要望書・意見書
■最終更新 2013年4月4日
「障害者の権利条約」国連特別委員会議長草案に関する意見書
2006年2月8日
外務大臣
麻生 太郎 様
日本障害フォーラム(JDF)
代表 小川 榮一
「障害者の権利条約」国連特別委員会議長草案に関する意見書
拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
現在、国連において、「障害者の権利及び尊厳の推進、保護に関する包括的かつ総合的な国際条約」(以下、権利条約と略)の策定作業が進められております。特に日本政府が当初よりこの権利条約に大きな関心を持って条約策定過程に積極的に参画しておられることに敬意を表し、感謝しております。
御存知の通り今年の10月、国連での条約策定の議論の場である権利条約特別委員会の議長であるドン・マッケイ氏より標記の議長草案(Chairman’s
Text, 7 October 2005/以下、議長草案)が提案されました。この議長草案は今後締結されるであろう条約の基礎となるきわめて重要なものであると認識しております。
私たち日本障害フォーラム(以下、JDFと略)は、これまで権利条約策定作業の過程において政府との協議を重ねており、また、第2回特別委員会より毎回、JDFの推薦者が日本政府代表団の顧問として参画するなど、NGOの立場から政府との連携を進めてまいりました。私たちは可能な限り政府と共通認識をもちながら貢献をしていきたいと考えております。
第7回の国連特別委員会に向けて、政府との意見交換会(2月11日)の内容に関連して一部修正と追加意見を加えましたので、改めて提出させていただきます。
各省庁において意見のとりまとめを進めておられていることと存じますが、JDFといたしましても、今回の議長草案の各条文に対して検討を進め、意見書としてまとめました。草案の前文および各条文につき、別添のとおり私どもの意見を提示させていただきますので、積極的にご検討下さるようお願い申し上げます。また、日本政府に置かれましては、今後の特別委員会において、私ども障害関係団体の考えを十分に汲み取っていただき、日本政府として意見を提起していただきたいと強く願っております。
敬具
*注1:「議長草案」は、<こちら>を参照のこと。
2:文中の番号1), 2)...は、意見書原本では○数字
(前文)
○修正・理由
(h)において、「社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に障害のある人が」を「障害のある人に対する社会の平等な構成員としての参加を妨げる環境上の障壁及び人権侵害に、障害のある人が」とする。
【理由】環境によって障壁が作られるという点も文言上で確認する必要があると考えられるため
第1部
第1条(目的)
○意見
1)条約の目的に定める第1条は、作業部会草案(旧1条)を修正したものであり、「この条約は、障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全かつ平等に享有することを促進し、保護し、及び充足することを目的とする」と規定する。
議長添状(カバリング・レター)において、この条文が必要か否かという論点が指摘されている。すなわち、この条約のタイトル(障害者の権利及び尊厳の保護及び促進)が条約の目的を実質的に示唆していることや、主要人権条約に条約の目的に関する条文が含まれていないことから、第1条の存在理由に疑義が呈されている。
この点、主要人権条約ではないが国連憲章等には条約の目的の規定が見られることや、国際法と国内法との違いはあるにせよ国内法では法律の目的を書くことは一般に見られることから考えると、さしあたり第1条(目的)の存在が絶対に受け入れられないとまでは言えない。なお、規定振りの問題として、議長草案の第1条(目的)よりも、作業部会草案の第1条(目的)の方が良いと思われるため、後者の文言をさらに強化する方向で、条約の目的に関する議論を更に行う必要がある。
2)上記論点は、条約タイトルとの関連でも検討すべき課題である。これまでの条約交渉では、現在の条約タイトル(障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する包括的かつ総合的な国際条約)は長すぎるため、それを簡潔なものとすべきであるとの提案も見られる。条約タイトル(名称)については、作業部会草案の第1条(目的)との関連で今後検討すべきである。
第2条(定義)
○修正・理由
1)第2条の差別の定義の後に、あらゆる形態の差別については、直接差別のみならず、「間接差別」も含むことが明記されていることを積極的に支持する。
【理由】日本では、間接差別が差別であるという意識が薄いので、注意を喚起することが必要であり、間接差別の概念は、EU指令第2条により実体化された概念であり、女性差別撤廃条約でもこの間接差別の概念を含むものとされていることから、障害のある人への差別においても明確にされる必要がある。
2)第2条の差別の定義に「合理的配慮の欠如の場合」を挿入すること。
3)第2条で「「合理的配慮」とは、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整である」という点で区切り、例外は、第5条の実施の例外として規定すべきである
○意見
1)「コミュニケーション」の定義の中には、「文字表示」という言葉も明示して入れるべきである。
2)議長添状によれば、「障害」と「障害のある人」の定義を盛り込むことの妥当性に対して疑念が呈されている。これまでの条約交渉の動向を踏まえて、議長は、両定義が不要であると受け取れるような見解を示している←議長添状は「Views
are divided as to whether it is necessary to define “Disability” and
“Persons with disabilities”. I tend to think that we don’t, as this
will be very difficult, and there is a risk that we will unintentionally
exclude someone.」なぜなら、これらの定義は困難であり、特定の障害者を排除する可能性があるからである。もっとも、「障害の定義」及び「障害のある人の定義」についての議論は、特別委員会において十分なされていない。現時点において両定義が不必要であると決めることは時期尚早である。両定義を設ける場合には、特定の障害・障害者を排除しないように広範な内容のものとすべきである。
3)「障害に基づく差別」の定義には、合理的配慮の否定が盛り込まれていない。その理由として、議長添状は、合理的配慮の概念が不明瞭であることに加え、合理的配慮が即時的に提供できない国が多いことを指摘している(非差別には漸進的実現の原則が適用されない)。
しかしながら、合理的配慮の概念は、諸国やEUにおいて非差別(差別禁止)の文脈で法理論的に少しずつ発展してきていることに十分留意しなければならない。さらに、社会権規約委員会の一般的意見第5号は、障害に基づく差別には合理的配慮の否定も含まれるとしている。したがって、合理的配慮の否定を差別の定義に含めないことについては疑念があり、それを受け入れることは困難である。
第3条(一般的原則)
○意見
1)議長草案が定める一般的原則(第3条)は、計7つの原則を定めている。これらの原則はおおむね妥当であり、受け入れられる内容である。
2)「エンパワーメント」と「自己決定(self-determination)」という言葉も、第3条で明示的に追加すべきである。
<第4条(一般的義務)
○意見
1)経済的・社会的・文化的権利の漸進的実現という原則がこれまでの条約交渉で受け入れられている。また、この条約が定める各条文の多くには、市民的・政治的権利と経済的・社会的・文化的権利と非差別という各要素が含まれているとの理解も受け入れられている。そこで、議長草案は、漸進的実現の原則を各条文で逐一言及する手法をとらず、条約全体に適用される第4条(一般的義務)で言及している。また、非差別には漸進的実現の原則が適用されないという原則についても受け入れられているため、この原則も4条に盛り込まれた。さらに第4条は、子どもの権利条約41条や女性差別撤廃条約23条に見られる既存の権利からの逸脱不可能という原則も含まれるようになった。以上の内容を含め第4条の内容はおおむね妥当であると言える。
2)ただし、第4条には追加すべき不可欠な事柄がある。それは、地方自治体(地方政府local
government)に関する言及である。というのも、国(中央政府)のみならず、地方自治体(中央政府)もまた、この条約を実施する義務を負うことを明示的に規定する意義は大きいからである。さらに、「救済規定」についても、第4条で言及すべきである。今日では、いわゆる社会権と従来呼ばれてきた権利であっても、司法的救済その他の救済に馴染むものがあるとの実体・理解が存在するからである。この点、議長草案前文で、人権の不可分性と相互依存性が記されていることに留意すべきである。また、社会権であっても非差別については即時的実現が適用されるとの合意が特別委員会で形成されていることに留意すべきである。
第5条〔平等及び非差別〕(第2条も含む)
○意見
1)差別の定義と合理的配慮の定義に関しては、作業部会草案とは異なり、第2条で扱っているので、条文自体としてコンパクトになっている点と、差別の例外について一般的正当化理由を削除している。これらの点は評価できる。
2)差別と合理的配慮について、合理的配慮とは、障害のある人の完全参加を阻む障壁を取り除くため必要な物的・人的支援のうち、その支援がなければ障害のある人が実質的に区別・排除・制限による不利益取扱を受けていると同視される場合をいうのであり、あくまで、個人との関係で、その欠如が差別に当たるか否かという差別の範疇での議論である。
これに対して、アファーマティブアクションや積極的措置は、個人と相手方の具体的な状況を個別的に勘案するものではなく、一定の制度的保障を求めるものであること、また、これがなくとも差別とはならない点で合理的配慮とは異なるものである。しかも、合理的配慮は、相手方に過度の負担を課す場合には、免除されるものであるので、これを社会権としてとらえ、漸進的な実現を許すものと解する必要がない。
3)過度な負担の位置づけについて:第2条では、合理的配慮の定義とその実施に関する例外を規定するが、実施措置に関しては、第5条が扱っているのであるから、例外規定部分は、第5条に移すべきである。
4)特別措置について、時限的な性格に関する作業部会草案の文言は維持する。議長草案では、種々の必要な措置を含むことになり、割当制度のみを対象としているわけではないので、やはり、時限的な性格は一般原則として、残すべきである。
[第6条〔障害のある女性〕]
○意見
ジェンダーに基づく格差是正のために、前文や、一般的原則、他の関連箇所に加え、障害女性に関する独立した条文を支持する。その内容としては、韓国提案、ファシリテーター提案(2005年8月8日付)、国際障害コーカス(IDC)提案(第7回特別委)に盛り込まれている「障害のある女性が、家庭内外における性的搾取、虐待及び暴力から保護されることを確保する」を盛り込む。
○関連国内施策
障害者基本法の将来の改正に当たっては、障害女性の社会参加、意思決定過程への参画促進に関する記述を盛り込む。たとえば、障害者基本法第17条第3項「中央協議会の委員は、障害者、障害者の福祉に関する事業に従事する者及び学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命するものとすること。この場合において、委員の構成については、中央協議会が<障害女性を含む>様々な障害者の意見を聴き障害者の実情を踏まえた協議を行うことができることとなるよう、配慮されなければならないものとすること」を挿入する。現在は、同協議会構成員30名のうち、障害女性は2名に過ぎない。
[第7条〔障害のある子ども〕]
○意見
障害児に関しては、前文および、第3条〔一般的原則〕での言及を行うほか、第7条を障害児に関する独立した条文とし「締約国は障害のある子どもを、性的虐待をはじめとする虐待、搾取、遺棄から保護する。締約国は難民生活を送る障害のある子ども及び障害のある孤児をはじめとする弱い立場にある障害のある子どもの権利を確保する。」を盛り込む。
○関連国内施策
子ども虐待防止法での「障害児」の保護への言及が求められる。また、検討されている障害者虐待防止法で、障害児に特に言及する。
第8条(障害に関する意識向上)
○修正
第8条の見出しは、単に「意識向上」とすべき
○意見
議長草案が定める第8条(意識向上)はおおむね妥当であり、受け入れられる内容である。ただし、第8条第2項(a)―(ii)にある「セクシュアリティ」は、この条文で残すべきである。
第9条〔アクセシビリティ(利用のしやすさ)〕
○修正・理由
1)第1項柱書の「その他のサービスにおける障壁を明らかにし及び撤廃することにより、」を「その他のサービスにおける障壁を見分けかつ撤廃し、また、新しい障壁を防止することにより、」とする
2)第2項(a)において、中途失聴者・難聴者のニーズを反映させるため、「公共の建物及び設備において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形式・‥」を「公共の建物及び設備において、点字表示、文字表示及び読みやすく理解しやすい形式・‥」とする。
3)第2項(b)において、中途失聴者・難聴者のニーズを反映させるため、「ライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び手話通訳者を含む)」を「ライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び手話通訳者、文字通訳者を含む)」とする。
4)民間部門に対しては、「容易にする」「促進する」という曖昧な努力規定から、より強い拘束力のある努力義務規定にしていくために、「確保する」を用いる。以下の項目が該当すると考える。
(b)「アクセシビリティを容易にする」を「アクセシビリティを確保する」とする。
(f)「アクセスすることを促進すること」を「アクセスすることを確保すること」とする。
(g)「…分配を促進すること。」を「…分配を確保すること。」とする。
(h)「援助及び支援を促進すること。」を「援助及び支援を確保すること。」とする。
5)第20条〔人のモビリティ(移動のしやすさ)〕を、本条の第3項として新しい条項を起こして、本条に合体する。
【理由】本条の新しい条項として、第20条〔人のモビリティ〕を合体するという趣旨は、「アクセシビリティ」の概念を、基盤整備に関連する条項(第1、2項)と、障害のある人の個別的な特性に基づくニーズに対して効果的措置をとること(3項)を組み合わせることによって、民間主体への合理的配慮の提供を含む、より広義の概念にしていくことが重要と考える。
【第3項新文案】
3 この条約の締約国は、障害のある人の最大限可能な自立を伴った移動の自由を確保するための効果的な措置をとる。この措置には次のことを含む。
(a) 障害のある人が選択する方法で及び時に、かつ、入手可能な費用で、障害のある人の移動の自由を確保すること。(→「容易に」を「確保」に修正する)
(b) 障害のある人が質の高い、モビリティのための補助具、機器、支援技術、ライブ支援及び仲介者を利用することを確保すること(これらを障害のある人に提供する民間主体への公的支援を通じて、入手可能な費用で利用可能なものにすることを含む。)。
(修正部分→1)「容易に」を「確保」に修正する、2)「障害のある人に提供する民間主体への公的支援を通じて、」を追加)
(c) 障害のある人に対し及び障害のある人と共に働いている専門職員に対し、モビリティに関する技術の訓練を提供すること。
(d) モビリティのための補助具、機器及び支援技術を生産する民間主体が障害のある人に係るモビリティのあらゆる側面を考慮することを奨励すること。
○意見
広義のアクセシビリティ規定となる第9条では、権利規定的な書き振りがあるとよい。社会権的規定なので、それほど問題にはならないと思われる。
○関連国内法規
交通バリアフリー法、ハートビル法あるいはこの2法を統合させた「ユニバーサルデザイン法」(検討開始?)。また参考として、日本福祉の街づくり学会などから提案されている「総合アクセス法」など。
第2部
第10条〔生命に対する権利〕
○意見 現在の条文案を支持する。
[第11条〔危険のある状況〕]
○修正・理由
「被害を受け(vulnerable)のあとに不利な立場に置かれやすい(and disadvantaged)を追加する。
【理由】具体的な危険のある状況への言及は不要であり、現在の一般的な条文を基本的に支持するが、安全確保の環境整備の重要性を強調するため。
○関連国内施策
内閣府は「災害時要援護者の避難支援ガイドライン」(2005年3月)を取りまとめた他、現在、「災害時要援護者の避難対策に関する検討会」を開催し、支援方策に関するさらなる具体策を探っている。災害時の障害者への情報提供、安全確保施策が重要である。
第12条〔法律の前における人としての平等の承認〕
○修正・理由
1)第12条第1項は以下のように修正する。
【第12条第1項新文案】
1 障害のあるすべての人は、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有する。また、障害のある人は、その法的能力を行使するための支援を利用する権利、及び支援を受けた上での意思決定(supported decision-making)についての権利を有する。これらの権利を確保するため、締約国は、とりわけ、障害のある人が法的能力を行使するための支援が、その者の要求を満たし、その者の権利及び自由を害さず、その者の意思及び選好を尊重し、かつ利益相反および不当な干渉を生じさせないことを目的とする立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
【理由】議長草案第2項(a)は、後見制度を前提とするものであるが、権利能力を奪う後見制度は、支援を受けた自己決定の考え方に基づいて、変更されるべきである。また、第2項(b)について、日本に存在はしないが、人格代理人制度は否定すべきであるため(b)項全体の削除が望ましい。したがって、本条文の修正が必要であると思われるため。議長草案第3項は新条文案においては第2項となる。
第13条〔司法へのアクセス〕
○修正・理由
1)日本案の例示部分(物理的乃至コミュニケーション上の障害を除去し、障害者の理解の困難を低減させることを含む、適当かつ実効的な措置)を議長草案に挿入する。
【理由】議長草案は、日本案より射程範囲が広くなっているとはいえ非常に抽象的であり、何がバリアとなっているのか、何を国家が何をすべきか、これでは分かりにくい。例示を若干でも入れ込むべきである。
2)「容易にする」とあるが、これを「確保する」に変更する。
【理由】議長草案では、締約国の義務がかなり弱くなっているのは非常に問題である。司法へのアクセスは、自己の運命が左右される権利や地位の確定の場面での問題であり、自由権規約の適正手続き条項上の権利に関わる問題であるので、可能な限り即時的な実現が求められる。
第14条〔身体の自由及び安全〕
○修正・理由
1)第1項(b)を以下のように訂正する。
障害のある人が他の者との平等を基礎として自由を違法に又は恣意的に奪われないこと、かつ、いかなる場合においても障害の存在が自由の剥奪の要件、因子、とはされないこと
【理由】 精神障害の存在ないし精神障害者についての自傷他害の恐れということを理由に拘束を合法化することは、精神障害者の基本的人権を踏みにじるものであり、如何なる理由があろうと許されない。
2)第2項を以下のように修正する。
【第14条2項新文案】
いかなる手続によっても障害のある人の自由が奪われた場合には、その者は、少なくとも、他の者との平等を基礎として、かつ、アクセシビリティ及び合理的配慮が確保された上で、一般に適用のある国内法に含まれる保障を受けるものとする。このため締約国は、自由を奪われた障害のある人が、
(a) 人道的に並びに人間固有の尊厳及び価値を尊重して取り扱われることを確保する。
(b) 自律及び自己決定を尊重して取り扱われること、並びに個人が必要とするものに対する合理的配慮を速やかに提供されることを確保する。
(c) 同様に自由が奪われた公衆に利用可能なすべての設備、情報、サービス及び計画に速やかにアクセスすることができることを確保する。
(d) 法的権利に関する及び自由の剥奪の理由に関する十分にアクセス可能な情報を速やかに提供されることを確保する。
(e) 裁判所において、自由の剥奪の合法性を争うこと及び公正な審理(聴取される権利を含む。)を受けることための法的援助その他の適当な援助に速やかにアクセスすることができることを確保する。(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
(f) 不法に自由が奪われた場合には、賠償を受ける強制執行可能な権利を有することを確保する。
【理由】文案は国際障害コーカス(IDC)提案を基に作成したもの。書き換える理由として、法律によれば、自由を剥奪できると解釈できる書き振りを避けるべきある。議長草案にある民事上の拘束というのは我が国の概念にはないこと、自由の剥奪に際しての合理的配慮及び一般に確保される最低限の保証の必要性を明確にするため。議長草案第2項のC(i)の「その他の権限のある独立の公平な機関」の部分を削除する。拘束に関する自由権規約以下のレベルに下げるべきではない。
第15条〔拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由〕及び 第17条
○修正・理由
第15条と第17条の一部を統合する。
【理由】そもそも15条も17条も、障害者のインテグリティ(無傷性)の保護を目的とする条文です。しかし、強制的介入を15条から分離するため新たに17条が作られたものであり、そのため15条と17条は必然的に重複する側面がある。したがって、思い切って議長草案17条を削除し、17条の一部を組み込んだ新条文15条をつくるのが良いと思われる。また、第17条の第2項は第15条に移すべきである。また第3項、第4項 については、第3項において他のものとの平等を基礎とするのであれば、わざわざ規定する必要性がない。そうすると4項も不要であるため、削除。
【新15条案】
1 障害のあるすべての人は、その身体的、精神的及び道徳的なインテグリティ(無傷性)が尊重される権利を有する。この権利を尊重し及び確保するため、締約国は、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
2 障害のあるいかなる人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。このため締約国は、
(a) 障害のある人に対する十分な説明に基づくその自由な同意のない医学的又は科学的実験並びに、いかなる実際上又は認知上の機能障害も矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入を禁止するものとし、また、当該実験及び当該介入から障害のある人を保護する。
(b) 障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
第16条〔搾取、暴力及び虐待からの自由〕
○修正
1)第3項の目的として、防止のみならず「救済」を挿入する
2)第3項の独立の機関の前に本条に関するファシリテーター案にあった「市民社会との効果的な協議の下に」を挿入する。
3)第5項において、発見、調査、場合によっては訴追というだけでなく、「処置」「事後措置」という言葉を挿入する。
○意見
1)救済の目的に関して:本条約上の権利の救済に関し一般規定があれば格別、救済に関する項がない現段階では少なくとも虐待からの救済だけは規定する必要がある。
2)市民社会との連携に関して:虐待防止等の監査機関は、市民社会の社会資源との連携なしには、その効果を発揮できない現状であることは周知のところでもあり、我が国の子ども虐待防止法の下でも積極的に推進されているところである。
3)救済に関する権限:独立の機関の権限として、発見、調査したあとの措置として、「処置」ないしは「事後措置」がなければ、調査で終わるということになり、期待されている救済機能が果たせないことになる。第4項は、回復について触れているが、回復過程の最初は事件からの救済にあるのであるから、救済に関する権限を挿入する必要性がある。
第17条〔人のインテグリティ(無傷性)の保護〕
○修正
第15条に統合(第15条の部分を参照)
第18条(移動の自由)
○意見
本条は、自由権規約第12条「移動・居住の自由」、女性差別撤廃条約第9条や子供の権利条約第7条の国籍に関する権利規定に沿ったものであり、問題ないように思われる
第19条〔地域社会における自立した生活及びインクルージョン〕
○修正
新しく(d)として、「地域生活を可能にするために、障害のある人のニーズに応じて、効果的なサービスの提供を行うことができる計画的な基盤整備とそれに伴う社会資源を増やし分配することを確保する」という旨の新しい条項を追加する。
○意見
おおむね支持できるが、国内法制との関連で、障害者自立支援法に基づき都道府県、市町村に義務付けられる「障害福祉計画」の策定と実施においては、ニーズ調査に基づく数値目標の設定と財源等の確保が有効に行うことが求められているため。
第20条 〔人のモビリティ(移動のしやすさ)〕
○意見 第9条のアクセシビリティに入れ込む。
第21条〔表現及び意見の自由と、情報へのアクセス〕
○修正
1)柱書並びに(b)について、手話、点字に加えて、「文字表示」の挿入を求める。これは難聴者の情報アクセスのためには、文字情報が不可欠であるためである。
2)(c)と(d)について、情報に関する民間部門の重要性に鑑み、「奨励する」を、義務化するために、「要求する」」(requiring)と修正する。
3)(e)について、手話通訳者はろう者だけが利用するものでなく、万人が必要とするものであるため、万人が自由に利用できる制度を確立しなければならないので、以下を提案する。
(e)→「自国の手話を法的に認知し、その開発と普及を支援し、手話通訳を養成し自由に利用できる制度を保障する。」
○意見
全般的には現在の条文案の構成を支持する。また、(a)では、論点となっている情報に関しては、現在の条文案の「公衆向けの情報」(information intended for the general public)を支持する。
○関連国内施策
1)身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律の強化
2)手話の国内法制化
第22条〔プライバシーの尊重〕
○意見 現在の条文案に異議なし
第23条〔家庭及び家族の尊重〕
○意見
おおむね支持できる条文案である。
1)第1項(a)では、障害者の性に対する偏見の強さ、優生学的な負の遺産を考えるに、[そのセクシャリティを経験し、]の挿入は必要である。
2)第1項(b)では、ジェンダーの不平等を考慮し、[並びに両当事者が平等の対等者であること]の挿入を求める。
3)第1項(c)も上述の理由で、[並びに一般に適用のある国内法が認める範囲内で、障害のある人が、情報にアクセスする権利、性と生殖及び家族計画に係る教育にアクセスする権利、これらの権利の行使を可能とするために必要な手段にアクセスする権利並びに生殖能力を保持する平等の機会にアクセスする権利]を支持する。
第24条〔教育〕
○修正・理由
1)第2項(b)の「障害のある人が、可能な程度まで自己の住む地域社会において、
インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること。」から、「可能な程度まで」は削除する。
2)第3項(a):視覚障害者の支援技術利用スキルの重要性を考慮し、
※「支援機器(assistivetechnology)」※を以下のように挿入する。
「点字、代替スクリプト、支援技術利用技能及び歩行技能の習得を容易にし」
3)第3項(c)の英語標記で、盲ろうを意味する”deaf/blind” は”deafblind”に修正
4)第4項に関して、「他のコミュニケーション技能」を追加して、「締約国は、手話、点字又は他のコミュニケーション技能に通じた教員」とする。
また、「障害のある教員」はより具体的に「生徒と同じ障害を持つ教員」に修正する。
○意見 現在の条文案をおおむね支持する。
※修正2)について
1)前「意見書」(2005年12月5日)では、「支援機器(assistive technology)」と記載されているが、これを「支援技術(assistive
technology)」と修正する。
「支援技術(assistive technology)」の語は、障害者の日常生活、とりわけ情報の入出力の場面などで技術的支援が有効であることに着目して、コンピュータ技術、電子工学などの技術革新の成果を応用してこれを支援する技術の総称として用いられている。類似の用語として「適応技術(adaptive
technology)」の語があるが、両者を比較した場合、前者が技術の利用段階または利用者側の視点から技術の応用場面をとらえているのに対して、後者は、開発段階または開発者側の視点からこれをとらえているといえる。
2)支援技術の具体例としては、視覚障害者用の音声ワープロ、スクリーン・リーダ(コンピュータ画面読み上げソフト)、音声ブラウザ、OCR((光学的文字認識)技術を応用した文書読み取り装置、点字編修・印刷システム、点字・普通文字変換システム、点字ディスプレイ装置、上肢障害者などに活用される音声入力システム、聴覚障害者向けのコミュニケーション支援機器などが挙げられる。
3)こうした支援技術の発展に伴い、とりわけ情報の入出力場面で困難のある視覚障害者
の日常生活は大幅に改善されてきていますが、視覚障害者が支援技術の恩恵を享受するためには、教育・訓練の機会が確保される必要があります。現在、盲学校など特殊学校のカリキュラムでは、「自立活動」の一環として、こうした支援技術の利用について教育・訓練が行われています。視覚障害者の場合、歩行訓練など移動面での自立を図るための教育・訓練の他、音声ワープロの入出力、点字文書の編修・印刷、インターネットへのアクセス、電子メールの送受信など、主として文書処理、情報収集、コミュニケーションにおける支援技術の利用技能の習得を目的とする教育・訓練が行われています。しかし、盲学校以外の学校(大学などの高等教育機関を含む)で学ぶ視覚障害者にはこうした教育・訓練を受ける機会はほとんど保障されていないのが現実である。
4)技術の発展は目覚ましく、毎年新たな製品が開発されているだけでなく、その範囲も拡大しています。したがって、盲学校または盲学校以外の通常学校などの教育段階を修了した成人の視覚障害者には、生涯教育の一環として、支援技術の利用について教育・訓練を受け、技能を習得し、向上させる機会を保障していくことが重要となってきている。※
○関連国内施策 障害者基本法第14条第3項の修正
第25条〔健康〕
○修正
(b)の(特に子ども及び高齢者の障害)は削除する。
○意見
(a)の「性と生殖に関する保健サービス」の文言を支持。
第26条〔ハビリテーション及びリハビリテーション〕
○修正
1)第1項の「最大限の身体的、精神的、社会的及び職業的能力」
(fullest physical, mental, social and vocational ability)を「自らの選択に基づく最適の身体的、精神的、社会的及び職業的能力」
(optimumphysical, mental, social and vocational ability based on their choice)に修正する。
2)第2項では、とりわけ保健と保健面でのリハビリテーションの重要性を認識し、
「保健、雇用、教育及び社会サービスの分野」の文言から教育と社会サービスを削除し、特別に言及するのは「保健及び雇用」のみとする。
3)第1項(c)として、「ハビリテーション及びリハビリテーションの目標およびプログラムの決定は、インフォームド・コンセントの原則に基づき、障害のある人または本人の望む支援者の選択と同意に立っておこなうこと。」を新たに追加する。
○意見
第1項について、単なるなる最大限の能力ではなく、自己選択・決定に基づく「最適の能力」に達することを可能にする措置が必要である。なお、「最適」の文言は、「障害者に関する世界行動計画」及び「障害者の機会均等化に関する基準規則」のリハビリテーションの定義でも用いられている。
第27条〔労働及び雇用〕
○意見
1)(a) の「…苦情処理に関し、法律を通じて障害のある人を保護するための措置」については、国内の法制度との関連では「個別労働紛争解決の促進法」に基づいて、厚生労働省の所管である各都道府県の労働局に設置された「紛争調整委員会」がある。本条項との関連で、〔統計及びデータ収集〕(議長草案第31条)のとり方を再検討する必要がある。たとえば、「職場のいじめ」の実態把握をする場合に、各都道府県から上げられてくるデータが、女性、障害者、外国人等の属性が不明なまま、件数の合計だけが出されても実際上の意味をなさない、という基本的な問題がある。また、政府は労働年齢期間にいる障害のある人の就業率等の就業状態に関する統計を作成・公表すべきである。(理由:厚生労働省が社会保障審議会障害者部会(第8回)の「資料3 障害者の就業について」で公表している就業者数126万人のうち、常用雇用者数は、39万人であるの対し、同省が「平成15年度障害者雇用実態調査」で公表している雇用者数は、約49万人であり、両者の数字には大きな差がある。こうした差は、統計の信頼性を損ないかねない。)
2)(f) では、作業部会草案では明記されていた「割当雇用制度」が、議長草案では明記されていない。第6回特別委員会の審議において、一般的合意が得られなかったためであるが、この論点については、政府との意見交換会でも繰り返し議論になっていたところである。「割当雇用制度」については、その運用しだいで、とくに差別禁止との関連でプラスにもマイナスにも作用していくという問題をはらんでいるため、(f)
の「積極的差別是正措置」の中に位置づけて取り組んでいくという考え方が必要である。その上で、障害のない人との平等性を確保していくという観点から、一時的措置か恒久的措置としていくかについては、実態を踏まえて整理していくことが重要である。
3)(g)では、障害に対する「合理的配慮」を「労働(職場)環境の整備」のひとつとして考え、「労働基準法」あるいは「障害者雇用促進法」などのなかで法整備をはかるべきである。たとえば、現在の『障害者雇用対策基本方針』のなかにある「(第3)事業主が行うべき雇用管理に関して指針となるべき事業」にもっと強制力をもたせることができないのか。また、入社後に障害をもち、解雇にいたる場合、その過程で事業主が「合理的配慮」をしたのかどうか、それをしていない場合には解雇は不当とするように法律を整備すべきである。
4)議長テキストでは、一般就職が困難な障害のある人について、一般就労にかわる選択肢は提示されていないが、現実には、そうした選択肢を必要とする、障害のある人は相当数にのぼる。障害者自立支援法では、従来の授産施設などを「就労移行支援施設」と「就労継続支援施設(雇用型と非雇用型)」に再編することが意図されているが、これらの施設で就労する障害のある人も労働者に準じた処遇が可能なように、労働法を適用できるようにすべきである。
第28条(十分な生活水準及び社会保護)
○意見
1)おおむね妥当であり、受け入れられる内容である。
2)作業部会草案で用いられていた「社会保障social security」という文言を「社会保護social
protection」に変更することは大きな問題があるとは言えない。
3)「清浄な水へのアクセスaccess to clean water」という文言を残すことは妥当である。
第29条〔政治的及び公的活動への参加〕
○修正
(a) 項-(ii) で、「(略)並びに政府のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する権利を保護すること。」の「政府の」部分を「政府と自治体の」に修正する。
○意見
1)(a) 項-(ii) について、「(略)並びに政府のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する権利を保護すること。」とあるが、議長草案においても「公的活動」の内容提示が不十分になっている。
2)「公的活動」の内容については、JDFとして提出した「国連・障害者権利条約第6回特別委員会の審議に関する要望書」(本年7月19日付)では、作業部会草案第18条(政治的及び公的活動への参加)に対する言及で次のように指摘している。
(以下、同要望書から)
「公的活動」については、広い意味での参政権と公務就任権とは深い関連性があることを踏まえて、次の点について検討していただきたい。
(1)公務就任権については、官公庁における障害者雇用の別枠採用の促進との関連で、雇用における合理的配慮の明確化を含めて検討する必要があること。
(2)国や自治体における障害のある人の生活領域にかかわる審議会や障害者計画の検討委員会に当事者が委員として参画する場合の、基本的な情報保障やコミュニケーション等に必要な具体的支援を確保する必要があること。
つまり、「公的活動」とは、ナショナルのレベル(「政府のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する」)での問題と、ローカルのレベル(自治体のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する)での問題の双方が含まれるべきである。つまり、「公的活動」に関連する「公務を遂行する」の意味は、「公権力の行使と公の意思の形成にたずさわること」となり、その範囲は、通常、政府と自治体の両方が含まれるというのが一般的解釈である。
第30条〔文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加〕
○修正
「国際法の規定を尊重すると同時に」は削除する。国際法の遵守は当然であり、この文脈で強調する必要は認められない。
○意見
1)第3項の「知的所有権が障壁とならないこと」は重要であり支持する。
2)第4項の障害者の文化的、言語的アイデンティティへの言及も重要である。これは手話をアイデンティティとするろう者にとってはとりわけ重要である。
第3部
第31条〔統計及びデータ収集〕
○意見
1)基本的に支持する。
2)議長草案第4条(一般的義務)の3項―「締約国は、この条約を実施するための法令及び政策を発展させ及び実施する場合において並びに障害のある人と関連する事項に係る他の意思決定過程において、障害のある人及びその団体と緊密に協議し、かつそれらを積極的に関与させる。そのような事項には、(略)データ収集の立案及び実施とを含む。」に、本条が明記されたことは特に重要である。
第32条〔国際協力〕
○意見
国際協力に関する独自の条文を支持する。条文案としては、第6回特別委員会でのファシリテーター案を基本的に支持する。とりわけ、同ファシリテーター案の(c)は、政府開発援助をはじめとする国際協力プログラム全般が障害者を排除しないという原則を確立するために重要である。
○関連国内施策
ODA全般とりわけ、ミレニアム開発目標(MDG)の実施と、人間の安全保障事業での障害の位置づけを明確にする必要がある。
第33条〔国内実施及び国内モニタリング〕
○意見
1)国内モニタリングの過程に、新しく3項として、当事者参画が明記されたことは重要。
2)JDFの意見・要望事項として、基本的にこれまで国内モニタリングで提起してきた内容(以下、引用)に特段の変更はない。今後、パリ原則(1993年)の「国内人権機関」の役割、機能にかかわる課題(独立性当事者性、ジェンダーバランスの確保等)にどこまで近づいているかという観点から検討していく必要がある。
来年の通常国会における人権擁護法案の提出の動向に関心を払いつつ、同法案に基づく「中央人権委員会」の内容と評価については、下記JDFの要望及び意見の「国内モニタリングに関する要望及び意見の(3)役割」との関連で、慎重に検討していく必要がある。
○JDFの意見、要望から-国内モニタリングに関する要望及び意見
(1)草案第25条第1項については、政府部内のどこに調整機関を置くべきか明確にするとともに、調整機関に当事者の意思を反映させていくこと。女性の条約では、内閣府に男女参画局が指定されている。障害者の条約では、少なくとも外務省の所轄部局と内閣府の障害者施策推進本部が政府内の総合的調整機能の役割を果たし、NGOの参画と意見を反映するための協議機関を設置することが必要である。
【草案第25条】
1. 締約国は、この条約の実施に関連する事項についての中心的な活動機関を政府内に指定するものとし、また、多様な部門及び多様な段階において関連のある活動を推進するため、調整機関の設置又は指定について正当に考慮する。
(2)草案第25条第2項については、行政機関からの独立性と当事者性が確保された国内監視機関において、救済を含めた権利の監視を行い、また当事者の意思が反映されるための仕組みと役割を明確にすること。国内監視機関においては、「国内人権機関に関するパリ原則」(1993年)を踏まえ、行政機関からの独立性と当事者性(委員構成における障害NGOの積極的な参画等)が確保され、実効性のある権限と役割をもたせるために、条約の国内実施状況を監視し、権利侵害の救済を明記した監視・救済委員会の設置法の検討が必要である。(国家行政組織法第3条との関連)
【草案第25条】
2. 締約国は、その法的及び行政的な制度に従って、この条約で認められた権利の実施を促進し、保護し及び監視するための枠組を国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。
(3)役割について
1)条約に基づき、国内の法令、政策及び計画を監視すること。
2)条約に基づき、国内法令の影響に関する研究に着手し、それを推進すること。また、障害のある人に与える影響を評価するための制度を開発すること。
3)条約の不遵守についての苦情申立てを処理すること。
4)国内監視委員会は、条約の実施に関する不尊守の申立てを受けると、まず、任意の調査を行い、任意の調査によって事案が明らかにならない場合でかつ事案の解明が必要と判断される場合には、職権による立ち入りも含めた調査を実施する。
5)調査の結果、条約に違反することが確定した場合は、不利益または被害の回復に向けた調停を行う。
6)調停が不調に終わった場合で、かつ差別、権利侵害の行為が認定されるときには、事案の重大性、緊急性に応じて、是正命令、警告、公表、勧告、要望等の処分を行う。
7)条約の実施状況について調査・監視し、定期的にその調査結果をまとめ、関連法令の改廃・制定に関し、提言を内閣に提出する。
8)条約の実施に関する国際的監視委員会に提出する「政府報告書」の作成を政府から委託を受けて行う。
第34条(国際モニタリング)
○意見
議長草案における国際モニタリングに関する条文(第34条)は空白である。もっとも、国際モニタリングを本条約に含めることについては、すでに一般的合意が得られている。また、モニタリングを、既存の人権条約のそれと同等かそれ以上のものにすべきであるとの合意も得られている。さらに、モニタリングのすべての段階に障害者自身と障害者団体が完全に参加することについて一般的支持もある。
第7回特別委員会では、国連人権高等弁務官事務所が準備する、人権条約体改革作業に関する報告等に留意した柔軟な規定を練り上げることになる。その際、すでに合意が得られているように、既存の人権条約と同水準かそれ以上のものを目指しながら、障害者自身がモニタリングに実質的に関与するという原則を具体化する規定ぶりを探る必要がある
○ 第4部については特になし