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「国連障害者の権利条約」策定に関する要望書
2004年8月12日
外務大臣 川口 順子 様
日本障害フォーラム(JDF)準備会
会長 兒玉 明
「国連障害者の権利条約」策定に関する要望書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
日頃より、障害者の人権擁護に向けてご尽力いただき心より感謝申し上げます。
2002年8月から国連で始まった「障害者の権利及び尊厳の推進、保護に関する包括的かつ総合的な国際条約」(以下、権利条約と略)を検討する特別委員会は、さる6月に第3回会合をもち、政府間の本格的な条約交渉の局面に入ってまいりました。日本政府もそれに先立って1月に開かれた特別委員会作業部会に委員として加わるなど、従来の人権諸条約への対応とは異なり、早い段階から積極的な貢献をしていただいていることに改めて感謝致します。
障害者組織を中心に構成されている私たちJDF準備会は、これまで日本政府との協議を重ね、また、第2回、第3回特別委員会などに日本政府代表団の顧問として推薦者が参画するなど、この条約策定過程にNGOの立場から政府との連携を積み重ね可能な限り共通認識をもちながら貢献をしていきたいと考えております。
この度、8月23日から9月3日まで2週間にわたる第4回特別委員会に向けて、権利条約の交渉過程が大きく動こうとしているこの時期に、これまでの特別委員会において議論されている権利条約の重要な論点と、それが国内の障害者にかかわる法律や制度に与える影響や可能性についてぜひ積極的にご認識いただきたいと望んでおります。
つきましては、JDF準備会として、下記の重要な論点に関する要望と3点の質問事項を提示させていただきますので、積極的にご検討下さるようお願い致します。
敬具
記
◆ 要望1 障害の定義(草案第2条、3条)
(1)「障害」の定義について議論を進めるに当たっては、(1)社会モデルの視点を十分に念頭に置くこと、(2)障害という用語を広く定義すること、(3)現実にあるインペアメントに限定されないことについて十分注意してご検討いただきたい。
(2)また、「障害」、「障害差別」、「障害のある人」のそれぞれの定義の相互関連性・整合性という点にも十分留意してご検討いただきたい。
(3)<質問として> 障害の社会モデル(【草案-脚注12】の下線部分)について、第3回特別委員会を経た上での、現状の見解を改めておうかがいしたい。
【草案-脚注12】
「作業部会の多くの構成員は、条約が障害(すなわち、すべての種別の障害)のあるすべての人の権利を保護すべきであることを強調して、『障害』という語は広く定義されるべきであると提案した。構成員の中には、障害の複雑性や条約の範囲を制限する危険性を考慮すれば、この条約には『障害』の定義を含めるべきでないとの見解を表明した者もいる。他の代表の中には、国際的文脈で用いられている既存の定義(世界保健機関の国際生活機能分類を含む。)を指摘した者もいる。定義が含まれる場合には、障害の医学モデルでなく、障害の社会モデルを反映する定義とすべきであることに一般的な合意が得られた。」
◆要望2 言語の定義
言語の定義(第3条関係)については、手話は言語であるという基本認識に立ち、言語権の保障という観点から自由権規約第27条との関連性を踏まえ、手話を言語として位置づけることが必要であるという観点からご検討いただきたい。
【草案第3条】
「言語」は、口及び耳による言語並びに手話を含む。
参考:【自由権規約第27条(少数民族の権利)】
「種族的、宗教的又は言語的少数民族が存在する国において、当該少数民族に属する者は、その集団の他の構成員とともに自己の文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利を否定されない。」
◆ 要望3 平等及び非差別(草案第2条、3条、7条)
(1)第3回特別委員会における日本政府の発言において、直接差別と間接差別の違いの基準、または「認識された障害」の基準が明らかでないため、草案第7条2項(a)の「差別とは、あらゆる区別、排除、制限であって…」の中に含められることから削除を求めるという主旨の発言があった。しかし、現行法においては差別の定義に関する明文規定がない。
したがって①間接差別には、加害者に意図性のない無知や無理解による結果として放置される差別事象も含まれること、②「認識された障害」には、社会が認識する障害(例えば「ユニークフェイス」の当事者など)の場合も少なくないことを踏まえて、①②に関する一定の解釈指針が必要であることから、「差別の定義」に関する解釈指針についてご検討いただきたい。
【草案第7条2項(b)】
「差別は、あらゆる形態の差別(直接的、間接的及び体系的な差別を含む。)を含むものとし、また、現実にある障害又は認識された障害を理由とする差別を含むものとする。」
(2)草案第7条3項(差別の免責事由)については、既存の人権諸条約にはどこにも規定がない中で、ことさらに障害者の権利条約に特化して明記されている。「差別の免責事由」が明記された場合、各条の実体規定との関係で、既存の人権諸条約よりも下回るものになりかねない。
例えば運転免許の資格取得の場合を考えても、資格取得に必要な要件(技能等)を満たしているかどうかで個別的に判断されるべきで、一律に特定の障害に対して一定の制限をすることになれば、差別の放置・助長につながる恐れがある。第7条で位置づけると、「あらゆる形態の差別」に適用される可能性がある一方、EU提案では、間接差別に「差別の免責事由」(下線部参照)を位置づけることになっている。基本的には、差別の免責事由は削除する方向でご検討いただきたい。
【草案第7条3項】
「差別は、正当な目的により、かつ、その目的を達成する手段が合理的かつ必要である場合には、締約国が客観的かつ明白に十分な根拠を示す規定、基準又は慣行を含まない」
【EU提案 第3条2項】(第3回特別委員会提出 川島訳)
2. この条約の適用上、「障害を理由とする差別」とは、あらゆる区別、排除又は制限であって、障害のある人が平等な立場ですべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。
(a) 直接差別は、比較可能な状況において、ある者が障害を理由として他の者より不利に取り扱われている、取り扱われてきている又は取り扱われるであろうときに生じるものとする。
(b) 間接差別は、外見上は中立的な規定、基準又は慣行が、障害を有する者に対し、他の人々と比較して特段の不利益をもたらすときに生じるものとする。ただし、その規定、基準若しくは慣行が合法的な目的により客観的に正当化され、かつ、当該目的を達成する手段が適当でかつ必要である場合には、又は、その不利益を除去するための措置がとられる場合には、この限りでない。
◆要望4 合理的配慮(草案第3条、7条、17条、22条)
(1)草案第7条4項では「(略)合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)」と規定しながら、「不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」としているために、障害のある人に対する結果としての不利益、差別的取扱いが放置されることにつながる恐れがある。関係主体が「不釣合いな負担」に適切に対応できない場合には、関係主体の責任と能力に応じて、その「不釣合いな負担」に関する部分的または全体的な評価を第三者機関が行うことができるための説明責任があるという方向でご検討いただきたい。
【草案第7条4項】
「締約国は、平等についての障害のある人の権利を確保するため、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を平等な立場で享有し及び行使することを保障するための必要かつ適当な変更及び調整と定義される合理的配慮を提供するためのすべての適当な措置(立法措置を含む。)をとることを約束する。ただし、このような措置が不釣合いな負担を課す場合には、この限りでない。」
(2)「合理的配慮」という用語は、作業部会草案の実体規定においては、第3条(定義)、第7条(平等及び非差別)、第17条(教育)、第22条(雇用)で明記されている。少なくとも、これら4つの条文で明記された「合理的配慮」という文言自体は削除されるべきでない。さらに、これらの条文に加えて、草案第4条(本条約に定めるすべての権利に適用される一般的義務規定)及びその他の条文においても、「合理的配慮」を明示的に言及する余地は十分あるという認識に立ってご検討いただきたい。
【草案第17条2項(b)】
「必要とされる支援(教員…中略…又は障害のある生徒・学生の完全な参加を確保するための他の合理的配慮を含む。)を提供すること。」
【草案第22条(e)】
「職場及び労働環境における障害のある人の合理的配慮を確保すること。」
(3)「合理的配慮」の否定が公的分野か私的分野かを問わず障害差別であることを認めて、「合理的配慮」を提供するための締約国の義務が公的分野と私的分野の双方に及ぶことが重要であるという観点からご検討いただきたい。
◆要望5 強制医療、身体拘束、施設収容(草案第10条、11条、12条、15条、21条)
(1)草案第10条1項は、そのまま維持すべきである。他方、同条2項は、障害のある人が自由を奪われてもやむを得ないという認識と誤解を招く虞があるため、一旦削除し、自由権規約第9条を障害者特有のニーズを十分に考慮した条文として抜本的に修正した上で、新たに設けるべきである。この場合は言うまでもなく、既存の国際人権基準を下回るような規定とならないことに十分留意してご検討いただきたい。
(2)<質問として>
第3回特別委員会における「自由の剥奪について定期的な審査を求めること」(草案10条-2-(c)-(ⅱ))についての削除の主張に関して、政府の立場は、例外的に強制収用もありうるという立場であり、現行の司法手続との関連もあって「定期的な審査」の削除を主張していると思われる。現行の国内精神保健福祉法においては、強制入院の定期の報告等による審査の条項(第38条の2項、3項)がある。あえて削除を主張した理由についておうかがいしたい。
【草案第10条1項、2項】
1. 締約国は、次のことを確保する。
(a) 障害のある人が、障害を理由とする差別なしに、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。
(b) 障害のある人がその自由を違法に又は恣意的に奪われないこと並びにあらゆる自由が法律で定めることなしに奪われず、かつ、いかなる場合にも障害を理由として奪われないこと。
2. 締約国は、障害のある人が自由を奪われた場合には、次のことを確保する。
(a) 人道的にかつ人間の固有の尊厳を尊重して、及び障害に基づくニーズを考慮して、障害のある人を取り扱うこと。
(b) 自由の剥奪の理由に関する十分な情報を利用可能な形態で障害のある人に提供すること。
(c) 次のことのための法的その他の適当な支援の速やかな利用を障害のある人に提供すること。
(i) 自由の剥奪の合法性を裁判所その他の権限のある独立のかつ公平な機関において争うこと(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
(ii) 自由の剥奪について定期的な審査を求めること。
(3)<質問として>
本年2月の社会開発委員会で採択されず総会にまわされた、権利条約と深い関連のある「機会均等基準の補足文(サプリメント)」は、現在どういう状態か、おうかがいしたい。
【機会均等基準の補足文(サプリメント)33条】(全日本ろうあ連盟訳)
「政府は、医療機関、医療従事者が障害を持つ人に自主的決定の権利、インフォームド・コンセントを要求する権利、治療を拒否する権利、医療施設への強制収容に応じない権利などについて知らせることを保障すべきである。政府は更に障害を持つ人が望まない医療的または関連介入、矯正手術などが強制的に行われることを防ぐべきである。」
(4)草案15条(自立した生活とインクルージョン)の(b)においては、「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活様式を義務づけられないことを確保する」ための適当かつ効果的な措置をとる義務規定は維持する方向でご検討いただきたい。
【草案第15条(b)】
「障害のある人が、施設への収容及び特定の生活形式を義務づけられないことを確保すること。」
(5)「希望に基づかない医療及び医療関連の介入及び矯正手術が障害のある人に矯正されることを防止する」(草案第21条(k))については、「防止する」という文言を「禁止しかつ防止する」に修正するようご検討いただきたい。
◆要望6 教育(草案第17条)
(1)第3項における〔草案脚注61〕の選択と、教育についての権利との比較に関しては、「選択できる環境の提供」こそが教育についての権利のまさに核心部分であるべきである(下線部分参照)。 視覚障害教員がいて、点字の指導ができる盲学校、聴覚障害・ろうの教員がいて手話の指導ができる聾学校それぞれに関する適切で十分な情報提供が、本人、保護者に対して行われなければならない。また、普通学校に就学している視覚障害のある子に対しては専門機関としての盲学校からの支援が受けられる体制ないしシステムを作るべきであり、こうした条件整備が必要であるという観点からご検討いただきたい。
(2)(c)の「十分な説明に基づいて自由に選択」は非常に重要である。この条文に関しては脚注もついておらず論点となっていない。この条文のまま条約に盛り込まれるようご検討いただきたい。
【草案第17条3項】
3 締約国は、一般教育制度が障害のある人のニーズを十分に満たしていない場合には、特別の又は代替的な学習形態を利用可能なものにすることを確保する。いかなる特別の又は代替的な学習形態も、
(a) 一般教育制度で提供される同一の基準及び趣旨を反映しなければならない。
(b) 一般教育制度への障害のある子どもの参加を最大限可能な程度まで認めるようにして提供されなければならない。
(c) 一般制度か特別制度かを十分な説明に基づいて自由に選択することを認めなければならない。
(d) いかなる意味においても、障害のある生徒・学生のニーズを一般教育制度において満たすことに引き続き努める締約国の義務を制限するものであってはならない。
【草案 脚注61】
「作業部会の構成員は、このパラグラフの一つの重要な要素が選択であると考えた一方、その構成員の中には、教育についての権利がより重要であると考えた者もいる。他の構成員の中には、この選択において子どもの利益を一層強調することが好ましいと考えた者もいる。また、専門的教育サービスと一般教育制度との関係を提示する様々なアプローチが確認された。作業部会の構成員の中には、一般教育制度における障害児の教育が通則で、専門的教育サービスは例外であるべきだと考えた者もいる。他方、構成員の中には、あるアプローチが他のアプローチよりも望ましいという想定をしないで、専門的教育サービスは一般教育制度が不十分である場合に提供されるのみならず、むしろいつでも利用可能であるべきだと考えた者もいる。たとえば、構成員の中には、ろう児及び盲児が自己の集団において教育を受けることを認める必要性を強調した者もいる。後者のアプローチをとる場合であっても、作業部会は、一般教育制度か専門的教育サービスかを選択する個人の能力を制限することなく、障害のある生徒・学生が一般教育制度を利用できるようにするための明確な義務を国家がなお負うべきであると考えた。」
◆要望7 労働(草案第22条)
(1)草案前書きの「締約国は、この権利を保護するための適当な措置をとる」(下線部分)場合には、障害者の職業リハビリテーションおよび雇用措置を効果的に推進するために、労使の代表的な団体および障害当事者および障害関係の代表的な団体がその協議に預かることはきわめて重要である。この点については、国際労働機関(ILO)の「職業リハビリテーションおよび雇用(障害者)に関する条約」(第159号条約)第5条にもそのことが謳われていることから、「代表的な使用者団体及び労働者団体並びに代表的な障害当事者団体及び障害関係団体はこの措置の実施に関して協議を受ける」ことを盛り込む方向でご検討いただきたい。
【草案前書き】
「締約国は、障害のある人の労働の権利を認める。この権利は、障害のある人の平等な機会及び取扱いを促進するため、障害のある人が自由に選択し又は引き受けた労働を通じて生計を立てる機会を含む。締約国は、この権利を保護するための適当な措置をとる。この措置は次のことのための措置を含む。」
(2)障害者数等の保健統計はあっても、障害者の就業・雇用統計を作成している国は非常に少ないのが現状であり、障害者の就業・雇用状況を改善するためにも、その就業・雇用実態を把握することは、きわめて重要。近年、EUの雇用戦略では、従来の「失業率」の低下に代えて、「就業率」を上げることを目標にしている。そこには、障害者の場合もあてはまるが、さまざまな理由から非労働力化している人びとをできるだけ労働市場に参加できるようにする、あるいは、仕事を通じて万人を社会に統合しようという発想があり、その目標の基本指標として「就業率」を使用し、その結果も公表していることから、第22条の(a)項に続けて「締約国は、障害者の労働市場における就業状態を示す基本的指標として、「障害者就業率」(労働年齢期における障害者人口のうち、働いている障害者の比率)などの統計を作成すること。」を盛り込む方向でご検討いただきたい。
【草案第22条(a)項】
「障害のあるすべての人に開かれ、インクルーシブであり、かつ、アクセス可能な労働市場及び労働環境を促進すること。」
(3)「合理的配慮」については、第3条「定義」の「合理的配慮の欠如」において規定されることと思われるが、その労働にかかわる内容としては、「障害のあるアメリカ人法(ADA)」の次の規定を参考にしてご検討いただきたい。
「(A)従業員によって使用される現存する施設を障害者に容易に利用でき(アクセシブル)かつ使用可能にすること。
(B)仕事の再編成、パートタイムまたは変更された勤務日程、空席の地位への配置転換、機器または装置の取得または改変、試験、訓練教材または方針の適当な調整または変更、有資格の朗読者または通訳の提供、およびその他、障害者のための同様な適応化」
【草案22条(e)項】
「職場及び労働環境における障害のある人の合理的配慮を確保すること。」
◆要望8 国際協力(付属書Ⅱ)
(1)国際協力については、条文に取り上げること自体が重要である。条文に位置づけられなければ、障害者の国際領域において何をしていくのかという議論すらおこってこないというマイナス面を考慮してご検討いただきたい。
【関連規定:社会権規約第2条1項】
「この規約の締約国は、(略)自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、個々に又は国際的な援助及び協力、特に、経済上及び技術上の援助及び協力を通じて、行動をとることを約束する。」
【関連規定:子どもの権利条約第4条】
「締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、自国における利用可能な手段の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で、これらの措置を講ずる。」
(2)現在の政府開発援助の問題点は、障害者だけを対象にした事業と、一般的な事業が乖離し、後者における障害者への配慮が欠けている点にある。障害者を対象とした国際協力事業だけでなく、一般住民を対象とした国際協力事業の恩恵にも障害者が浴しうるようにするため、バリアフリーガイドラインの策定と遵守を国際協力の原則とすることを条文として提案することをご検討いただきたい。
◆要望9 モニタリング(監視)
● 国際レベルのモニタリング(監視)
(1)現在、条約体改革議論が国際レベルで進められ、既存の諸条約の目的達成を図る上でのモニタリング(監視)の合理化の必要性には一定の認識をもつが、本来は目的達成に向けて、人的資源や予算の増強を行い政治的意思の伸張を目指していくことがモニタリングの望ましい姿である。人権条約体の実効性と合理性(効率性)との両方の観点から、障害者権利条約の国際モニタリング(監視)を設けるという結論を日本政府としてもつ方向でご検討いただきたい。
(2)既存の人権諸条約には、すべて定期報告審査があり、批准している国はすべて報告義務があるが、現状は、報告書提出の期限に間に合わない国が続出し、委員会側の報告書審査も裁ききれていない状況にある。その要因としては、委員会をサポートする人権高等弁務官事務所などの人が足りない。そもそも国連の予算が少なすぎて人が雇えないことなどが上げられるが、もっとも大きなものとしては、何より委員の選出の仕方が不透明であること、そして政府から独立しているのかが分からない人が紛れ込んでいるなどの点で、独立性に対して疑問が指摘されている。
(3)前記(2)の現状を踏まえて、障害者の権利条約を本当に履行させていくためには、実施措置の規定によって「障害者の権利条約委員会」を設置するというのがベストであるという観点から、その審議にあたっては次の点が明記されるようご検討いただきたい。
①NGOと関係機関を報告審査の中に位置づけることを条約に明記をすること。
②審査にあたる委員の審査にあたっては、だれが委員になるのか、当事者性をはっきりさせること。そうでないと提起される問題の意味も伝わらない。
③委員をサポートする機能が必要。人権高等弁務官事務所でいいのか、他の委員会と分断されない仕組みが大切であり、それに伴う資金の確保も必要である。
④どのような形で情報提供すればいいかを条約に明記すること。
※とくに③④については、ILO(国際労働機関)による「児童労働の禁止」に向けた取り組みが参考になると思われる。
● 国内モニタリング(監視)
(1)政府部内のどこに調整機関を置くべきか明確にするとともに、調整機関に当事者の意思を反映させていくこと。障害者の権利条約では、少なくとも外務省の所轄部局と内閣府の障害者施策推進本部が政府内の総合的調整機能の役割を果たし、NGOの参画と意見を反映するための協議機関を設置する方向でご検討いただきたい。
【草案第25条第1項】
「締約国は、この条約の実施に関連する事項についての中心的な活動機関を政府内に指定するものとし、また、多様な部門及び多様な段階において関連のある活動を推進するため、調整機関の設置又は指定について正当に考慮する。」
(2)「国内人権機関に関するパリ原則」(1993年)の主旨を踏まえて、第1に行政機関からの独立性と当事者性(委員構成における障害NGO委員の積極的な参画等)が確保され、救済を含めた条約の実施状況に関する監視を行うための仕組みを明確にすること。第2に実効性のある権限と役割をもたせるために、権利侵害の救済を明記した監視・救済委員会の設置法が必要であるという観点からご検討いただきたい。
【草案第25条第2項】
「締約国は、その法的及び行政的な制度に従って、この条約で認められた権利の実施を促進し、保護し及び監視するための枠組 を国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」
以上