は当該機関によりこれらの文書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。

第46条 留保
1 この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は、認められない。

2 留保は、いつでも撤回することができる。

第47条 改正
1 いずれの締約国も、この条約の改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、改正案の審議及び決定のための締約国会議の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会議を招集する。会議において出席しかつ投票する締約国の3分の2以上の多数によって採択された改正案は、同事務総長が、承認のため国際連合総会に提出するものとし、その後は受諾のためすべての締約国に送付する。

2 1の規定に従って採択されかつ承認された改正は、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2以上が受諾書を寄託した後30日目の日に効力を生ずる。その後は、当該改正は、いずれの締約国についても、自国の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。改正は、それを受諾した締約国のみを拘束する。

3 締約国会議がコンセンサス方式により決定する場合には、1の規定に従って採択されかつ承認された改正であって、第34条、第38条、第39条及び第40条に専ら関連するものは、すべての締約国について、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2以上の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。

第48条 廃棄
 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。

第49条 アクセシブルな様式
 この条約の本文は、アクセシブルな様式で利用することができるものとする。

第50条 正文
 この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とする。

以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。


障害のある人の権利に関する条約の選択議定書

 この議定書の締約国は、次のとおり協定した。

第1条〔個人通報についての委員会の権限〕
1 この議定書の締約国(以下「締約国」という。)は、障害のある人の権利に関する委員会(以下「委員会」という。)が、当該締約国による条約規定の侵害の被害者であると主張する当該締約国の管轄の下にある個人若しくは集団により提出される通報又はこれらの個人若しくは集団のために提出される通報を受理し及び検討する権限を有することを認める。

2 委員会は、この議定書の締約国でない条約の締約国についての通報を受理してはならない。

第2条〔通報を受理できない場合〕
 委員会は、次の場合には、通報を受理することができないと判断する。

(a) 通報が匿名である場合

(b) 通報が、通報提出の権利の濫用を構成する場合、又は条約の規定と両立しない場合

(c) 同一の事案が、委員会によりすでに審査された場合、又は国際的な調査若しくは解決のための他の手続により審査されたか若しくは審査されている場合

(d) 利用可能なすべての国内的な救済措置を尽くしていない場合。ただし、当該救済措置の実施が不当に遅延する場合又は効果的な救済をもたらす可能性に乏しい場合は、この限りでない。

(e) 通報が、明らかに根拠を欠いている場合、又は十分に立証されていない場合

(f) 通報の対象となる事実が、関係締約国についてこの議定書が効力を生ずる前に発生した場合。ただし、この議定書が効力を生じた日以降も当該事実が継続している場合は、この限りでない。

第3条〔関係国への照会〕
 委員会は、前条の規定に従うことを条件として、いずれの通報についても、関係締約国の注意を内密に喚起する。注意を喚起された国は、6箇月以内に、その事案及び当該国がとった救済措置がある場合には当該救済措置を詳らかにした書面による説明又は声明を委員会に提出する。

第4条〔暫定措置〕
1 委員会は、通報が受理されてから本案の決定に至るまでのいつでも、関係締約国に対して、当該締約国による緊急の考慮を促すため、当該通報を行った被害者に生じ得る回復不能な損害を回避するために必要となり得る暫定的な措置を講ずることを求める要請を送付することができる。

2 委員会が1の規定に基づく裁量を行使する場合であっても、これは当該通報の受理可能性又は本案についての決定を意味するものではない。

第5条〔通報の審査〕
 委員会は、この議定書に基づき通報を審査する場合には、非公開の会合を開催する。委員会は、通報を審査した後、その提案を、勧告がある場合には勧告とともに、関係締約国及び請願者に送付する。

第6条〔委員会の調査〕

1 委員会は、締約国による条約に定める権利の重大な又は系統的な侵害を示す信頼できる情報を受領した場合には、当該締約国に対し、当該情報に関する審査に協力し及びこのため当該情報に関する見解を提出するよう要請する。

2 委員会は、関係締約国により提出されることのあるすべての見解を他の信頼できる入手可能な情報とともに考慮に入れた上で、1人又は2人以上の委員を指名して調査を行わせ、及び委員会に緊急に報告させることができる。この調査には、正当な根拠及び当該締約国の同意がある場合には、当該締約国の領域への訪問を含めることができる。

3 委員会は、2の調査の結果を審査した後、当該調査結果をその意見及び勧告とともに関係締約国に送付する。

4 関係締約国は、委員会により送付された調査結果、意見及び勧告を受領した後6箇月以内に、その見解を委員会に送付する。

5 2の調査は内密に行われるものとし、また、関係締約国の協力はこの手続のすべての段階で求められる。

第7条〔調査に応えて講じた措置〕
1 委員会は、関係締約国に対し、この議定書第6条に基づいて行われる調査に応えて当該締約国が講じたいずれの措置の詳細をも、条約第35条に基づく報告に記載するよう要請することができる。

2 委員会は、必要なときは、第6条4に定める6箇月の期間の終了後、関係締約国に対し、調査に応えて当該締約国が講じた措置を委員会に通告するよう要請することができる。

第8条〔第6条及び第7条に対する適用除外宣言〕
 各締約国は、この議定書の署名若しくは批准又はこれへの加入の際に、委員会が第6条及び第7条に規定する権限を有することを認めない旨を宣言することができる。

第9条〔寄託先〕
 この議定書の寄託先は、国際連合事務総長とする。

第10条〔署名〕
 この議定書は、2007年3月30日に、ニュー・ヨークにある国際連合本部において、すべての国及び地域的な統合のための機関による署名のために開放しておく。

第11条〔拘束されることについての同意〕
 この議定書は、条約を批准し又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名した国により批准されなければならない。この議定書は、条約を正式に確認し又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名した地域的な統合のための機関により正式確認が行われなければならない。この議定書は、条約を批准し、正式に確認し、又はこれに加入し、かつ、この議定書に署名していない国又は地域的な統合のための機関による加入のために開放しておく。

第12条〔地域的な統合のための機関〕
1「地域的な統合のための機関」とは、特定の地域の主権国家によって構成される機関であって、条約及びこの議定書が規律する事項に関しその加盟国から権限の委譲を受けたものをいう。当該機関は、その正式確認書又は加入書において、条約及びこの議定書の規律する事項に関する自己の権限の範囲を宣言する。その後は、当該機関は、その権限の範囲の実質的な変更を寄託先に通報する。

2 この議定書において「締約国」についての規定は、地域的な統合のための機関の権限の範囲内で当該機関に準用する。

3 第13条1及び第15条2の適用上、地域的な統合のための機関によって寄託されるいずれの文書をも数えてはならない。

4 地域的な統合のための機関は、その権限の範囲内の事項について、この議定書の締約国であるその加盟国の数と同数の票を投ずる権利を締約国の会合で行使することができる。当該機関は、その加盟国のいずれかが自国の投票権を行使する場合には、投票権を行使してはならない。その逆の場合も、同様とする。

第13条〔効力発生〕
1 条約の効力発生を条件として、この議定書は、10番目の批准書又は加入書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。

2 10番目の批准書、正式確認書又は加入書が寄託された後にこの議定書を批准し、正式に確認し、又はこれに加入する国又は地域的な統合のための機関については、この議定書は、当該国又は当該機関によりこれらの文書が寄託された後30日目の日に効力を生ずる。

第14条〔留保〕
1 この議定書の趣旨及び目的と両立しない留保は認められない。

2 留保は、いつでも撤回することができる。

第15条〔改正〕
1 いずれの締約国も、この議定書の改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、改正案の審議及び決定のための締約国の会合の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会合の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会合を招集する。会合において出席しかつ投票する締約国の3分の2以上の多数によって採択された改正案は、同事務総長が、承認のため国際連合総会に提出するものとし、その後は受諾のためすべての締約国に送付する。

2 1の規定に従って採択されかつ承認された改正は、当該改正の採択の日における締約国数の3分の2以上が受諾書を寄託した後30日目の日に効力を生ずる。その後は、いずれの締約国についても、自国の受諾書の寄託の後30日目の日に効力を生ずる。改正は、それを受諾した締約国のみを拘束する。

第16条〔廃棄〕
 締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この議定書を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。

第17条〔アクセシブルな様式〕
 この議定書の本文は、アクセシブルな様式で利用できるものにしなければならない。

第18条〔正文〕

 この議定書は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とする。

 以上の証拠として、下名の全権委員は、各自の政府から正当に委任を受けてこの議定書に署名した。


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