JDF-日本障害フォーラム-Japan Disability Forum

JDF は、障害のある人の権利を推進することを目的に、障害者団体を中心として2004年に設立された団体です。

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■最終更新 2013年4月4日

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「障害のある人の権利に関する国際条約」国連特別委員会修正議長草案に関する意見書

2006年6月28日

外務大臣
麻生 太郎 様

日本障害フォーラム(JDF)
代表  小川 榮一

「障害のある人の権利に関する国際条約」国連特別委員会修正議長草案に関する意見書

拝啓 時下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 現在、国連において策定作業が進められております「障害のある人の権利に関する国際条約」(以下、権利条約と略)において、日本政府が条約交渉当初より大きな関心を持って条約策定過程に積極的に参画しておられることに心より敬意を表し、感謝いたします。
 今年1月16日から2月3日の15日間の日程で行われた国連第7回障害者の権利条約特別委員会において、昨年10月に特別委員会議長であるドン・マッケイ氏より提案された議長草案(Chairman’s Text)をもとに、条約交渉が進められました。その議論の結果を踏まえ、 今年2月に「障害のある人の権利に関する国際条約:ワーキングテキスト (International Convention on the Rights of Persons with Disabilities: Working Text)」 (以下、修正議長草案と略)が再度、議長より提案がなされたところです。
 御承知の通り、この修正議長草案は、新たに策定されるであろう権利条約の基礎となるきわめて重要なものであることに間違いはございません。
 私たち日本障害フォーラム(以下、JDFと略)は、これまで権利条約策定作業の過程において政府との協議を重ねてきております。また、第2回特別委員会より毎回、JDFの推薦者が日本政府代表団の顧問として参画するなど、NGOの立場から政府との連携を進めてまいりました。私たちは可能な限り政府と共通認識をもちながら貢献をしていきたいと考えております。
 国連第8回特別委員会に向けて、政府各省庁において意見のとりまとめを進めておられていることと存じますが、JDFとして、前回の議長草案と同様に、修正議長草案の各条文に対して検討を進め、意見書としてとりまとめました。日本政府に置かれましては、障害をもつ当事者及び関係者の声として私どもの意見書の内容を積極的にご検討いただき、次回の第8回特別委員会におきましては、私ども障害関係団体の考えを十分に汲み取っていただいた形で、日本政府として意見を提起していただきたいと強く願っております。

敬具


修正議長草案(WORKING TEXT)に関する 日本政府への意見書

JDF(日本障害フォーラム)

※修正議長草案(ワーキングテキスト)をベースにして、【 】は追加部分、取消線は削除部分を意味する。特に言及していない部分は、修正議長草案の文言を支持していることを意味する。
※「意見」とは、JDFの意見書の内容部分を指し、若干の参考となりそうな資料を【参考資料】として記入した。

条約名について

意見;
 修正議長草案(WORKING TEXT)の表題に条約名称として記載されている「障害のある人の権利に関する国際条約」(INTERNATIONAL CONVENTION ON THE RIGHTS OF PERSONS WITH DISABILITIES)を、条約名として支持する。

前文

   この条約の締約国は、
(a) 世界における自由、正義及び平和の基礎をなすものとして、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認める国際連合憲章において宣明された原則を想起し、
(b) 国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人はいかなる区別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、
(c) すべての人権及び基本的自由の普遍性、不可分性及び相互依存性と、障害のある人に対してすべての人権及び基本的自由の差別のない完全な享有を保障する必要性とを改めて確認し、
(d) 経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約、子どもの権利に関する条約並びにすべての移住労働者及びその家族構成員の権利保護に関する国際条約を想起し、
(e) 障害者に関する世界行動計画及び障害のある人の機会均等化に関する基準規則に含まれる原則及び政策指針が、障害のある人の機会を更に平等化するための国内的、地域的及び国際的な場における政策、立案、計画及び行動の促進、形成及び評価に影響を与えるに当たって重要であることを認め、
(f) また、いかなる人に対しても障害に基づく差別は人間の固有の尊厳を侵害するものであることを認め、
(g) さらに、障害のある人の多様性を認め、
(h) 障害のあるすべての人(一層集中的な支援を必要とする人を含む。)の人権を促進し及び保護することが必要であることを認め、
(i) これらの種々の文書及び約束にもかかわらず、世界のすべての地域において、社会の平等な構成員としての参加を妨げる障壁及び人権侵害に障害のある人が依然として直面していることを憂慮し、
(j) あらゆる国特に途上国における障害のある人の生活状況を改善するために国際協力が重要であることを認め、
(k) 地域社会の全般的な福利及び多様性への障害のある人の貴重な既存の及び潜在的な貢献を認めることが重要であることを強調し、さらに、障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有並びに完全な参加を促進することにより、その帰属意識が高められること並びに社会の人間開発、社会開発及び経済開発並びに貧困の根絶に多大な前進がもたらされることを強調し、
(l) 障害のある人にとって、その個人の自律及び自立(自己の選択を行う自由を含む。)が重要であることを認め、
(m) 障害のある人が、政策及び計画(障害のある人に直接的に関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定過程に積極的に関与する機会を有するべきであることを考慮し、
(n) 人種、皮膚の色、ジェンダー、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、民族的若しくは社会的出身、財産、出生、年齢又は他の地位に基づく複合的又は加重的な形態の差別を受けている障害のある人の困難な状況を憂慮し、
(o) 障害のある女性及び少女が、度々家庭の内外で暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(それらのジェンダーに基づく発現形態を含む。)を受ける危険に一層さらされていることを認め、
(p) 障害のある子どもが他の子どもとの平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を完全に享有するべきであることを認め、また、このために子どもの権利に関する条約の締約国により約束された義務を想起し、
(q) 障害のある人による人権及び基本的自由の完全な享有を促進するためのあらゆる努力にジェンダーの視点を組み込む必要があることを強調し、
(r) 障害のある人の大多数が貧困の状況下で生活している事実を強調し、また、これに関しては、障害のある人に対する貧困の負の影響に取り組むことが必須であることを認め、
(s) 武力紛争の状況及び自然災害の発生が、戦時国及び被災しやすい国における障害の経験を著しく増加させること並びに障害のある人の人権に特に甚大な被害をもたらすことを憂慮し、
(t) 障害のある人がすべての人権及び基本的自由を完全に享有することができるようにするに当たり、物理的、社会的及び経済的環境のアクセシビリティ、保健及び教育のアクセシビリティ並びに情報及びコミュニケーションのアクセシビリティが重要であることを認め、
(u) 個人が、他人に対し及びその属する地域社会に対して義務を負うこと並びに国際人権章典において認められる権利の促進及び遵守のために努力する責任を有することを認識し、
(v) 途上国及び先進国の双方において、 障害のある人の権利及び尊厳を促進し及び保護するための包括的かつ総合的な国際条約 【この条約】が、障害のある人の著しく社会的に不利な立場を是正することに意義深く貢献すること並びに市民的、政治的、経済的、社会的及び文化的分野への障害のある人の平等な機会での参加を促進することを確信して、
家族が、社会の基礎的な集団として、障害のある人の権利の完全かつ平等な享有に貢献することを可能とするための支援、情報及びサービスを受けるべきであることを確信

意見;
 家族について前文で言及することは、障害者権利条約であっても、問題がないと思われる。特に、障害者の人権保障のための家族への支援は、障害者をとりまく環境を整えるという観点から、現実的に必要と思われる。

【前文に追加すべき新たなパラグラフ案】

【障害のある人による人権及び基本的自由の享有及び行使を制約するような、諸国の法令又は政策における障害又は障害のある人の定義又はその解釈(特定の障害又は特定の障害のある人を排除するような定義又はその解釈を含む。)を憂慮し、また、障害のあるすべての人の人権及び基本的自由を効果的に尊重し及び確保することを目的として、それらの定義の内容が定められ又は解釈されなければならないことを認め、】

意見;
 上記の文言を前文に追加すべきである。この文言は、特定の障害のある人を排除しないという趣旨を前文に盛り込むことを意味する。

次のとおり協定した。

意見;
 修正議長草案の前文にある各パラグラフの配置を、他の現行人権条約に照らして、しかるべき順序に修正する必要がある。

第1条(目的)


この条約は、【障害のあるすべての人の固有の尊厳の尊重並びに】障害のある【すべての】人によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有【及び行使】を促進し、保護し及び確保すること並びに障害のある人の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とする。

意見;
 この修正案は、「尊厳」という文言を生かすものである。「固有の尊厳の尊重」が促進されるのみならず保護・確保されるように修正した。また、「人権及び基本的自由」の「享有」のみならず「行使」という言葉も入れた。さらに、特定の障害者を排除しないように「障害のある人」を「障害のあるすべての人」に変えた。
【第1条の参考資料】
(1:EUによる第7回特別委員会における条約目的に関する修正意見)
「この条約は、障害のある人によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を確保することを目的とする。」“The purpose of the Convention shall be to ensure the full and equal enjoyment of all human rights and fundamental freedoms by persons with disabilities.” http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahcstatabkgrnddocs.htm, 16 April 2006 →(EUは、第7回特別委員会における「障害」「障害のある人」の定義についての意見で、この第1条の内容に変更を加えて、「障害のあるすべての人」にするよう提起した。以下に掲げたEUの定義に関する意見を参照。)。
(2:IDCによる第7回特別委員会における条約目的に関する修正意見)「この条約は、障害のあるすべての人のすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し及び確保することを目的とする」The purpose of this Convention is to promote, protect, and (REPLACE “fulfil” BY “ensure”) the full and equal enjoyment of all human rights and fundamental freedoms of (ADD: “all”) persons with disabilities.


第2条(定義)


この条約の適用上、


「コミュニケーション」には、音声言語、手話、【触手話】、文字表記【(手書き文字を含む)】、点字、【指点字】、触覚コミュニケーション、拡大文字、筆記、音声装置、【補聴装置】、アクセシブルなマルチメディア、平易な言葉、朗読者、【通訳者】並びにコミュニケーションの補助的及び代替的な様式、手段及び形態(アクセシブルな情報通信技術を含む。)を含む。

意見;
(1) 「コミュニケーション」の定義に文字表記(display of text)が記載されたことを評価する。

(2) 修正議長草案の「コミュニケーション」の定義には、いわゆる「盲ろう者」のコミュニケーション手段および種類が想定されていない。おそらく、「触覚コミュニケーション」が盲ろう者のコミュニケーションに相当するものと思われるが、「触覚コミュニケーション」の定義がなされておらず、かつ、この文言だけでは抽象的である。「触手話」は世界的にも多くの盲ろう者が使用するコミュニケーションの一つであり、「手書き文字」も同様である。「指点字」は日本等一部の国で使用されているものであるが、日本では盲ろう者のコミュニケーション手段として定着している。
    また、「音声装置」はどちらかといえば言語障害者等のための「発声補助装置」に相当するものと思われるので、それならば、難聴者等に必要な「補聴装置」が加えられるべきである。また、「朗読者」はおそらく視覚障害者のための音声による文字読み上げのための支援者であり、これに相当する「通訳者」、つまり、音声を手話や点字、文字表記、触手話・指点字等に置き換える者もいれるべきである。
(3) 修正議長草案の条文中にはコミュニケーションの規定が多いが、条項ごとに列挙事項の統一等を行うのが望ましい。また、本条におけるコミュニケーションの概念の整理が必要である。


「障害」「障害のある人」……

意見;
(1)「障害」について、定義をもうけずに「すべての障害者を含む」と前文などで縛りをかけるという選択肢もあると思われるが、国によって、慢性疾患や精神障害、顔面のあざのある状態等が障害と見なされていない場合も多く、本条約において定義を設けずに各国に任せるとなると、結局これらの者が、障害者差別を禁止する法制度や障害者の権利を保障する法制度等から対象として除外されることとなるため、障害の定義を設けるべきである。そして、本条約で規定される障害の定義は、障害を個人に起因する治療すべき心身の損傷や欠陥としてみる医学モデルのみによる定義ではなく、社会環境による障壁も障害ととらえる必要があると考える。以上のことから、第7回特別委員会会期中に出されたマッケイ議長による案を支持する。マッケイ議長の示した案の要素がすべて取り入れられた定義を置くべきである。
(2)高次脳機能障害や発達障害、難聴、難病等が、必要な諸制度を利用するためには、生活上の困難さに着目した、ニーズに基づく障害認定が必要である。WHOが定義したICIDHからICFへの発展といった世界的流れからみても、障害者権利条約においては環境との相互作用モデルを活用した定義が必要である。以上のことより障害者権利条約においては定義を設け、マッケイ議長が提案する定義を支持する。

[参考資料] マッケイ議長が第7回特別委で提案した障害の定義;
 「障害」は、インペアメント、状態又は疾患のある人々と、それらの人々が直面する環境上及び態度上の障壁との相互作用から生じる。そのようなインペアメント、状態又は疾患は、永続的、一時的、断続的又は帰負的な場合があり、かつ、身体的、感覚的、心理社会的、神経的、医学的又は知的なものを含む

 「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定 並びに直接差別及び間接差別を含む。)を含む。」 【「障害に基づく差別」には、現実の障害、認識された障害、過去の障害又は将来の障害に基づく差別、並びに障害のある人との関係に基づく差別を含む。】

意見;
 「障害に基づく差別」の定義については、「[並びに直接差別及び間接差別]」につけられた角ブラケットを削除すべきである。また、IDCの提案を踏まえて、障害に基づく差別の内容を具体化するように、上記【 】内の文言を追加すべきである。「障害のある人の関係に基づく差別」とは例えば障害者のいる家族への差別などをさす。
【参考資料】
(1:IDCが差別に関して提案する追加の文言)

 「障害に基づく差別」には、現実の障害、認識された障害、過去の障害、帰負された障害又は将来の障害に基づく差別、並びに障害のある人との関係に基づく差別を含む。いかなる個人も、その選択に反して障害のある人と見なされてはならない。“Discrimination on the basis of disability” shall also include discrimination based on an actual, perceived, past, imputed or future disability, as well as discrimination based on association with a person with a disability. No individual shall be considered to be a person with a disability contrary to his/ her choice .“Article 2 DEFINITIONS” by IDC, http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7docs/ahc7idcart2.doc, 13 April 2006
(2:米州障害者差別撤廃条約1条2の差別の定義)
 a.  「障害者に対する差別」とは、現在であるか過去であるかを問わず、障害、障害の経歴、従前の障害から生じた状態、又は障害の認知に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、障害者が自己の人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを害し又は無効にする効果又は目的を有するものをいう。
 b.  障害者の社会への統合又は人格の発展を促進するために締約国が行う区別又は優遇は差別とならない。ただし、このような区別又は優遇は、本質的に、障害者の平等権を制限してはならず、また、このような区別又は優遇を受け入れることを障害者個人に強制してはならない。ある人が国内法の下で法的に無能力者と宣言され得ても、それが彼又は彼女のウェル・ビーイングのために必要かつ適当な場合には、このような宣言は差別とならない。a. The term "discrimination against persons with disabilities" means any distinction, exclusion, or restriction based on a disability, record of disability, condition resulting from a previous disability, or perception of disability, whether present or past, which has the effect or objective of impairing or nullifying the recognition, enjoyment, or exercise by a person with a disability of his or her human rights and fundamental freedoms. b. A distinction or preference adopted by a state party to promote the social integration or personal development of persons with disabilities does not constitute discrimination provided that the distinction or preference does not in itself limit the right of persons with disabilities to equality and that individuals with disabilities are not forced to accept such distinction or preference. If, under a state's internal law, a person can be declared legally incompetent, when necessary and appropriate for his or her well-being, such declaration does not constitute discrimination.
 http://www.oas.org/JURIDICO/english/ga-res99/eres1608.htm, 14 April 2006




[「一般に適用のある国内法」とは、社会全体に適用する法律であり、かつ、障害のある人に関し区別を設けないものをいう。「一般に適用のある国内法及び国内的手続」並びに「一般に適用のある国内法、慣習及び伝統」は、それと同一の意味を有するものとし、それを準用する。]

意見;
 草案において多く使用されている「他のものとの平等を基礎にして」という規定で十分である。本条約の趣旨・目的に沿わない国内法も場合によっては承認しかねないこの規定をわざわざ定義する必要は無い。


 「合理的配慮」とは、特定の場合において必要とされる、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は【及び】行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、不釣合いな負担を課さないものをいう。

意見;
 合理的配慮の定義は、以下のIDCの提案に照らして、上記のように修正すべきである。なお、合理的配慮は、ポジティブアクション(本条約では、事実上の平等を目的とする「特定の措置」と言われているもの)とは異なる。第1に、合理的配慮の否定は差別となるが、ポジティブアクションの否定は差別とならない。第2に、合理的配慮は主観的権利(subjective rights)であるが、ポジティブアクションはそうではない。第3に、合理的配慮は、事例毎に、さまざまな要素を勘案して対話方式で行われ、障害者個人のニーズに応じたものである。一方、ポジティブアクションでは、障害者集団の不利な立場を是正するために採られる措置と障害者個人の個別ニーズとの関連についての直接的かつ十分な説明責任が、措置をとる側に必ずしも生じるわけではない。
【参考資料】
 IDCによる合理的配慮の修正文言:「合理的配慮」とは、特定の場合において必要とされる、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての人権及び基本的自由を享有し又は【及び】行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、不釣合いな負担を課さない【対話方式で行われ、個々人で異なり、かつ個人の同意に基づく】ものをいう。
 “Reasonable accommodation” means necessary and appropriate modification and adjustments (DELETE “not imposing a disproportionate burden”), (REPLACE “where needed in a particular case” BY “that is interactive, individualized and subject to the person’s consent”), (REPLACE “to ensure to persons with disabilities the enjoyment or exercise on a basis of equality with others of all human rights and fundamental freedoms” BY “to ensure to persons with disabilities the enjoyment and exercise of all human rights and fundamental freedoms on a basis of equality with others”).“Article 2  DEFINITIONS” by IDC, 
http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7docs/ahc7idcart2.doc, 13 April 2006

「言語」には、音声言語【及び】手話及び他の形態の非音声言語を含む。

意見;
 「その他の形態の非音声言語を含む」とは具体的に何を意味するか不明。それを仮に「文字表記」とすればそれはひとつの音声言語の形式であるため上記のように修正した。なお、この修正案の英文は、Language” includes spoken and signed languagesになると思われるが、singed languagesとsign languagesのいずれかが妥当であるか検討する必要がある。また、日本語訳は、上記で良いのかも検討する必要がある。


「ユニバーサルデザイン」及び「インクルーシブデザイン」とは、改造又は特別な設計を必要とすることなしに、可能な最大限の範囲内で、すべての人が使用することができる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。「ユニバーサルデザイン」及び「インクルーシブデザイン」は、障害のある人の特定集団のための支援機器が必要な場合には、これを排除してはならない。

【新たに挿入すべき定義 (1)】
【「インクルージョン」】

意見;
 インクルージョンの定義を入れるべきである。第7回特別委員会で提案されたIDCの提案を基にして第8回特別委員会で議論をして第2条に盛り込むべきである。

【参考資料】IDCによる「インクルージョン」の定義:
  「インクルージョン」とは、特に社会的及び物理的障壁の除去と、適当な支援及びサービスの提供とを伴う、公的生活、社会生活及び私的生活への障害のある人の完全かつ平等な参加をいう。
  “ inclusion” means the full and equal participation in public, social and private life of
 persons with disabilities, with a focus on removal of social and physical barriers and with
 the provision of appropriate support and services. “Article 2 DEFINITIONS” by IDC,
 http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc7docs/ahc7idcart2.doc, 13 April 2006


【新たに挿入すべき定義 (2)】
【「アクセシビリティ」】

意見;
 「アクセシビリティ」の定義も盛り込むべきであると思われるが、その定義の内容を検討する必要がある。


第3条(一般的原則)


この条約の原則は、次のものとする。
(a)  固有の尊厳、個人の自律(自己の選択を行う自由を含む。)及び人の自立の尊重
(b) 非差別
(c) 社会への完全かつ効果的な参加及びインクルージョン
(d) 差異の尊重と、人間の多様性及び人間性の一部としての障害の受容
(e) 機会の平等
(f)  アクセシビリティ
(g)  男女の平等
(h)  障害のある子どもの発達しつつある能力の尊重と、障害のある子どもがそのアイデンティティを保持する権利の尊重


【追加すべき原則(1)】
【エンパワーメント】

意見;
 エンパワーメントの概念は、障害の分野において、障害者の尊厳保持あるいは権利擁護などと密接不可分のものであるため。

【参考資料】エンパワーメントとは;
(「福祉キーワードシリーズ 権利擁護」編;高山直樹・川村隆彦・大石剛一郎(中央法規)」より抜粋・整理したもの)
 エンパワーメントのパワーとは、当事者が自己実現に向かう力(自己決定能力、適応能力等)ととらえられている。本来パワーは全ての人に潜在的に内在しており、内部から引き出されるものであり、エンパワーメントとは、そうした潜在する力を内部から引き出し、力をつけることと考えられる。社会資源に乏しく孤立した状態や社会的に抑圧された状態、また、自分自身に自信がなく自己実現に否定的な感情しか持つことができないときの状況をパワーレスネス(パワーの欠如状態)というが、こうした状態を抜け出すために潜在能力を引き出すアプローチをエンパワーメントアプローチという。例えば、長い施設暮らしで自己の権利の主張などできない状況にある場合にエンパワーメントアプローチによる実践によって、内部にある自己実現に向かう力を引き出すことが必要となる。


【追加すべき原則(2)】
【コミュニケーションと情報の平等】

意見;
 公私を問わず、特に、盲ろう者や聴覚障害者等はコミュニケーションの配慮や情報の保障において忘れられがちである。例えば、会議の場においても情報が共有されていないのが常であるため。


第4条(一般的義務)

1 締約国は、障害に基づくいかなる種類の差別もない障害のあるすべての人のためのすべての人権及び基本的自由の完全な実現を確保し及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。
 (a)  この条約において認められる権利を実施するためにすべての適当な立法措置、行政措置その他の措置をとること。
 (b)  障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。
 (c)  すべての政策及び計画において障害のある人の人権の保護及び促進を考慮すること。
 (d)  この条約に合致しないいかなる活動又は行為も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの条約に従い行動することを確保すること。
 (e)  あらゆる人、機関又は民間企業による障害に基づく差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとること。
 (f)  次のものについての研究、開発、利用可能性及び使用を約束し又は促進すること。
  (i)  障害のある個人に特有なニーズを満たすために並びに基準及び指針の開発に当たりユニバーサルデザインを促進するために万人向けに設計された商品、サービス、備品及び設備であって可能な限り最低限の調整及び最小限の費用を要すべきもの
  (ii)  障害のある人に適した新たな技術(情報通信技術、移動性のための補助具、機器、支援技術を含む。)であって入手可能な費用の技術を優先させたもの。
 (g)  移動性のための補助具、機器及び支援技術(新たな技術を含む。) 【及び通訳介助者等の移動支援者】 に関する並びに他の形態の援助、支援サービス及び設備に関するアクセシブルな情報を障害のある人に提供すること。

意見;
 障害者の社会活動に欠かせない支援する人材の育成と確保が必要である。例えば盲ろう者の移動には移動中のコミュニケーションを保障することが必要となり、ガイドと通訳あるいはコミュニケーションが一体となった「通訳介助者等の移動支援者」が必要である。欧米では、盲ろう者の移動、通訳、その他の介助を一体にして「SSP (Support Service Provider)」と呼んでいる。


(h) 障害のある人と共に【、あるいはために】働いている専門家及び職員に対する、この条約において認められる権利についての研修を、これらの権利により保障される支援及びサービスの提供を向上させるために促進すること。

意見;
 「障害者と共に(with )」では、範囲が狭くなる恐れがあるので、「共にあるいはために(with or for)」とするべきである。


2 各締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、国際人権法から生ずる即時的に適用可能な義務に違反しない限り、それらの権利の完全な実現を漸進的に達成するという観点から、自国における利用可能な資源の最大限の範囲内で、また、必要な場合には国際協力の枠内で措置をとる。

意見;
 4条2項については、EU提案に基づいて一定の修正がなされ、それは概ね支持できる。ただし、以下のIDCの提案を踏まえて、この条項の趣旨を一層生かすような文言を練り上げる余地がある。
【参考資料】
(1:IDCによる経済的社会的文化的権利の義務に関する提案)

 2 経済的、社会的及び文化的権利に関しては、締約国は、次のことを約束する。(a) それらの権利の即時的に実施可能な側面に関しては、即時的な効力を与えること。その側面には、それらの権利の享有における非差別の義務を含むが、それに限られない。(b) それらの権利の他の側面に関しては、すべての適当な手段によりそれらの権利の完全な実現を漸進的に達成するという観点から、自国における利用可能な資源の最大限の範囲内で行動をとること。
   “In relation to economic, social and cultural rights, States Parties undertake: (a) to give immediate effect to the aspects of those rights which are capable of immediate implementation including, but not limited to obligations of non-discrimination in the enjoyment of those rights; and (b) in relation to other aspects of those rights, to take steps to the maximum of their available resources with a view to achieving progressively the full realization of those rights by all appropriate means.
(2:EUの第7回特別委員会における提案):
「ただし、それらの権利の完全な実現を漸進的に達成することが障害に基づく差別という結果になる場合は、この限りでない。」を「国際人権法から生ずる即時的に適用可能な義務に違反しない限り」に修正。
     EU Proposal (2): Replace “except where achieving progressively the full realisation of these rights would result in discrimination on the basis of disability ” with “without prejudice to the immediately applicable obligations emanating from international human rights law”. ←この修正案は修正議長草案に採用された。


3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策を発展させ及び実施する場合において並びに障害のある人と関連する事項に係る他の意思決定過程において、障害のある人(障害のある子どもを含む。)を代表する団体を通じて障害のある人と緊密に協議し並びにこれらを積極的に関与させる。
4 この条約のいかなる規定も、締約国の法律又は締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって障害のある人の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。この条約のいずれかの締約国において法律、条約、規則又は慣習によって認められ又は存する基本的人権については、この条約がそれらの権利を認めていないこと又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それらの権利を制限し又は逸脱してはならない。
5 この条約は、いかなる制限又は例外もなしに連邦国家のすべての地域について適用する。

意見;
 自由権規約2条や人種差別撤廃条約6条を参考にして救済規定を第4条に入れるべきである。社会権規約に救済規定がないことから救済規定を本条に入れることについての反対論もあるが、今日では社会権の司法的救済可能性も現実に認められるようになってきているから、そのような反対論は妥当でない。

【参考資料】
(1:自由権規約第2条3項:救済規定)

 3 この規約の各締約国は、次のことを約束する。
 (a) この規約において認められる権利又は自由を侵害された者が、公的資格で行動する者によりその侵害が行われた場合にも、効果的な救済措置を受けることを確保すること。
 (b) 救済措置を求める者の権利が権限のある司法上、行政上若しくは立法上の機関又は国の法制で定める他の権限のある機関によって決定されることを確保すること及び司法上の救済措置の可能性を発展させること。
  (c) 救済措置が与えられる場合に権限のある機関によって執行されることを確保すること。
(2:人種差別撤廃条約第6条:救済規定)
    締約国は、自国の管轄の下にあるすべての者に対し、権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて、この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し、並びにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所に求める権利を確保する。

第5条 平等及び非差別

1 締約国は、すべての人が法律の前及び下において平等であり、かつ、いかなる差別もなしに法律の平等な保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくすべての差別を禁止するものとし、また、障害のある人に対してすべての理由による差別に対する平等のかつ効果的な保護を保障する。
3 締約国は、平等を促進し及び差別を撤廃するため、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な行動をとる。
4 障害のある人の事実上の平等を促進し又は達成するために必要な特定の措置は、この条約に規定する障害に基づく差別と解してはならない。

意見;
 基本的に修正議長草案を支持。議長草案と比べ特に第3項の書き振りが強くなっている。

第6条 障害のある女性


1 締約国は、障害のある女性及び少女が複合的な差別を受けていること並びに障害のある女性及び少女によるすべての人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を確保するための重点的なエンパワーメント措置及びジェンダーに敏感な措置が必要であることを認める。
2 締約国は、この条約に定める人権及び基本的自由の行使及び享有を女性に保障することを目的として、女性の完全な発展及び向上を確保するためのすべての適当な措置をとる。

意見;独立した現在の条文案を支持する。

第7条 障害のある子ども


1 締約国は、障害のある子どもによるすべての人権及び基本的自由の完全な享有を確保するためのすべての必要な措置をとるものとし、また、この条約に定めるすべての権利の享有についての障害のある子どもの平等な権利を確保する。
2 障害のある子どもに関するすべての行動をとるに当たっては、子どもの最善の利益が主として考慮されるものとする。
3 締約国は、障害のある子どもが他の子どもとの平等を基礎としてその子どもに影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利並びにその権利を実現するための障害及び年齢に適した支援を提供される権利を有することを確保する。

意見;独立した現在の条文案を支持する。


第8条(啓発)


1 締約国は、次のための即時的、効果的かつ適当な措置をとることを約束する。
 (a)  障害のある人に関する社会全体の意識の向上と、障害のある人の権利及び尊厳の尊重の育成
 (b)  あらゆる生活領域における障害のある人に関する固定観念、偏見及び有害慣行(ジェンダー及び年齢に基づくものを含む。)との闘い
 (c)  障害のある人の能力及び貢献に関する意識の促進

2 このため、【それらの】措置には次のことを含む。
 (a) 次のことのために立案された効果的な公衆向けの啓発キャンペーンを開始し及び維持すること。
  (i) 障害のある人の権利に対する理解を促進すること。
  (ii) 障害のある人に対する肯定的認識及び一層大きな社会的意識を促進すること。
  (iii) 職場及び労働市場における障害のある人の技術、功績、能力及び貢献についての認識を促進すること。
 (b) 教育制度のあらゆる段階(幼年期からのすべての子どもの教育制度を含む。)【及びあらゆる教育形態】において、障害のある人の権利を尊重する態度を促進すること。

意見;
 教育の段階だけでなく、通信教育や学級形態、学級外教育などのすべての教育形態全般に触れるべきである


 (c) すべてのメディア機関が、この条約の目的に合致するように障害のある人を描写することを奨励すること。
 (d) 障害のある人及びその権利に関する啓発のための研修計画を促進すること。

第9条 アクセシビリティ

1 締約国は、障害のある人が自立して生活すること及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にするため、障害のある人に対し、他の者との平等を基礎として、都市及び農村双方において、物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開かれた又は提供される他の設備及びサービスへのアクセスを確保するための適当な措置 【確保するための迅速かつ効果的な措置 】をとる。このような措置は、アクセシビリティにおける妨害物及び障壁を明らかにし及び撤廃することを含むものとし、特に次のことに対して適用する。
 (a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内外の設備(学校、住居、医療設備及び職場を含む。)
 (b) 情報、通信その他のサービス(電子サービス及び救急サービスを含む。)

意見:
 本条では、議長草案の「公共(public)」が「公衆に開かれ、又は提供される(open or provided to the public)」と書き振りが変更されている。建物や施設物の利用者側に軸をおく形となるものであり、評価できる。アクセシビリティの確保は社会参加の上で欠かせないものであり、できるだけ早期の環境整備が求められる。第1項柱書きの「確保するための適当な措置」では弱いので、「確保するための迅速かつ効果的な措置」と変更するべきである。

2 また、締約国は、次のことのための適当な措置をとる。
 (a) 公衆に開かれた又は提供される設備及びサービスのアクセシビリティに関する最低限度の基準及び指針の実施を発展させ、公表し及び監視すること。
 (b) 公衆に開かれた又は提供される設備及びサービスを提供する民間主体が、障害のある人に係るアクセシビリティのあらゆる側面を考慮することを確保すること。
 (c) 障害のある人が直面するアクセシビリティに係る事項についての研修をすべての利害関係者に提供すること。
 (d) 公衆に開かれた建物その他の設備において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形式の表示を提供すること。
 (e) 公衆に開かれた建物その他の設備のアクセシビリティを容易にするためのライブ支援及び仲介者(案内者、朗読者及び専門職の手話通訳者、【文字通訳者】【触手話・指点字通訳者】を含む。)を提供すること。
 (f) 情報への障害のある人のアクセスを確保するため、障害のある人に対する他の適当な形態の援助及び支援を促進すること。
 (g) 障害のある人が新たな情報通信技術及び情報通信システム(インターネットを含む。)にアクセスすることを促進すること。
 (h) 情報通信技術及び情報通信システムが最小限の費用でアクセシブルなものとなるために、早期の段階で、アクセシブルな情報通信技術及び情報通信システムの設計、開発、生産及び分配を促進すること。

第10条 生命に対する権利

 締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを改めて確認し、また、障害のある人が他の者との平等を基礎として当該権利を効果的に享有することを確保するためのすべての必要な措置をとる。

意見;現在の条文案を支持する。


第11条 危険のある状況

 締約国は、公衆が危険のある状況(  ……【武力紛争及び自然災害の】の状況を含む。 )に置かれる場合には障害のある人が特に被害を受けやすい境遇に置かれる集団であることを認め、また、障害のある人を保護するためのすべての実行可能な措置をとる。【この措置はいかなる場合も障害を理由に隔離・拘禁あるいは不利益な取り扱いをもたらすものであってはならない。】

意見;
(1)議長草案の「障害のある人が特に被害を受けやすいことを」から、修正議長草案の「障害のある人が特に被害を受けやすい境遇に置かれる集団である」への修正を支持する。また、武力紛争及び自然災害の状況に関しては、前文(s)との整合性ならびに、この二つの状況の重要性を再考慮した結果、具体的な言及が望ましいと判断する。
(2)追加部分「この措置~」については、歴史的な経験から、保護するという名目の下で差別的に隔離され、あるいは、抹殺される可能性もあるために追加すべきである。


第12条 法律の前における平等の承認


1 締約国は、障害のある人が、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有することを改めて確認する。

[2 締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎としてすべての分野において[法的能力](原注1:A/AC.265/2005/2の第20パラグラフを見よ。)を有することを認めるものとし、また、[その能力]を行使するための支援が必要な場合には、次のことを確保する。
(a) 提供される支援が、必要とされる支援の程度に比例し、かつ、その者の状況に適合したものであること、並びにその支援が、その者の法的権利を害さず、その者の意思及び選好を尊重し、かつ、利益相反及び不当な影響を生じさせないこと。その支援が、定期的なかつ独立の審査に従うこと。
(b) 締約国が最後の解決手段として法律で定めるものとする人格代理人の手続を定める場合には、その法律が適当な保護(人格代理人の任命及び人格代理人による決定についての、権限のある公平なかつ独立の審判所による定期的な審査を含む。)を提供すること。人格代理人の任命及び行為が、この条約及び国際人権法と両立する原則に基づくこと。]


「代替案」
[2 締約国は、障害のある人が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。
2 bis. 締約国は、障害のある人がその法的能力を行使する場合に必要とする支援への障害のある人のアクセスを提供するための適当な立法措置その他の措置をとる。]

2 ter. 締約国は、国際人権法に従い、法的能力の行使に関連するすべての立法措置その他の措置が濫用を防止するための適当かつ効果的な保護を定めることを確保する。その保護は、法的能力の行使に関連する措置がその者の権利、意思及び選好を尊重し、利益相反及び不当な影響を生じさせず、その者の状況に比例し及び適合し、可能な限り最も短い期間適用し、並びに定期的で、公平な、かつ、独立の司法審査に従うことを確保しなければならない。この保護は、そのような措置がその者の権利及び利益に影響を及ぼす程度に比例したものでなければならない。]


【第12条第1項新条文案】

【1  障害のあるすべての人は、すべての場所において、法律の前に人として認められる権利を有する。また、障害のある人は、その法的能力を行使するための支援を利用する権利、及び支援を受けた上での意思決定(supported decision-making)についての権利を有する。これらの権利を確保するため、締約国は、とりわけ、障害のある人が法的能力を行使するための支援が、その者の要求を満たし、その者の権利及び自由を害さず、その者の意思及び選好を尊重し、かつ利益相反および不当な干渉を生じさせないことを目的とする立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。】

意見;
 議長草案第2項(a)は、後見制度を前提とするものであるが、権利能力を奪う後見制度は、「支援を受けた自己決定」の考え方に基づいて、変更されるべきである。また、第2項(b)について、日本に存在はしないが、人格代理人制度は否定すべきであるため(b)項全体の削除が望ましい。したがって、本条文の修正が必要であると思われるためである。議長草案第3項は新条文案においては第2項となる。
 第2項については、修正議長草案で提示されている2つの案の中ではどちらかといえば代替案が望ましい。しかし、2項と2 bis.のみであれば問題は無いが, 2 ter.における規定は、「可能な限り最も短い」以下の書き振りから、後見人を前提としたものと思えるため、「支援を受けた自己決定」の確立というパラダイムシフトにおける考え方にそぐわないため削除すべきである。


3  【2】締約国は、財産の所有又は相続についての、自己の財務管理についての並びに銀行貸付、抵当その他の形態の金融上の信用への平等なアクセスについての障害のある人の平等な権利を確保するためのすべての適当かつ効果的な措置をとる。また、締約国は、障害のある人がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。

第13条 司法へのアクセス


1 締約国は、障害のある人がすべての法的手続(調査段階その他の予備段階を含む。)において直接及び間接の参加者(証人を含む。)として効果的な役割を果たすことを容易にするため、障害のある人のための他の者との平等を基礎とした司法への効果的なアクセス(手続及び年齢に適した配慮の提供によるものを含む。)を確保する。

2 障害のある人のための司法への効果的なアクセスの確保を助長するため、司法運営の分野に携わる者(刑務官及び警察官を含む。)に対する適当な研修を促進する。

意見;
 修正議長草案では、議長草案に比べてかなりの部分が追加されており、全般的によくなったものと評価できる。第1項の「(手続及び年齢に適した配慮の提供によるものを含む。)」の部分では、具体的な配慮の類型を例示しており、第2項では関係者の訓練の必要性を規定しているためである。


第14条 身体の自由及び安全


1 締約国は、次のことを確保する。
 (a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、身体の自由及び安全についての権利を享有すること。
 (b) 障害のある人が他の者との平等を基礎として自由を不法に又は恣意的に奪われないこと、いかなる自由も法律で定めることなしに奪われないこと、並びにいかなる場合においても障害の存在により自由の剥奪が正当化されないこと。

【(b)項新文案】

【(b) 障害のある人が他のものとの平等を基礎として自由を違法に又は恣意的に奪われないこと、かつ、いかなる場合においても障害の存在が自由の制限および剥奪の要件、又はその要件の一部としてはならない。】

意見;
 議長草案への意見書を維持する。精神障害の存在ないし精神障害者についての自傷他害の恐れということを理由に拘束を合法化することは、精神障害者の基本的人権を踏みにじるものであり、如何なる理由があろうと許されない。


2 締約国は、障害のある人が、いかなる手続を通じても自由を奪われた場合には、他の者との平等を基礎として国際人権法による保障を受ける権利を有すること並びにこの条約の趣旨及び原則に従い取り扱われること(合理的配慮の提供によるものを含む。)を確保する。

【第2項新条文案】
【2.いかなる手続によっても障害のある人の自由が奪われた場合には、その者は、少なくとも、他の者との平等を基礎として、かつ、アクセシビリティ及び合理的配慮が確保された上で、一般に適用のある国内法に含まれる保障を受けるものとする。このため締約国は、自由を奪われた障害のある人が、
(a) 人道的に並びに人間固有の尊厳及び価値を尊重して取り扱われることを確保する。
(b) 自律及び自己決定を尊重して取り扱われること、並びに個人が必要とするものに対する合理的配慮を速やかに提供されることを確保する。
(c) 同様に自由が奪われた公衆に利用可能なすべての設備、情報、サービス及び計画に速やかにアクセスすることができることを確保する。
(d) 法的権利に関する及び自由の剥奪の理由に関する十分にアクセス可能な情報を速やかに提供されることを確保する。
(e) 裁判所において、自由の剥奪の合法性を争うこと及び公正な審理(聴取される権利を含む。)を受けることための法的援助その他の適当な援助に速やかにアクセスすることができることを確保する。(この場合には、その者は、いかなるこのような訴えについても、速やかな決定を受けるものとする。)。
(f) 不法に自由が奪われた場合には、賠償を受ける強制執行可能な権利を有することを確保する。 

意見;
 JDFとしては、2005年12月づけで提出した「議長草案への意見書」の第14条第2項の内容を修正議長草案への意見書として維持する。修正議長草案では、議長草案の2項(a)から(d)までが削除されているが、これでは、実際に自由を奪われた者への権利の保障という面において、合理的配慮の提供だけとなってしまい、さらに内容を例示する規定が必要だからである。


第15条 拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由


1 障害のあるいかなる人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。特に、締約国は、障害のある人が十分な説明に基づくその自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けることを禁止するものとし、また、当該実験から障害のある人を保護する。
2 締約国は、障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。


【第15条新条文案】

【1 障害のあるすべての人は、その身体的、精神的及び道徳的なインテグリティ(無傷性)が尊重される権利を有する。この権利を尊重し及び確保するため、締約国は、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。
2 障害のあるいかなる人も、拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けない。このため締約国は、
 (a) 障害のある人に対する十分な説明に基づくその自由な同意のない医学的又は科学的実験並びに、いかなる実際上又は認知上の機能障害も矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入を禁止するものとし、また、当該実験及び当該介入から障害のある人を保護する。
 (b) 障害のある人が拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰を受けることを防止するため、すべての効果的な立法上、行政上、司法上その他の措置をとる。】

意見;
 議長草案に対するJDFの意見書を維持。第15条と第17条の一部を統合する。そもそも15条も17条も、障害者のインテグリティ(無傷性)の保護を目的とする条文である。しかし、強制的介入を15条から分離するため新たに17条が作られたものであり、そのため15条と17条は必然的に重複する側面がある。したがって、思い切って議長草案17条を削除し、17条の一部を組み込んだ新条文15条をつくるのが良いと思われる。また、第17条の第2項は第15条に移すべきである。また第3項、第4項 については、第3項において他のものとの平等を基礎とするのであれば、わざわざ規定する必要性がない。そうすると4項も不要であるため、削除。

<参考:インテグリティ(integrity)の注釈について>
 integrityの訳語は以下に挙げたいくつかの例を見ても多様である。「Right to the integrity of the person人間の完全性についての権利」「the right to respect for his or her physical and mental integrity身体的及び精神的完全性を尊重される権利」欧州連合基本権憲章3条見出し及び同憲章3条1(松井他編『国際人権条約・宣言集(第3版)』東信堂(2005年)128頁)、「physical, mental, and moral integrity身体的、精神的及び道徳的尊厳」米州人権条約5条(松井他編『国際人権条約・宣言集(第3版)』東信堂(2005年)158頁)、「physical and mental integrity肉体的、精神的な保全」(宮崎編『解説・国際人権規約』日本評論社(1996年)134頁)、「the dignity and the physical and mental integrity of the individual個人の尊厳と、 身体的、精神的完全性」自由権規約委員会一般的意見20第2パラグラフ(大阪弁護士会訳(デザイアス他『国際人権「自由権」規約入門』明石書店(1994年)171頁))。
 これらの例を含め、integrityは、さまざまな文脈でさまざまに訳されるが、本条の文脈においても、「完全性」、「保全(性)」、「不可侵性」、「無傷性」、「純一性」、「一体性」、「統合性」、「統一性」、「尊厳」、「人格」、「インテグリティ」等さまざまに訳されうるであろう。また、the integrity of the personについても、「人身の不可侵」、「身体の不可侵性」、「身体保全」、「個人の完全性」、「個人の一体性」、「人格総体」、「人格の完全性」等さまざまに訳されうるが、さしあたり、ここでは「個人のインテグリティ」と訳した(外務省ウェブサイトでは、修正議長草案17条見出しは「人格の完全性の保護」と訳されている)。(06年3月28日「修正議長草案の仮訳についての訳者注:議長草案との比較」脚注85より)


第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由

1 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待(それらのジェンダーに基づく側面を含む。)から家庭の内外で障害のある人を保護するためのすべての適当な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。
2 また、締約国は、特に、障害のある人及びその家族並びにケアの提供者に対する適当な形態のジェンダー及び年齢に敏感な援助及び支援を確保すること(暴力及び虐待の事件を防止し、認識し及び報告する方法に関する情報及び教育を提供することを含む。)により、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防止するためのすべての適当な措置をとる。締約国は、保護サービスが年齢、ジェンダー及び障害に敏感なものであることを確保する。
3 あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、締約国は、障害のある人のために設けられたすべての設備及び計画が独立の当局により効果的に監視されることを確保する。
4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待による被害者である障害のある人の身体的、認知的及び心理的な回復、リハビリテーション及び社会復帰を促進するためのすべての適当な措置をとる(保護サービスの提供を含む。)。このような回復及び復帰は、障害のある人の健康、福祉、自尊心、尊厳及び自律を育成する環境において行われなければならず、また、ジェンダー及び年齢に特有なニーズを考慮に入れる。
5 締約国は、障害のある人に対する搾取、暴力及び虐待の事件が発見され、調査され、かつ、適当な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策(ジェンダー及び子どもに特有な法令及び政策を含む。)を定める。

意見;
 修正議長草案では、第1・2・4・5項で、ジェンダーや年齢に言及しており、第3項の「搾取」に「あらゆる形態」が挿入された点は評価できる。


第17条 個人のインテグリティ(不可侵性)の保護

1 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の個人のインテグリティを保護する。
2 締約国は、いかなる現実の又は認識された機能障害であっても、それを矯正し、改善し又は緩和することを目的とする強制的介入又は強制的施設収容から障害のある人を保護する。
3 非自発的介入を必要とする緊急医療の場合又は公衆の健康上の危険が生じる事柄の場合には、障害のある人は他の者との平等を基礎として取り扱われるものとする。
[4 締約国は、次のことを確保する。
(a) 代替策を積極的に促進することにより、障害のある人への非自発的治療を最小限にすること。
  (b) 法律で定める手続に従い、かつ、適当な法的保護を適用して、例外的な環境においてのみ障害のある人への非自発的治療を行うこと。
  (c) できる限り最も制約の少ない環境において障害のある人への非自発的治療を行うこと、及びその者の最善の利益を十分に考慮すること。
(d) 障害のある人への非自発的治療が、その者にとって適当であり、また、その治療を受ける個人又はその家族に対して費用の負担なしに提供されること。]

意見;
 JDFとしては、第15条について第17条の内容も含んだ新15条案を提案しているところであるが、仮に第17条の維持されるような状況の場合には、第3項、第4項をともに削除すべきである。


第18条 移動の自由及び国籍

1 締約国は、次のことその他を確保することにより、他の者との平等を基礎として、移動の自由、居所を選択する自由及び国籍についての障害のある人の権利を認める。
(a) 障害のある人が、国籍を取得し及び変更する権利を有し、かつ、その国籍を恣意的に又は障害を根拠として奪われないこと。
(b) 障害のある人が、国籍に係る文書若しくは他の身元に係る文書を入手し、所有し及び利用する能力又は移動の自由についての権利の行使を容易にするために必要とされることのある関連手続(例えば出入国手続等)を行う能力を、障害を根拠として奪われないこと。
  (c) 障害のある人が、いずれの国(自国を含む。)からも離れる自由を有すること。
  (d) 障害のある人が、自国に入国する権利を恣意的に又は障害を根拠として奪われないこと。
2 障害のある子どもは、出生の後直ちに登録される。障害のある子どもは、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限り【他のものとの平等を基礎にして】その親を知る権利及びその親によって養育される権利を有する。

意見;
 本条は、第1項で自由権規約の「移動と国籍」、修正議長草案で新しく挿入された第2項は、子どもの権利条約第7条1項の「氏名および国籍」条項をあわせたものと解釈される。第2項の「国籍取得の権利」は、第1項(a)と重複するため削除すべきである。障害のある子どもの国籍取得に関してとくに言及するのであれば第7条で規定すべきである。「できる限り」については、子どもの権利条約第7条の規定をそのまま引用しているため、本条約では、子どもの権利条約で定めている権利が「他のものとの平等を基礎にして」と変えて、障害のない子どもとの平等を図る規定とすべきである。


第19条 自立した生活及び地域社会へのインクルージョン

 この条約の締約国は、障害のあるすべての人が他の者と平等な選択を有して地域社会で【自立した】生活【を】する平等な権利を認め、また、次のことその他を確保することにより、障害のある人によるこの権利の完全な享有並びに地域社会への障害のある人の完全なインクルージョン及び参加を容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。
【但し、本条約における「自立」とは、身辺自立に限定しないこと及び家族からの自立の意を含むものである。】

(a) 障害のある人が、他の者との平等を基礎として居所並びにどこで誰と住むかを選択する機会を有し、かつ、特定の生活様式で生活することを義務づけられないこと。
(b) 障害のある人が、地域社会における 【自立した】 生活及びインクルージョンを支援するために並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(人的支援を含む。)を、利用することができること。
(c) 地域社会における公衆向けのサービス及び設備が、障害のある人にとって平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害のある人のニーズに応ずること。

意見;
 「自立」(independence)は、地域生活においてサポートが必要とする人に対して否定的に影響する恐れがある、とするIDC等の主張があるが、世界の障害者運動の歴史等からも「independent」がIDCなどが憂慮するような文脈で使われていないことは明白である。むしろ、身辺自立(ADL)とは対極の概念で使われてきたものである。また、本条約における「地域生活」という文言には、家庭内での家族からの自立、家族内における平等を図るなどのさまざまな側面があり、とくにindependenceを削除する理由はない。また、前文(k)のindependence、第9条第1項のlive independentlyなどでも使用されており問題ない。ただし、上記のIDCの意見以外にも国内慣行上、ADL自立と解釈されてしまうという憂慮は理解できることから、柱書きにおいて、但し書きを挿入した。


第20条 個人の移動性

 締約国は、次のことその他により、障害のある人の最大限可能な自立を伴った個人の移動性を確保するための効果的な措置をとる。
(a) 障害のある人が選択する方法で及び時に、かつ、入手可能な費用で、障害のある人の個人の移動性を容易にすること。
(b) 障害のある人が質の高い、移動補助具、機器、支援技術、ライブ支援及び仲介者を利用することを容易にすること(これらを入手可能な費用で利用可能なものにすることを含む。)。
(c) 障害のある人に対し及び障害のある人と共に【、あるいはために】働いている専門職員に対し、移動技術の研修を提供すること。

意見;
 「障害者と共に(with )」では、範囲が狭くなる恐れがあるので、「共にあるいはために(with or for)」とするべきである。

(d) 移動補助具、機器及び支援技術を生産する主体が障害のある人の移動性のあらゆる側面を考慮することを奨励すること。

第21条 表現及び意見の自由と、情報へのアクセス

 締約国は、次のことその他により、障害のある人が、他の者との平等を基礎として、手話、点字、【文字表記(手書き文字を含む)、触手話、指点字】、補助代替コミュニケーション並びに自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、様式及び形態を通じて、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。)についての、及び、情報にアクセスする】 権利を行使することができることを確保するためのすべての適当な措置をとる。

意見;
(1)「手話、点字、」を例示するのであれば、定義(第2条)と同じように「文字表記(手書き文字を含む)、触手話、指点字」も例示するべきである。
(2)本条の「表題」等からも、情報へのアクセスへの権利性について、言及すべきである。

(a) 障害のある人に対し、様々な種類の障害に適したアクセシブルな様式及び形態で、適時にかつ追加の費用を伴わず、公衆向けの情報を提供すること。 【プライバシーを侵さない範囲で全ての情報を提供すること。】

意見;
 「表現及び意見の自由」は、特に聴覚障害者や盲ろう者の場合は公衆に開かれた場に限らず、個人間においても大変大きな問題となっている。通訳者等の支援がなければ、例えば、家庭内においても充分な意志の疎通が図れない場合が多い。個人の関係においても、情報や発言の自由が保障されるべきである。

(b) 公の対話において、手話、点字、【文字表記(手書き文字を含む))、触手話、指点字、】補助代替コミュニケーション並びに障害のある人が自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、様式及び形態を用いることを承諾し及び容易【確保】 にすること。

意見;
(1)柱書きに(原注2)が付されているが、「手話、点字、」を例示するのであれば、定義(第2条)と同じように【文字表記】も例示するべきである。
(2)「公の対話」の意味が不明確ではあるが、公的な、あるいは、公共の場を想定していると思われるため、障害者が自ら選択するコミュニケーション手段は「確保」されるべきである。

(c) 公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体が、情報及びサービスをアクセシブルかつ使用可能な形態で障害のある人に提供するよう勧奨すること。
(d) マスメディア(インターネットにより情報を提供する者を含む。)が、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルなものとするように奨励すること。
(e) 手話の使用を承認し及び促進【奨励】すること。

意見;
 「民間主体」との関係では、とくに子どもの権利条約では「奨励」と表記されていることが多いことから、(e)項は「促進」を【奨励】にした。

第22条 プライバシーの尊重

1 障害のあるいかなる人も、居所又は生活様式とのかかわりなく、そのプライバシー、家族、家庭、通信その他の形態のコミュニケーションに対して恣意的に若しくは不法に干渉され又は名誉及び信用を不法に攻撃されない。障害のある人は、こうした干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
2 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の個人情報、健康情報及びリハビリテーション情報に係るプライバシーを保護する。

意見;現在の条文案を支持する。

第23条 家庭及び家族の尊重

1 締約国は、婚姻、家族及び人的関係に係るすべての事項に関し障害のある人に対する差別を撤廃するための効果的かつ適当な措置をとるものとし、また、次のことのために婚姻、家族及び人的関係に係る国内法、慣習及び伝統が障害を根拠として差別しないことを確保する(原注3:特別委員会は、この条文が婚姻、家族及び人的関係に係る自国の政策及び法令を決定する締約国の権限に影響を及ぼすことを意図するものではないことに留意した。むしろ、この条文の趣旨は、それらの問題に関する自由又は制限が存在する場合には、それらが障害に基づく差別なしに適用されることを確保する義務を締約国に負わせることにある)。
 (a) 障害のある人が、  そのセクシャリティを経験し、 性的関係その他の親密な関係を持ち、かつ、親たることを経験する平等の機会を有すること。

意見;角ブラケットを削除する。障害者の性に対する強い偏見が現存しているため。

 (b) 婚姻をすることができる年齢の障害のあるすべての人が、両当事者の自由のかつ完全な合意に基づいて婚姻をし及び家族を形成する権利を認めること。
 (c) 障害のある人が子どもの数及び出産間隔について自由にかつ責任をもって決定する権利、並びに年齢に適した情報にアクセスする権利、性と生殖及び家族計画に係る教育にアクセスする権利、これらの権利の行使を可能とするために必要な手段にアクセスする権利、並びに生殖能力を保持する平等の機会にアクセスする権利
2 締約国は、子どもの後見、監督、管財、養子縁組又は国内法令にこれらに類する制度が存在する場合にはその制度についての障害のある人の権利及び責任を確保する。あらゆる場合において、子どもの利益は至上である。締約国は、障害のある人が子どもの養育についての責任を遂行するに当たり、その者に対し適当な援助を与える。
3 締約国は、障害のある子どもが家族生活に関して平等の権利を有することを確保する。この権利を実現するため並びに障害のある子どもの隠匿、遺棄、放置及び隔離を防止するため、締約国は、障害のある子ども及びその家族に対して早期の及び包括的な情報、サービス及び支援を提供することを約束する。
4 締約国は、子どもがその親の意思に反してその親から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が、司法の審査に従うことを条件として、適用可能な法律及び手続に従い、その分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。いかなる場合であっても、子どもは、その子どもの障害又は一方若しくは両方の親の障害を根拠として親から分離されない。
5 締約国は、直近の家族が障害のある子どもを監護することができない場合には、一層大きな範囲の家族のなかで、かつ、それがないときは家庭的な環境の地域社会のなかで代替的なケアを提供するためのすべての努力を行うことを約束する。


第24条 教育

1 締約国は、教育についての障害のある人の権利を認める。この権利を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、締約国は、次のことを指向する、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育及び、インクルーシブな生涯学習を確保する。
 (a) 人間の潜在能力並びに尊厳及び自己価値に対する意識を十分に育成すること、並びに人権、基本的自由及び人間の多様性の尊重を強化すること。
 (b) 障害のある人が、その人格、才能及び創造力並びに、精神的及び身体的な能力を最大限度まで発達させること。
 (c) 障害のある人が、自由な社会に効果的に参加することを可能とすること。
2 この権利を実現するため、締約国は次のことを確保する。
 (a) 障害のある人が障害を根拠として一般教育制度から排除されないこと、並びに障害のある子どもが障害を根拠として無償のかつ義務的な初等教育及び中等教育から排除されないこと。
 (b) 障害のある人が、自己の住む地域社会において、他の者との平等を基礎として、インクルーシブで質の高い無償の初等教育及び中等教育にアクセスすることができること。
 (c) 個人が必要とするものに対する合理的配慮
 (d) 障害のある人が、その効果的な教育を容易にするために必要な支援を一般教育制度内で受けること。障害のある人の個別的な支援ニーズを[十分に満たすため] 一般教育制度が十分に満たすことができない環境においては 、締約国は、完全なインクルージョンという目標に即して、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境において、効果的で個別化された支援措置が提供されることを確保する。

意見;
 修正議長草案の「一般教育制度が十分に満たすことができない環境においては」を採用。完全なインクルージョンという目的の実現に向けて、一般教育制度以外での教育の例外性を強調するため。

3 締約国は、障害のある人が地域社会の構成員として教育に完全かつ平等に参加することを容易にするための生活技能及び社会性の発達技能を習得することを可能としなければならない。このため、締約国は、次のことを含む適当な措置をとる。
 (a) 点字、代替スクリプト、コミュニケーションの補助的及び代替的な様式、手段及び形態、【支援技術の利用】並びに歩行技能の習得を容易にすること、また、ピアサポート及びピアメンタリングを容易にすること。

意見;
 視覚障害者の支援技術(音声ワープロやコンピューター読み上げソフトなど)利用スキル習得の重要性を反映させるため。

 (b) 手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること。
 (c) 盲、ろう及び盲ろうの人(特に子ども)の教育が、その個人にとって最も適当な言語並びにコミュニケーションの様式及び手段で、かつ、学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境で行われることを確保すること。
4 この権利の実現を確保することを助長するため、締約国は、手話又は点字に通じた教員(障害のある教員を含む。)を雇用するための並びに教育のすべての段階における教育に従事する専門家及び職員に対する研修を行うための適当な措置をとる。その研修には、障害への認識を組み入れ、かつ、適当なコミュニケーションの補助的及び代替的な様式、手段及び形態の使用並びに障害のある人を支援するための教育技法及び教材の使用を組み入れなければならない。
5 締約国は、障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として、一般の高等教育、職業研修、成人教育及び生涯学習にアクセスすることができることを確保する。このため、締約国は、合理的配慮が障害のある人に提供されることを確保する。


第25条 健康

 締約国は、障害のある人が障害に基づく差別なしに到達可能な最高水準の健康を享受する権利を有することを認める。締約国は、障害のある人がジェンダーに敏感な保健サービス(保健関連のリハビリテーションを含む。)を利用することを確保するためのすべての適当な措置をとる。特に、締約国は、
(a) 障害のある人に対して他の者に提供されるものと同一の範囲、質及び水準の無償の又は入手可能な保健サービス( 性と生殖に関する保健サービス )を提供する。

意見;
 障害者の性と生殖に関するニーズが否定されてきた長い歴史があるため、この文言を明記することは重要である。
【参考:修正議長草案に付されていた意見】

原注4:特別委員会は、「性と生殖に関する保健サービス」という句の使用が新たな国際法上の義務又は人権を認めたものではないことに留意する。特別委員会は、このパラグラフ(a)が、社会権規約12条又は子どもの権利条約24条に定める健康についての権利に追加しない又は当該権利を変更しない非差別の規定であることを了解する。むしろ、パラグラフ(a)の趣旨は、締約国に対し、保健サービスが提供される場合にはそれが障害に基づく差別なしに提供されることを確保することを要求することにあろう。)及び住民公衆衛生計画を含む。)

(b) 障害のある人が特にその障害を理由として必要とする保健サービス(適当な場合には早期発見及び早期治療を含む。)並びに更なる障害(特に子ども及び高齢者の障害を含む。)を最小化し及び予防するためのサービスを提供する。
(c) これらの保健サービスを、障害のある人自身が属する地域社会(農村を含む。)に可能なかぎり近くで提供する。
(d) 保健の専門家に対し、特に、研修を通じて並びに公的な及び民間の保健ケアに関する倫理基準の公表を通じて障害のある人の人権、尊厳、自律及びニーズに関する意識を高めることにより、他の者と同一の質のケア(十分な説明に基づく自由な同意を基礎としたものであることを含む。)を障害のある人に提供することを要請する。

意見;
 インフォームド・コンセント(十分な説明に基づく自由な同意)に言及していることを特に支持する。インフォーム・ドコンセントは障害者のみならずすべての人にとって、とりわけ医療においては最低限の権利である。まさに、十分な説明と同意の無い治療やリハビリテーションが障害者に対して行われてきた。 日本国内におけるインフォームド・コンセントについて、国内法の条文の中にインフォームド・コンセントの義務規定はなく、努力義務に過ぎないという意見もあるが、最高裁判例も含め判例としてはインフォームド・コンセントの権利は認められており(たとえばエホバの証人の信者の輸血拒否に関する最高裁判決 2000年2月29日最高裁第3小法廷)、国内現行民法上、義務であるという解釈は可能である。また、「ハンセン病問題に関する検証会議最終報告書」を受けて、厚生労働省が設置した「ハンセン病問題に関する検証会議の提言に基づく再発防止検討会」が設置されている。検証会議最終報告書の再発防止への提言のひとつのテーマは「患者被験者の権利の法制化」であり、患者の権利には、当然、インフォームド・コンセントは含まれることになると思われる。

(e) 公正かつ合理的な方法で提供されなければならない健康保険及び、生命保険を国内法が認めるときは、生命保険が提供される場合において、障害のある人に対する差別を禁止する。


第26条 ハビリテーション及びリハビリテーション

1.締約国は、障害のある人が、その最大限の自立と、十分な身体的、精神的、社会的及び職業的な能力[自らの選択に基づく最適の身体的、精神的、社会的及び職業的能力]と、生活のあらゆる側面への完全なインクルージョン及び参加とを達成しかつ維持することを可能とするための効果的かつ適当な措置(ピアサポートを通じたものを含む。)をとる。このため締約国は、【本条約の目的に沿って】 特に保健、雇用、教育及び社会サービスの分野において、次のような方法で、包括的なハビリテーション及びリハビリテーションのサービスを組織し、強化し及び拡張する。【提供する。】

意見;
 障害者の尊厳並びに権利を保障するという「本条約の目的に沿って」という文言を挿入すれば、リハビリテーションの諸分野の列挙を特に行う必要は無いと思われるため。
 また、最後の部分については、草案の書き振りが他の条文に例を見ない強い形であるため、普通に「提供する。」とすることでも十分に本条文の趣旨は通じると思われる。

 (a) ハビリテーション及びリハビリテーションのサービス及び計画が、可能な限り最も早い段階で開始され、かつ、個人のニーズ及び長所に関する学際的な評価に基づくこと。
 (b) ハビリテーション及びリハビリテーションのサービス及び計画が、地域社会及び社会のあらゆる側面への参加及びインクルージョンを支援し、自発的なものであり、かつ、障害のある人自身の属する地域社会(農村を含む。)に可能なかぎり近くで障害のある人に利用可能であること。
2 締約国は、ハビリテーション及びリハビリテーションのサービスに従事する専門家及び職員に対する初期研修及び継続研修を充実させることを促進する。


第27条 労働及び雇用

1 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害のある人の労働の権利を認める。この権利には、障害のある人にとって開かれ、インクルーシブで、かつ、アクセシブルな労働市場及び労働環境において、障害のある人が自由に選択し又は引き受けた労働を通じて生計を立てる機会についての権利を含む。
 締約国は、特に次のことのための適当な行動(立法を通じたものを含む。)をとることにより、雇用の過程で障害を持った者を含む障害のある人のために労働の権利の実現を保障し及び促進する。
 (a) 雇用に係るすべての事項(募集、採用及び雇用の条件、【通勤 、】職務継続、昇進並びに労働条件を含む。)に関し、障害に基づく差別を禁止すること。【また、差別を受けたときには、迅速かつ効果的な救済のための措置を行なうこと。】

意見;
(1)職場への通勤が困難な障害者のための言及が必要である
(2)雇用差別に対する救済規定は必要である

 (b) 他の者との平等を基礎として、公正かつ良好な労働条件(平等な機会及び同一価値の労働についての同一報酬、ハラスメントからの保護を含む安全かつ健康的な作業条件並びに苦情処理を含む。)についての障害のある人の権利を保護すること。
 (c)  他の者との平等を基礎として、かつ、一般に適用のある国内法に従い障害のある人が労働の権利及び労働組合の権利を行使することができることを確保すること。
 (d) 障害のある人が、一般の技術指導計画、職業指導計画、職業斡旋サービス、職業研修及び継続研修を効果的に利用することを可能とすること。
 (e) 労働市場において障害のある人の雇用機会及び昇進を促進するための措置、並びに職業を求め、それに就き、それを継続し及びそれに復帰する際の支援を促進すること。
 (f) 自営の機会、起業の機会及び自己の事業を起こす機会を促進すること。
 (g) 公的部門において障害のある人を雇用すること。
 (h) 積極的差別是正措置、奨励制度その他の措置を含むことのある適当な政策及び措置を通じて、民間部門における障害のある人の雇用を促進すること。
 (i) 職場において合理的配慮が障害にある人に提供されることを確保すること。
 (j) 障害のある人が開かれた労働市場において労働経験を習得することを促進すること。
 (k) 障害のある人の職業的及び専門的リハビリテーション、職業維持並びに職場復帰を促進すること。

意見;
(1)1項(a)(b)については、現行国内法制度では「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」が該当するが、障害のある人に関連して、統計上の実態がどうなっているか検証する必要がある。
(2)1項(c)のブラケットが付されている […一般に適用のある国内法に従い、]は、現行国内法制度における、最低賃金法の最低賃金除外規定や、障害者の就労に関する環境整備の立ち遅れ等の多くの見直すべき課題を容認することになりかねないため、削除が必要。

2 締約国は、障害のある人が奴隷状態又は隷属状態に置かれず、かつ、強制的又は義務的労働から他の者との平等を基礎とし保護されることを確保する。

意見;
 2項の「奴隷状態又は隷属状態に置かれず、かつ、強制的又は義務的労働」については、「一定の拘禁された状態」も含めて解釈する必要がある。

【第3項新文案】

【3 一般の(開かれた)労働市場から除外されている障害のある人に対し、権利を保障し、本人の選択に応じた、多様で、かつ、労働法規が適用される労働の機会を代替手段によって提供するとともに、一般の(開かれた)労働市場への早期移行を目標に、効果的で、個別化された支援措置が提供されることを確保する。】

意見;
 障害のある人の中には、一般の(開かれた)労働市場ではない代替的な労働市場に置かれている場合があるという現状をかんがみ、将来の一般市場(開かれた市場)への移行を目的にするという前提の下で、代替労働市場における障害者の権利を保護するための規定を設けるべきである。



第28条(十分な生活水準と社会  保護 

1 締約国は、自己及びその家族の十分な生活水準(十分な食料、衣類及び住居を含む。)についての並びに生活条件の不断の改善(清浄な水の入手を含む。)についての障害のある人の権利を認め、また、この権利を障害に基づく差別なしに実現することを保障し及び促進するための適当な行動をとる。
2 締約国は、社会 保護 についての障害のある人の権利及びこの権利を障害に基づく差別なしに享有することについての障害のある人の権利を認め、また、その権利の実現を保障し及び促進するための適当な行動をとる。これには次の措置を含む。
 (a) 障害と関連のあるニーズに係る適当かつ入手可能なサービス、機器その他の支援への障害のある人のアクセスを確保するための措置
 (b) 社会保護 計画及び貧困削減戦略への障害のある人[特に障害のある女性及び少女並びに障害のある高齢者]のアクセスを確保するための措置
 (c) 障害と関連のある費用を伴った国の援助(十分な研修、カウンセリング、財政援助及びレスパイトケアを含む。)への貧困の状況下で生活している障害のある人及びその家族のアクセスを確保するための措置
 (d) 公共の住宅供給計画への障害のある人のアクセスを確保するための措置
[(e) 退職に関する給付及び計画への障害のある人の平等なアクセスを確保すること。]

意見:
 社会保護の保護に付された角ブラケットを外すべきである。パラ2(e)の角ブラケットも外すべきである。



第29条 政治的及び公的活動への参加

 締約国は、障害のある人に対して政治的権利及びこの権利を他の者との平等を基礎として享有する機会を保障するものとし、また、次のことを約束する。
(a) 特に次のことにより、障害のある人が、直接に又は自由に選んだ代表を通じて、  一般に適用のある国内法に従い、 他の者との平等を基礎として ] 、政治的及び公的活動に効果的かつ完全に参加することができること(障害のある人が投票し及び選挙される権利及び機会を含む。)を確保すること。

意見;
 (a)項柱書きにおける「一般に適用のある国内法に従い」という規定では、さまざまな理由から実質的に国内法で排除される可能性があるため削除すべきであり、「他の者との平等を基礎にして」のみを残せば十分である。

 (i) 投票の手続、設備及び器具が、適当であり、アクセシブルであり、かつ、理解し及び利用しやすいことを確保すること。
 (ii) 障害のある人が選挙及び国民投票において脅迫を受けずに秘密投票を通じて投票する権利、選挙において立候補する権利並びに政府【と自治体】のすべての段階において効果的に公職に就き及びすべての公務を遂行する権利を保護し、適当な場合には支援技術及び新技術の使用を容易にすること。

意見;
 (a) 項-(ii) で、「(略)並びに政府のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する権利を保護すること。」の「政府の」部分を「政府と自治体の」に修正する。
 (1)(a) 項-(ii) について、「公的活動」の内容提示が不十分になっている。
 (2)「公的活動」の内容については、JDFとして提出した「国連・障害者権利条約第6回特別委員会の審議に関する要望書」(2005年7月19日付)では、作業部会草案第18条(政治的及び公的活動への参加)に対する言及で次のように指摘している。
(以下、同要望書から)
  「公的活動」については、広い意味での参政権と公務就任権とは深い関連性があることを踏まえて、次の点について検討していただきたい。
  (1)公務就任権については、官公庁における障害者雇用の別枠採用の促進との関連で、雇用における合理的配慮の明確化を含めて検討する必要があること。
  (2)国や自治体における障害のある人の生活領域にかかわる審議会や障害者計画の検討委員会に当事者が委員として参画する場合の、基本的な情報保障やコミュニケーション等に必要な具体的支援を確保する必要があること。
 つまり、「公的活動」とは、ナショナルのレベル(「政府のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する」)での問題と、ローカルのレベル(自治体のすべての段階において公職に就き及びすべての公務を遂行する)での問題の双方が含まれるべきである。つまり、「公的活動」に関連する「公務を遂行する」の意味は、「公権力の行使と公の意思の形成にたずさわること」となり、その範囲は、通常、政府と自治体の両方が含まれるというのが一般的解釈であり、確認の意味で【と自治体】を挿入しても問題は無い。

(b) 障害のある人が、差別なしにかつ他のものとの平等を基礎として、政治に効果的かつ完全に参加することができる環境を 積極的に促進し 【確保し】、また、政治への障害のある人の参加を奨励すること。これには次のことを含む。

意見;
 参政権は即時的実現の求められる権利であるため、「確保し」にすべきである。

 (i) 国の公的又は政治的活動に関係のある非政府機関及び非政府団体に参加し並びに政党の活動及び運営に参加すること。
 (ii) 国際、国内、地域及び地方の場において障害のある人を代表するための、障害のある人の団体を結成し及びこれに加入すること。
 (iii) 選挙人としての障害のある人の意思の自由な表明を保障すること、及びこのため必要な場合には、障害のある人の要求に応じて、自ら選択する個人が投票する際の援助を与えること。


第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加

1 締約国は、障害のある人が他の者との平等を基礎として文化的な生活に参加する権利を認め、また、次のことを確保するためのすべての適当な措置をとる。
 (a) 障害のある人が、アクセシブルな形態を通じて、文化的作品へのアクセスを享受すること。
 (b) 障害のある人が、アクセシブルな形態を通じて、テレビ番組、映画、演劇その他の文化的な活動へのアクセスを享受すること。
 (c) 障害のある人が、文化的な公演又はサービスがなされる場所(例えば、劇場、博物館、映画館、図書館、観光サービス等)へのアクセスを享受し、また、可能な限度において国の文化的に重要な記念碑及び遺跡へのアクセスを享受すること。
2 締約国は、障害のある人が、自己の利益のためばかりではなく社会を豊かにするために、創造的、芸術的及び知的な潜在能力を育成し及び活用する機会を有することを可能とするための適当な措置をとる。
3 締約国は、国際法に従い、知的財産権を保護する法令が文化的作品への障害のある人のアクセスを妨げる不合理な又は差別的な障壁とならないことを確保するためのすべての適当な行動をとる。

意見;国際法の遵守は当然であり、この文脈で強調する必要は認められない。

4 障害のある人は、他の者との平等を基礎として、その独自の文化的及び言語的なアイデンティティ(手話及びろう文化を含む。)の承認及び支持を受ける権利を有する。
5 障害のある人が、他の者との平等を基礎として、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動に参加することを可能とするため、締約国は次のことのための適当な措置をとる。
 (a) 障害のある人が、あらゆる段階における主流のスポーツ活動に可能な最大限の範囲内で参加することを奨励し及び促進すること。
 (b) 障害のある人が障害独自のスポーツ活動及びレクリエーション活動を組織し、発展させ及びそれに参加する機会を有することを確保すること、並びにこのため適当な指導、研修及び資源が他の者との平等を基礎として提供されることを奨励すること。
 (c) 障害のある人が、スポーツ、レクリエーション及び観光の場所にアクセスすることができることを確保すること。
 (d) 障害のある子どもが、遊び、レクリエーション、余暇及びスポーツの活動(学校制度におけるこれらの活動を含む。)への参加に平等にアクセスすることができることを確保すること。
 (e) 障害のある人が、レクリエーション、観光、余暇及びスポーツ活動の組織に携わる者によるサービスにアクセスすることができることを確保すること。


第31条 統計及びデータ収集

1 締約国は、この条約を実現するための政策を形成し及び実施することを可能とするための適当な情報(統計及び研究データを含む。)を収集することを約束する。この情報を収集し及び保存する過程は、
 (a) 障害のある人のプライバシーの秘密及び尊重を確保するために法的に確立された保護(データ保護に関する法令を含む。)を遵守しなければならず、
 (b) 人権及び基本的自由を保護する国際的に受け入れられた規範並びに統計に関する倫理原則を遵守しなければならない。
2 この条の規定に従い収集された情報は、適当な場合には集約解除されなければならず、また、この条約に基づく締約国の実施の評価を助長するために並びに障害のある人がその権利を行使する際に直面する障壁を明らかにし及び当該障壁に取り組むために用いられなければならない。
3 締約国は、この統計の普及の責任を引き受け、かつ、障害のある人及び他の者に対してそのアクセシビリティを確保する。

意見;本条を基本的に支持する。



[ 第32条 国際協力

1 締約国は、この条約の目的及び趣旨を実現するための国内的努力を支援するものとして国際協力及びその促進が重要であることを認め、また、これに関しては、国家相互間において並びに、適当な場合には関連のある国際的及び地域的機構並びに市民社会特に障害のある人の団体と共同して、適当かつ効果的な措置をとる。その措置には、特に次のことを含むことができるであろう。
 (a)国際開発計画を含む国際協力が障害のある人にとってインクルーシブで、かつ、アクセシブルなものであることを確保すること。
 (b) 情報、経験、研修計画及び最良の実践の交換及び共有その他を通じて能力構築を容易にしかつ支援すること。
 (c) 研究における並びに科学的及び技術的知識へのアクセスにおける協力を容易にすること。
 (d) 適当な場合には、技術援助及び経済援助(アクセシブルな支援技術へのアクセス及びその共有を容易にすることによる援助並びに技術移転を通じた援助を含む。)を提供すること。
[2 さらに、締約国は、国際協力が補足的かつ支援的な役割を果たしているとしても各締約国がこの条約に基づく義務を充足することを約束していることを認める。]
2 各締約国は、国際協力のいかんを問わず、この条約に基づく義務を充足することを約束する。

意見;
(1)ファシリテーター案に基づく、独立した国際協力に関する条文案を支持する。そのため、条文名にかかっている角ブラケットを削除する。
(2)第2項に関しては、簡潔なファシリテーター案の[2 各締約国は、国際協力のいかんを問わず、この条約に基づく義務を充足することを約束する。]を支持する。



第33条 国内実施及び国内モニタリング

1 締約国は、この条約の実施に関連する事項を取り扱う一つ又は二つ以上の中心的機関を政府内に指定するものとし、また、多様な部門及び多様な段階における関連のある活動を容易にするための調整機関の設置又は指定を正当に考慮する。
2 締約国は、必要な場合にはジェンダー及び年齢に特有な問題を考慮に入れて、その法的及び行政的な制度に従い、この条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した仕組みを国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。その仕組みを指定し又は設ける場合には、締約国は、人権の保護及び促進のための国内機構の地位及び機能に関する原則【(障害に基づく差別や人権侵害に対する効果的な権利救済の仕組み及び政府へのこの条約の履行に関する提言等を含む)】を考慮に入れる。
3 市民社会、特に、障害のある人及び障害のある人を代表する団体は、モニタリングの過程に関与し、かつ、完全に参加する。

意見;
 (1)1項の「一つ又は二つ以上の」についての意味が不明。本条約の履行に関する国内監視の仕組みの柱として、各省庁(縦割り)ごとの現行の苦情、不服申し立て制度等を中心とする緩やかな、現状では実効性があると評価できない「多様な部門及び多様な段階における関連のある活動を容易にするための調整機関」も許容されることになる。
 (2)この「調整機関」を政府内のどこに置くか。現状では、内閣府の障害者施策担当室が考えられるが、女性の条約を所管している「男女共同参画局」とは、各省庁との関係で格段の権限の違いがある。
 (3)2項の「この条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した仕組みを国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」の「独立した仕組み」は、国連人権委員会が「国内人権機関」に関するガイドラインとして策定した「パリ原則」(1993年)を踏まえたものであることから、【 】内の文言を追加した。



第34条(国際モニタリング)

意見;
 独立条約体として、障害者権利委員会のような国際モニタリングの規定を設けるべきである。その際、少なくとも、(1)この条約の公表のほか、定期報告や一般的意見等についての公表・周知化(さまざまな障害のある人に配慮したアクセシブルな形態での公表・周知化)、(2)障害者権利委員会の権限と機能等(障害種別に配慮した障害者自身の過半数の参加、締約国報告審査、個人通報制度、調査制度など)、(3)障害者権利委員会と主要人権条約機関及び他の国際諸機関との関係(障害者の人権の主流化と障害者権利条約の実施の実効性の観点から)、(4)障害者権利委員会と国内モニタリングとの関係について、他の主要人権諸条約の国際モニタリングの規定をいっそう強化する方向で検討する必要がある。

【参考資料】
第7回特別委員会に提出したJDF意見書:
 議長草案における国際モニタリングに関する条文(第34条)は空白である。もっとも、国際モニタリングを本条約に含めることについては、すでに一般的合意が得られている。また、モニタリングを、既存の人権条約のそれと同等かそれ以上のものにすべきであるとの合意も得られている。さらに、モニタリングのすべての段階に障害者自身と障害者団体が完全に参加することについて一般的支持もある。第7回特別委員会では、国連人権高等弁務官事務所が準備する、人権条約体改革作業に関する報告等に留意した柔軟な規定を練り上げることになる。その際、すでに合意が得られているように、既存の人権条約と同水準かそれ以上のものを目指しながら、障害者自身がモニタリングに実質的に関与するという原則を具体化する規定ぶりを探る必要がある。


討議資料

障害者の権利に関する国際条約修正議長草案における国内関連法・制度等の課題

2006年7月14日
JDF(日本障害フォーラム)

第2条(定義)

【障害/障害者】
●日本障害者リハビリテーション協会
 障害の定義に関連して、障害者基本法をはじめとする、すべての法律の障害の定義を、議長草案をめぐる議論を踏まえ、早期に見直すべきである。
●日本障害者協議会
 現行の障害関係福祉法制においては、デシベル、身体の可動域や欠損、臓器別等の機能障害や疾病、IQに傾斜した障害認定制度となっているために、高次脳機能障害や発達障害、難聴、難病等の生活上の困難さが反映されず制度の狭間におかれてしまい、必要な諸制度が利用できない。こうした現実を改善するためには、生活上の困難さに着目した、ニーズに基づく障害認定が行われなければならない。具体的にはWHOの国際生活機能分類(ICF)の定義に示されているような環境との相互作用モデルとした障害のとらえ方に基づく障害認定制度への改善が求められる。
●DPI日本会議
1.障害の定義に関する現状と課題
(1)障害者基本法の付帯決議に難病等も障害に入ると掲げられてから10年以上の長い年月がたつ。障害者基本法改正(2004年)の第23条の3項においては「難病等に起因する障害があるため継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者に対する施策をきめ細かく推進するよう努めなければならない。」と明記された。
(2)障害者自立支援法の附則と付帯決議においては発達障害、難病などを含め、障害者等の範囲について速やかに検討をおこない、3年以内に結論をうるとされている。しかしながら、現状では、障害者認定制度は改正されることがなく、範囲も偏った身体機能、臓器に限定されている。その結果、就労支援制度や障害者福祉サービスは、ニーズとは異なる基準である障害者手帳保持が要件となっているため、支援が受けられない状態が続いている。
 特に、十分な資産形成の機会が無く発病した若年者は、施策がないままに無理して働く、又は働く機会すら保障されないまま、日々の生活に耐えきれず倒れていく、家族から自立したくても、できない等の深刻な問題を抱えている。日本で生活する難治性疾患等の難病当事者においては、法のもとでの平等、基本的人権が守られていない現状が続いている。
(3)「障害」を機能障害のみでとらえる医療モデルを基盤とした障害の定義では、対象から外れる障害がでる。現在の国連での議論を踏まえて、環境上の障壁も「障害」ととらえる新たな定義が必要である。関連するものとして、障害者基本法2条又は、差別禁止法の策定にむけた定義等は理念法や権利規定等も包含することから、マッケイ議長が提案するような包括的な定義に改正することが考えられる。附則と付帯決議に3年後の見直しとして整理された障害者自立支援法等、各種のサービス法における対象基準においては、現行のImpairmentに傾斜した障害者手帳を要件とせず、又単にImpairmentの列挙により範囲を広げるのではなく、そのサービスごとの社会生活上のニーズに基づく給付体系へむけた対象の整理、見直しが必要である。

2.現在の身体障害者福祉法における障害者認定制度の現状との関係
(1)きわめて偏った身体機能や、内部臓器に限定されているために、自己免疫性疾患や血液系の疾患、皮膚疾患等の就労や生活上の継続的な活動の制限が認定項目上整備されていない。その基礎疾患から発生する機能障害(上肢、下肢、体幹の機能障害等がもしあれば)による認定で代替せざるをえない現状となっている。
(2)このような状況であるにもかかわらず、就労支援策における法定雇用率や、特定求職者雇用開発助成、障害者自立支援法等においてはこの障害者認定基準に基づく、手帳の保持を要件としているために、就労上に困難がある、介護が必要、生活支援が必要な人であっても全く別の尺度を基準とする障害認定により選別され様々な支援策が使えないでいる現状がある。
 医療の進歩における症状の慢性化における対策は欧米諸国でも問題化され、様々な対策が講じられてきたが、現行の日本の施策においてはこのような難治性疾患をもつ人の就労・生活面の支援対策がおくれている。もととなる疾患・障害が違っていても同じように就労・生活上に困難を有する場合には施策の対象とすべきで、一刻も早い対策の実現化を望む。
(参考)
◆衆議院国土交通委員会(06年6月14日)における社会・援護局中村局長の答弁
「問題点といたしましては、身体障害者等については、障害が永続していることを要件としているため、手帳という話がございましたけれども、そうではない難病の方や内部障害の方が、なかなか障害者には該当しないということで外されてしまうということ、知的障害者については、法律上、知的障害の定義の規定がないためにその要件が不明確であるなどのご指摘がございます。」
(参考)
<資料I 身体障害者福祉法の別表>
1.上肢、一下肢又は体幹の機能の著しい障害で、永続するもの
2.上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて一上肢の2指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの
3.下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
4.両下肢のすべての指を欠くもの
5.上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて一上肢の3指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
6.1から5までに掲げるもののほか、その程度が1から5までに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
7.5.心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの
<資料II 身体障害者認定基準における内部障害>
・心臓機能障害 ・じん臓機能障害 ・呼吸器機能障害 ・ぼうこう又は直腸機能障害
・小腸機能障害 ・ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害
*列記する臓器にあてはまらなければ認定されない。
*すでにヒト免疫不全ウイルスの障害認定で運用されている生活上の困難さの指標においては、別の障害者手帳を取ることが出来ない、難治性疾患をもつ方においても、同じような日常生活の制限がみられ、継続要件も満たしている調査結果もでている。
3.現在の就労支援策の現状との関係
(1)現在の就労支援施策のなかでは、職業リハビリテーションの領域内(障害者職業センターにおける訓練や、職業委託訓練、トライアル雇用等)等の就職までの訓練においてはすでに、難病等もその対象となっている施策もある。しかし、実際の就職に必要となってくる施策、障害者の法定雇用率や特定求職者雇用開発助成金等においては全く就労の困難さとは関係のない基準である障害者認定による手帳の保持(身体障害の場合)が要件となっている。そのために、就職できない、若しくは症状を隠して働き無理をして症状を悪化させるといった悪循環をくりかえしているケースが多くある。
(2)就職をしていた時の発病であったり、症状が労働に影響が少なく、継続して働ける場合はなんとか対応できているケースも多くある。しかし、症状がその職業を継続できないまで悪化し、職を辞めなければならない人、就職前に発病した人の就労問題は深刻である。福祉的就労でさえ、障害手帳が無いことを理由にことわられる現状がある。20歳前の発病のものは、障害基礎年金の受給においても該当基準がなく、家族にお世話になり家にこもる、路頭に迷う、生活保護をとるといった選択肢しかなく、やむにやまれず命を絶とうとするものまででている。一刻も早い対策を望む。
(3)障害者の雇用の促進等に関する法律における法定雇用率の範囲について
 法文で身体障害者とのみ記載されれば、「資料Ⅰの身体障害者福祉法の別表」(前記2の(2)参照)を指すことになり、難病等によって雇用に困難があっても、手帳がとれなければ対象とならない。職業リハビリテーションの項でかかれているように職業身体障害者、知的障害者、精神障害者その他厚生労働省令で定める障害者(以下「知的障害者等」という柔軟な対応が必要。
(関連条文)
第43条 事業主(常時雇用する労働者(1週間の所定労働時間が、当該事業主の事業所に雇用する通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短く、かつ、厚生労働大臣の定める時間数未満である常時雇用する労働者(以下「短時間労働者」という。)を除く。以下単に「労働者」という。)を雇用する事業主をいい、国及び地方公共団体を除く。以下同じ。)は、厚生労働省令で定める雇用関係の変動がある場合には、その雇用する身体障害者又は知的障害者である労働者の数が、その雇用する労働者の数に障害者雇用率を乗じて得た数(その数に1人未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。第46条第1項において「法定雇用障害者数」という。)以上であるようにしなければならない。
(4)特定求職者雇用開発助成金の対象者について
法文で身体障害者とのみ記載されれば、「資料Ⅰの身体障害者福祉法の別表」(前記同参照)を指すことになる。ホ以下のように幅広く求職者を対象にしているにも関わらず、難治性疾患者は対応していない障害者手帳が要件とされ、利用できない状況にある。
(参考)
一般保健者(短時間労働費保健者を含む)として、雇い入れられた次のいずれかに該当する者
イ 60歳以上のもの  ロ 身体障害者  ハ 知的障害者  二 精神障害者
ホ 母子家庭の母等 (以下省略)
【差別】
●DPI日本会議
 本条約の一般的原則が差別の禁止と機会平等(第3条)である。合理的配慮の欠如を含む「差別」は禁止されるものであるので、労働法や学校教育法、建物や情報・交通アクセス関連法、司法関係など、関連国内法において差別禁止・救済規定を設けるべきである。あるいは、あらゆる領域における障害者への差別を定義し、差別を禁止し、差別を受けた者の救済を規定する法律が必要である。 (直接関連する条項;第3条(一般原則)、第5条(平等非差別))
【コミュニケーション】
●全日本ろうあ連盟
 手話は言語である。日本国内での言語の定義が規定されていないので、言語には音声言語と手話言語があることの規定が必要である。〔憲法〕


第6条(障害のある女性)

●DPI日本会議
1.DV法(配偶者などからの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)の運用において、被害対象に「障害のある女性」を位置づけ、緊急保護施設のバリアフリー化や被害当事者の障害特性に応じた相談支援態勢を整備すること。
2.(第6,7条共通)
(関連規定)
・障害者基本法第3条(基本的理念)「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別その他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」
・同基本法第4条(国及び地方公共団体の責務)「障害者の権利の擁護及び障害者に対する差別の防止を図りつつ障害者の自立及び社会参加を支援すること等により、障害者の福祉を増進する」
・障害者自立支援法第2条の1項の三(市町村の責務)「意思疎通について支援が必要な障害者等が障害福祉サービスを円滑に利用することができるよう必要な便宜を供与すること、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のために関係機関と連絡調整を行うことその他障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行うこと。」
 障害者基本法及び障害者自立支援法の当該規定を踏まえ、国の障害者基本計画、都道府県・市町村の障害者計画の策定にあたっては、「障害のある女性」と「障害のある子ども」の独自の生活実態を踏まえ、差別や虐待等の防止と発生後の効果的な権利擁護の仕組み、個別のニーズに応じた自立と社会参加の支援を重点課題として位置づけること。


第7条(障害のあるこども)

●DPI日本会議
 児童虐待防止法の運用において、被害対象に「障害のある子ども」を位置づけ、緊急保護施設のバリアフリー化や被害を受けた子どもの障害特性に応じた相談支援態勢を整備すること。


第9条(アクセシビリティ)

●全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
・テレビ放送や電話などの通信のアクセスの保障を義務化
テレビ放送には、字幕放送や手話通訳が義務化されておらず、放送事業者に対して、字幕放送と手話通訳、解説放送の実施を義務化する必要がある。
・同様に、DVDやCD-ROM等記録メディアに字幕その他の情報保障の義務化、映画その他の上映系のメディアへの字幕、その他の情報保障の義務化。
●DPI日本会議
 わが国においては、障害がある人の移動の自由ならびに建築物等へのアクセスを円滑ならしめるための制度的措置として、1993年にハートビル法、ならびに2000年に交通バリアフリー法が制定されていた。これらの法律を統合するものとして2006年6月にバリアフリー新法が制定された。
 この法律には障害がある人の移動の権利、ならびに各種施設を利用する権利を規定する文言は入らず、円滑な移動及び利用を促進するための国や自治体ならびに事業者の責務を規定するものとなっている。権利規定を持たない法律であるため、交通機関の乗車拒否や施設の利用拒否が現在も後を絶たない状況にある。このような乗車拒否、利用拒否はバリアフリーな交通施設や各種施設においても行われている。こうした事態をなくすためにはバリアフリー法に権利規定を明記し、障害を理由とした拒否や排除そして差別を禁じるための法的強制力をもつものとすべきである。また、特にレクリエーション、余暇、スポーツ施設においては、公的施設以外はバリアフリー化の遅れが目立つものである。障害者専用施設のアクセシビリティだけを追求するのではなく、インクルーシブな環境でレクリエーション、余暇、スポーツを享受する環境整備を図るべきである。 
(関連条項第3条・一般的原則(f)アクセシビリティ)、第30条・文化的生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加(1-(a)(b)(c))に関連)

第10条(生命に対する危険)

●DPI日本会議
 尊厳死法案が国会等で議論を呼んだ。推進議員連盟も立ち上がり、法案を推進する市民団体の活動も活発である。これらと関連し、次期国会では「臓器移植法案」が提出される可能性が高い。また、2004年6月に厚生労働省の「終末期医療に関する調査等検討会」が「今後の終末期医療の在り方について」をまとめている。これらの議論は、基本的に自己決定と自己責任とを重ね、「死」への尊厳を強調しているが、「生」への条件が整っていない中での拙速の感が否めない。この数年、「成人病」が「生活習慣病」となり、2003年に制定された「健康増進法」では、健康は、憲法に定める「権利」としてではなく「義務」となっており、「自己責任」につながる流れである。第10条では、「他の者との平等を基礎として当該権利を効果的に享有することを確保」とあるが、障害者に関しては、「不良の子孫を残さない」ための優生保護法がつい最近まで存続し、堕胎や不妊治療が行われてきた。また、とくに、24時間の介助を必要とする障害者は、いまでもすべての介助において公的な介助保障は受けられず、家族等に依存することが多い。こうした障害者の「生」の尊厳に対して社会の認識が不十分な中での尊厳死の議論と関連する臓器移植法に関する議論は、「自己責任」や「自己決定」を強調することで、特に重度の障害者に「尊厳ある死」を心理的に「自己決定」させられる可能性が高く、本条にある「障害者が生命の固有の権利を有し・・・権利を効果的に享有すること」を形骸化する恐れが高いことを政府は認識すべきである。

第12条(法律の前における平等の承認)

●全国「精神病」者集団

1.法的能力の鑑定すらなく、つけられる精神保健福祉法上の保護者制度の撤廃

2.成年後見法の抜本的見直しおよび障害者自身による自らの個別の権利主張を相互支援する活動の制度化・法制化


第13条(司法へのアクセス)

●DPI日本会議
1.裁判所のバリアフリー化:裁判所建物内において移動ができるスロープ、エレベーター、点字、音声サービスなどの設置。
2.取り調べ段階について
(1) 特に聴覚障害等によってコミュニケーションに支障がある者、または知的障害を有すると思われる者への取調べにおいては、誘導的尋問等を防止するために、直ちに全過程の録画又は録音を行うこと。
(2) 取り調べにおいて、取調べの発問等の意味を十分に理解させることができる者(通訳者やアシスタント等)の立会いを認めること。
(3) 取調べについて専門的に行える者の養成、すべての取調官の研修の早期実施。
3.司法(裁判、検察審査会、裁判員制度)への効果的なアクセスのためには、以下の合理的配慮を提供することが必要。
(1) 法廷への出廷または検察審査会委員、裁判員が自宅から裁判所までの移動に支障がある場合には、移送サービスを提供する。
(2) 肢体障害者の場合
a 車いす使用者に対するテーブル(机)の配置
b 介助者の入廷や入室
(3) 聴覚障害者の場合
a 法廷での手話通訳者・要約筆記者の配置
b 合議での手話通訳者・要約筆記者の配置
c 要約筆記、パソコン・OHP等の機材の使用
(4) 視覚障害者の場合
a 訴訟記録の点訳または録音(どの部分の録音や点訳かの検討を含む)
b 写真、図面、その他の視覚による検証を必要とする証拠に対する対応(技術的に触覚により確認できるように返還できる場合とアシスタントによる説明)
c 公判開始後に提出される証拠への対応(点訳や録音が時間的制約の中で可能か、それによってはアシスタントによる朗読で補う)
d 視覚を必要とする証拠調べへの対応(アシスタントによる援助やさわることによる確認など)
(5) 盲ろう者の場合
a 触手話、指点字等の通訳者の配置
(6) 内部障害者に対する医療的サポート
(7) 知的障害者・精神障害者に対する訴訟記録、公判開始後に提出される証拠に対する対応(アシスタントによる援助など)
4.日本司法支援センターの整備に関連して
(1)総合法律支援法に基づき、本年4月、日本司法支援センター(以下、センターと略す)が設立され、10月から同センターのもとで民事法律扶助事業や国選弁護人事業などが開始される。総合法律支援法の基本理念(第2条)は、「民事、刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現する」ことを規定しており、同センターは、この基本理念に即して、特に本来業務を行う責務があるといえる。
(2)同センターの本来業務(①司法情報提供、②民事法律扶助、③国選弁護人の選任、④司法過疎対策、⑤犯罪被害者援助、⑥関係団体との連携強化、⑦講習・研修の実施)において、前記2~3に上げられている障害特性とニーズに応じて司法への効果的なアクセスができるための支援を行うことができる同センターの体制整備が急務である。

第12条、第14条(身体の自由及び安全)
第15条(拷問又は残虐な、非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰からの自由)
第17条(個人のインテグリティの保護)

●全国「精神病」者集団
1.刑事司法手続きにおける合理的配慮義務の貫徹
 いやしくも国権を持って人を拘禁する刑事司法手続きにおいて、情報保障のみならず、医療保障、および適切な介助保障の最低限の確保、とりわけ権利としての保釈制度の確保。
 受刑施設での医療体制は政府も認めているように医療法に違反しているのが常態である(名古屋刑務所事件を気に明らかにされた死亡帳の分析では死亡者の多くが精神疾患者でありかつ通常の医療機関では考えられない医療なき状態で死亡している)。

2.精神保健福祉法を強制収容法から、精神障害者復権法へ転換する抜本的見直し

3.心神喪失者等医療観察法の廃止


第19条(自立した生活及び地域社会へのインクルージョン)

●DPI日本会議
1、(a) 項に関連して:
 2005年10月に制定された「障害者自立支援法」では、その第1条(目的)には、「障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう」と、あたかも「能力及び適性に応じた生活」があるかのような記述になっており、大きな問題である。「能力及び適性に応じた自立した日常生活又は社会生活」とある部分を、「地域社会でインクルーシブな自立した生活・社会参加」とあらためた上で、同法全体の根本的見直しを行うべきである。
2、(b)項に関連して:
(1) 「障害者自立支援法」では、必要な在宅サービス・居住サービスに関わる、国庫負担金を(障害のある人のニードを中心にしてではなく、ADL動作を中心とした)障害程度区分に基づいて算定するようになっている(第95条)。しかも、在宅サービスには実際に市町村が支弁した費用全額に対してではなく、程度区分ごとの上限が設定されている。サービスの必要性を、障害のある人のニードを中心にした仕組みに変更するとともに、「地域社会における生活およびインクルージョン、地域社会からの孤立及び隔離を防止する」ために、在宅サービスの上限を撤廃すべきである。
(2) 「障害者自立支援法」では、地域社会からの孤立・隔離をもたらしてきた入所施設や精神病院については、日中と夜間を分けるだけの方策しか示されていない。入所施設・病院から地域でのインルーシブな生活へ移行するための支援・仕組みを設けるべきである。その際、当事者による自立生活センターやピアサポート活動等への支援が積極的に制度的に位置づけられる必要がある。
 また、十分なサービス・支援を得られるだけの地域生活サービス基盤を整備するために、特別な立法と財源措置が講じられるべきである。
 精神病床を転用した「退院支援施設」や、施設の敷地内につくられるケアホームは、地域社会からの孤立及び隔離を永続化させるものとして、認められるべきではない。
(3) 「障害者自立支援法」では、応益負担が導入され、サービスや必要な支援を得るための1割を負担しなければならなくなった。そのため、必要な在宅サービス、居住サービス、その他の地域社会支援サービスを得ることが困難となる事態が生じている。障害者及び障害者を含む世帯の実態把握を行い、「障害があるが故に必要な費用」に対する所得補てんを行うとともに、費用負担のあり方について見直しを行うべきである。
3、(c)項に関連して:
(バリアフリー新法等への障害者等の移動の権利の明記)
・交通機関や公共的建築物に比べても著しく遅れている、住宅のバリアフリー化を推進する法制化と財政措置が講じられる必要がある。「住生活基本法」や「公営住宅法」、「高齢者の居住の安定に関する法律」の見直しが必要である。
・情報通信や放送に関する機器開発、購入・導入に関して、アクセシビリティ・ガイドラインを障害のある人の参加のもとで充実を図るとともに、実効性ある制度化が必要である。
●全国「精神病」者集団
・施設解体、社会的精神病院入院の解消に向けた有効な施策
施設入所者および精神病院長期入院患者を隔離政策の被害者と位置づけた国家賠償の実施

第20条(個人の移動性)

●DPI日本会議

1.補装具や日常生活用具など、障害のある人の参画のもと、必要とされ、かつ使いやすい機器の開発が進むような研究開発の仕組みや資金投資が行われるような法制化・財源措置が講じられる必要がある。その際、以下の点を重要項目として進める必要がある。
・開発や評価への障害のある人の参画が進むような支援や制度化
・必要とする人に必要な機器が行き渡るような給付制度とカスタマイズへの支援
2.「障害のある人に対し及び障害のある人と共に働いている専門職員」に関する各種研修に関連して、「障害のある人の権利条約」と関連国内法等の障害者の権利に関する内容を必修科目とする等の義務づけ、講師等に障害のある人の参画の内在化等の制度化が必要。
●全国「精神病」者集団
 自立支援法については未確認であるが、支援費においては、宗教活動および政治活動への支援費の支給がなされなかったが、いかなる政党の選挙活動もあるいはいかなる宗派の宣教活動においても税金で作られた道路は使われており、当然障害者においても移動の保障・介護保障は特定の政党の政治活動あるいは特定の宗教の宣教活動においても保障されなければならない。


第21条(表現及び意見の自由と、情報へのアクセス)

●全日本ろうあ連盟
1.柱書きの「締約国は (中略) 適当な措置をとる。」の部分がテレビ政見放送に「手話と字幕」を付加することを含むことを確認する必要がある
2.(b)項の 「公の対話」の具体的な意味がよく分からないので、以下の例が該当するのか確認して頂きたい。例として①福祉事務所など行政の窓口、②交通事故を調査する警察官、③テレビ政見放送、④裁判所・国会など議会の傍聴等に有効か否か
3.(d)項
 「マスメディアが、そのサービスを障害のある人にとってアクセス可能なものとするよう奨励すること。」に以下の例が含まれるのか確認が必要。
(1)テレビに「手話と字幕」を奨励する意味は含まれるか。
(2)「手話と字幕」を付けられない場合は、付けられる他の番組に素材を提供することは含まれるか
4.(e) 「手話の使用を承認し及び促進すること。」の「承認」の意味が不明であり確認が必要。
(全日本ろうあ連盟追加分)
(1)情報通信へのアクセシビリティとして、テレビへの手話・字幕の挿入。〔著作権法〕
(2)政見放送への手話・字幕付与は政党の任意によるものになっている。全ての政見放送(国政選挙・地方選挙とも)に100%の義務付けをするよう、法改正が必要。〔公職選挙法〕(関連条項-第21条表現及び意見の自由と、情報へのアクセス・第29条政治的及び公的活動への参加)
(3)公共交通機関の車内・駅構内などでの文字による情報提供を整備するべきである。
〔高齢者、障害者の移動等の円滑化の促進に関する法律〕
●全国「精神病」者集団
 精神保健副私法上の措置要件「自傷他害のおそれ」についてはその大臣告示において他害に「名誉毀損」が含まれており、現実に悪徳精神病院の告発を行い法務省人権擁護局に訴え、擁護局が調査に入った事例において告発した精神障害者が、精神保健福祉法により、措置鑑定された例がある。この大臣告示は言論の自由侵害であり、直ちに改正されなければならない
●盲ろう者協会
 国内の既存の法律に盲ろうという障害の特性に配慮した規定を盛り込んで行くべき


第24条(教育)

●DPI日本会議
 先の通常国会では、衆議院文部科学委員会での学校教育法改正案の締めくくりの審議において、次のような質疑が行われた。
(議事要旨)
○藤村修議員
 過去長い間、文部省、現在は文科省は、分離別学にという基本の考え方に固執してきたが、ここに来て世界の潮流、いよいよまさにインクルージョン、ノーマライゼイションという思想を日本の文部科学省は取り入れるんだと。・・・(中略)・・・文科省は、分離別学をいよいよ転換するんだと、法案審議の中で確認してよいでしょうか。
○小坂大臣 
・・・(中略)・・・ようやく日本もインクルージョンの考え方に近づいてきている。教育の現場は徐々に変わりつつあるが、教員の配備、学校の設備等、今すぐ完全なインクルージョンの考え方で進めるのは、難しい面もありますが、私が大臣として携わったこの機会に少しでも前に進めたいと思って、できるだけ前向きな答弁をし、将来の体制も整えるような形を進めたいと考えて答弁に臨んでいます。そういう意味で、わたしは、流れはインクルージョンであることを、ここではっきりさせておきたいと思う。

(上記は、衆議院文部科学委員会で6月14日に行われた審議を傍聴した者による速記録です。したがって、正式な議事録ではありません。)

 上記の「大臣答弁」は、条約の教育に関する条文案と国内法の現状との関係について、今後の方向性を示唆する重要な意味を含んでいる。また、同委員会の締めくくりの審議においては、就学先の決定において、「保護者の意見を十分に聞く」という答弁が繰り返し行われ、この点については、現行の「通知」から政令に位置づけるということも確認された。
 こうした国会審議を踏まえて、次のような課題を取り上げていく必要がある。
1.LD、ADHD、高機能自閉症だけでなく、現に放置されている障害のある児童・生徒たちを含めた「教育上特別の支援を必要とする児童・生徒」への学習環境の整備を行うこと。(第75条関係)
(1)現状:中央教育審議会初等中等教育分科会特別支援教育特別委員会に配布された資料によると、全国の小学1年生を対象にして、就学指導委員会の判定結果と実際の就学先の実態結果が報告されている。
 2005年(平成17年)は、6,253人に対して就学指導委員会が「盲・ろう・養護学校適」と判定したのに対して、22.53%(1,409人)が実際の就学先を地域の学校とした。つまり、就学指導委員会の判定に反して、これらの児童・生徒は地域の学校を就学先として選んだことになる。また、就学指導員会の指導を問題があるとして、一連の就学相談等を拒否して地域の学校で学んでいる障害児の人数はこの数字に含まれていないため、実際にはもっと多くの児童・生徒たちが地域の学校で学んでいることになる。
 この児童・生徒に対しては、公的な支援は全く講じられていないため、親の学校への付き添いを当然のこととして求められ、親が付き添いをしない場合には、介護拒否にあうなど、虐待にも近い状態に障害児が放置されてしまうこともある。
(2)身体障害、知的障害やLD、ADHDなど障害種別で格差を設けることなく、また、どのような経緯で通常学級で学ぶこととなったかなど、その経緯によって差別することなく、教育上特別の支援を必要とすることを本人または保護者が希望している場合には、その支援を講じるべきである。改正法第75条第1項「小学校、中学校、高等学校、中等教育学校及び幼稚園においては、次項各号のいずれかに該当する児童、生徒及び幼児その他教育上特別の支援を必要とする児童、生徒及び幼児に対し、文部科学大臣の定めるところにより障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする」という下線部分は、これまで放置されてきた身体障害や知的障害をもつ児童・生徒も含めて今後、特別支援教育の対象としていくことが前提である。
2.特別支援教育を提供する際に、以下の①~③の事項を踏まえ、対象者の確定、個別支援計画の立案が行われること。
(1)障害のある児童・生徒を特別支援教育の対象とするかどうか、各種テストを実施する際には、本人及び保護者の承諾を得ること。また、該当児童・生徒の過去の成績にアクセスする際にも、同様に本人及保護者の承諾を得ること。
(2)個別の教育支援計画を作成する際には、障害のある本人及び保護者がその過程に参加し、意見を述べられるように保障すること。計画が完成した時には、その内容を聞く機会を設けること。また、本人及び保護者の要請に応じて協議をし、その協議にもとづいて内容を修正すること。
(3)個別の学習支援として、学校への通学、学内での介助、コミュニケーション手段の獲得、一人ひとりのニーズに応じた教科書や教材の準備、それらを活用できるための支援等を提供すること。
3.就学相談および就学指導のあり方の早期検討を行うこと。
(1)問題の多いこれまでの就学指導のあり方
 これまで障害児に対して行われてきた就学指導は、障害の程度によって盲・ろう・養護学校や特殊学級へと振り分ける機能を担ってきた。この過程では、障害児や親の就学に対する意向は反映されることなく、専門家主導で就学先の決定が行われことになる。学校教育法施行令第22条の3では、「盲学校、聾学校又は養護学校に就学させるべき盲者、聾者又は知的障害者、肢体不自由者若しくは病弱者」として障害の程度が示されているため、就学指導は非常に強い強制力をもっているのが現状である。
(2)中教審答申で課された課題の遂行を
 中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について(答申)」によると、第6章「2.障害のある児童生徒の就学の在り方について」において、「児童生徒本人及び保護者の意向を把握しこれを就学先の決定に反映するための就学指導の在り方」を含めて検討を行うとなっている。
 修正議長草案においても、各国政府が推進すべきものとして通常学級で障害児が学習するインクルージョン教育の実現を明確に位置づけている。同草案では、フルインクルージョンを目標とすること、障害の有無にかかわらずに一般教育制度内ですべての児童・生徒が学習することを基本とすること、特別な教育環境であってもフルインクルージョンを目的として「学業面及び社会性の発達を最大にする」よう個別支援を提供しなければならいとしている。
4.特別支援教育の実施にあたって、中教審で課された就学の在り方について検討を早急に実施し、答申にあるように「児童・生徒及び保護者の意向が反映されるような就学指導の在り方」に転換していくために次のことが課題になっている。
(1)現在の盲・ろう・養護学校への就学を強制する就学相談、および指導を改め、地域内に児童生徒本人及び保護者が就学相談をすることができる機関を設けること。その機関は、「本人や、第一義的責任者である保護者の意向を十分に聴取し」、その意向を実現するよう関係機関との調整を行い、障害をもつ子どもが地域の学校に通うことを原則とする就学の仕組みを確立すること。
(2)障害児、および親が特別支援学校等での就学を希望する際には、そのための支援を行い、できるだけ近隣の特別支援学校に就学できるようにすること。
●全国「精神病」者集団
精神障害者の場合在学中の発病が多く、修学年限上限制のためやむなく退学せざるを得ない例が多い。就学年限の撤廃が必要。

●全日本ろうあ連盟
(1)条約では「完全なインクルージョンとう目標に即して」とあるが、聴覚障害者児の場合、その児童に最も適した「言語」により教育を受けられるようにするべきである。
(2)手話が言語であることから、本人・保護者の意向を十分に汲み取り、ろう学校での手話による教育が受けられるようにし、本人・保護者が希望する教育が選択できるようにすること。
(3)聴覚障害者がろう学校以外の法律で定められた学校での教育を受ける場合、個別支援を提供すること。
〔教育基本法〕


第25条(健康)

●全国「精神病」者集団
 精神障害者が精神疾患以外の疾病にかかったときに手術や入院を拒否される例があり、また手術後すぐ精神科病室や精神病院に移される例がある。これらは直ちに改善されなければならない。
●DPI日本会議
 (d)項の「インフォームド・コンセント(十分な説明に基く自由な同意)」については、判例・学説においては、義務であるとみなすことが可能となっているため、医師法などの関連法の改正が必要である。また、インフォームド・コンセントによる障害者の権利の実質的な保護のためにも、関連医療等の専門家の、障害(者)への理解が必要であり、「説明」を行う際の障害のニードにあわせたさまざまな配慮も同時に義務化すべきである。


第27条(労働)

●日本障害者リハビリテーション協会
1.第27条[労働及び雇用]第1項(a)(b)に関連して、「個別労働紛争解決促進法」による都道府県労働局長による助言・指導、および紛争調整委員会によるあっせんという、2つの紛争解決制度が整備されている。
 また、司法制度改革の一環として、2006年度から「労働審判制度」が実施される。その制度は、地方裁判所に設置される労働審判委員会により、個別労働紛争を原則として3回の期日で迅速に処理しようとするものである。労働審判委員会は裁判官である労働審判員1名と労働関係に関して専門的知見を有する労働審判員2名の、計3名で構成される。
 これらの制度を、障害者が雇用上差別を受けた際、その救済に有効に機能するよう整備すべきである。その一環として障害当事者団体代表が紛争解決または審判プロセスに参加できるようにすること。
2.第27条第1項(i)に関連して、障害者雇用促進法のなかに「合理的配慮」義務規定を含めるよう、必要な改正を行うべきである。
3.第27条第3項新文案に関連して、障害者自立支援法にもとづく施設の再編整備で、一般就労が困難な障害者を対象に設けられる「就労継続支援事業」は、雇用型と非雇用型に2分され、非雇用型事業対象者は、従来の授産施設同様、労働法規適用外の取り扱いとなるものと思われる。しかし、新文案で明記されているように、就労移行支援事業、就労継続支援事業(雇用型および非雇用型の両方)をとわず、それらの利用者については、すべて労働法規を適用することを原則にすべきである。(このことは、すでに1955年のILOの障害者の職業リハビリテーションに関する第99号勧告でも規定されている。)
●全国「精神病」者集団
・最低賃金の適用除外は直ちに撤廃
・作業所等における最低賃金の保障および労働三権の保障が必要
・自立支援法における就労支援事業においても上記が保障されなければならない
●盲ろう者協会
 国内の既存の法律に盲ろうという障害の特性に配慮した規定を盛り込んで行くべき
●全国社会福祉協議会
・一般の労働市場において障害者雇用を推進することは当然のことであるが、現実には、障害のある人の「働きたい」思いを実現するため、代替的な選択肢を必要とする障害者は相当数にのぼり、障害者自立支援法では、一般就労への移行をすすめるための「就労移行支援」、一般就労が困難な障害者の働く場としての「就労継続支援」といった新たな事業体系が創設されたところである。
・ILO159号条約「障害者の雇用及び職業リハビリテーションに関する条約」(日本は1993年批准)ならびに同168号勧告には、「保護雇用制度」の有効性が明示されている。わが国においても、平成15・16年度の厚生労働科学研究で検討がすすめられ、「日本版保護雇用(社会支援雇用)制度の創設」が提言されている。
・障害者自立支援法の検討過程において、わが国における保護雇用のあり方について十分な検討が加えられたとは言い難い状況もあり、新体系における就労継続支援事業や日本における保護雇用のあり方について、引き続き検討を行う必要がある。
●全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
 現行の障害者雇用促進法の聴覚障害者支援に、手話通訳のみ助成されているが、要約筆記や盲ろう者通訳などのコミュニケーション支援も対象にすべきである。
 〔障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律〕


第28条(十分な生活及び社会保護)

●DPI日本会議
 所得保障の確立にむけて:障害のある人が、同一地域に生活する同年齢の市民と同等の経済的条件を有することは、障害のある人が社会的に自立していく上で欠かすことのできない基本的条件である。第27条の「労働及び雇用」において、障害のある人の労働環境ならびに雇用の促進を図ると同時に、現在の社会では雇用の対象になりにくい障害者に対しては、安定した経済生活を営むための所得保障の確立が図られなければならない。市民全体の制度である年金により基礎的生活を保障するものとすることと同時に、障害故に特別に必要とする経費に関しては各種社会手当の創設あるいは見直しによって、生活全体を支えるものとしなければならない。
●全国「精神病」者集団
 レスパイトケア(ショートステイ)は精神障害者にとって必須のものであるが、未整備状態であるので、充実すべきである。

第29条(政治的及び公的活動への参加)

●DPI日本会議
1.選挙情報について
(1)政見放送への手話通訳および字幕スーパーの義務づけること
 現状では、政党の努力義務として手話通訳の配置を課している。しかし高齢化による難聴者や中途失聴者の増加の中で、手話を理解できない人も多く、字幕スーパーでの情報提供が必要である。公職選挙法(以下、公選法と略す)にすべての選挙人が同様の情報を入手できるよう義務づけ、手話通訳・字幕スーパー等で情報を入手できるよう位置づけるための法整備が必要である。
(2)選挙公報の点字版・音訳テープの義務づけること
 現状では、視覚障害者等に対応するための広報は、各都道府県選挙管理委員会の努力に委ねられているが、その提供は十分ではない。公選法にすべての選挙人が同様の選挙公報を入手できるようにすることを義務づけ、点字版・音訳テープで選挙公報の内容が入手できる法整備が必要である。
(3)演説会等への手話通訳および字幕スーパー等の法整備の推進
 現行制度では、手話通訳者は一般の選挙運動員とみなされているが、通常の通訳者としての報酬を受けることはできない。選挙管理委員会が一定の人員を確保し、政党や候補者からの要望に応じて派遣するような、手話通訳者や要約筆記者等を業務として位置づけるための法整備が必要である。

2.投票所について
(1)段差などの解消を義務づけること
 1998年に旧自治省が行った調査の結果、入り口に段差のある投票所が全体の6割以上あり、車いす使用者などの投票を阻害している。現状の実態調査をより詳細に行い、投票所のバリアフリー化推進に向けた中長期計画を策定し、環境整備を推進していくことが必要である。
(2)対応できる機器・設備の設置を義務づけること
 投票所の内部施設についても、車いす使用者が投票しやすい記載場所(投票台)の設置、弱視者等の視覚障害者に対応するための文字の拡大器の設置、聴覚・言語障害者、知的障害者に対応するため、手話通訳者等の配置やわかりやすい手順(順路等)の表示等も必要である。

3.投票方法について
(1)病院・施設等での投票の推進
 現行制度では、病院・施設等に入院または入所している選挙人の場合、その病院・施設等での投票は不在者投票として位置づけられ、都道府県の選挙管理委員会が指定する病院・施設等でのみ認められ、その病院・施設等の長が不在者投票管理者となる。これからは、小規模な病院・施設等に対象範囲を広げるとともに、選挙の情報を病院・施設の長に発信し、当該の長は、病院・施設内の選挙人にその情報を伝えることを義務づけること。
また、本来の不在者投票管理者は、病院・施設の長ではなく、利害関係のない第三者によるものとされなければならず、そのための早急な法制備が必要である。
(2)新たな選挙方法等の研究開発
最近では、電子投票等の研究開発も進んでいるが、点字投票が認められているように投票用紙や方法に関して、障害特性に合わせた投票方法の調査研究が必要である。
4.当事者が参画する検討機関の設置が必要
 障害のある人の政治参加を保障するためには、国や地方自治体における障害のある人にかかわる各種の審議会、検討会を含めて公的活動に参画するための基本的な情報保障や具体的なコミュニケーションの方法等について、当事者の声を反映する具体的な方法がないという現状がある。障害のある人が政治的権利を確保していくためには、障害種別の当事者やその関係者が参画し、その課題や提案について検討する機関の設置が国や地方自治体のレベルで必要である。

第30条(文化的な生活、レクレーション、余暇及びスポーツへの参加)

●DPI日本会議
1.障害者のアクセス権と著作権について(第3項に関連して)
 日本の現行著作権法で、この問題に絡んできそうな権利は、同一性保持権、複製権、上演権及び演奏権、上映権、公衆送信権、翻訳権、翻案権等である。障害のある人が情報にアクセスする手段と対応する障害、それに伴う問題点などを列挙すると次のようになる。
(1)点訳:対象は視覚障害者。誰でも何でも点訳するのは勝手で、つまり無許諾で点訳できることが法に明文化されている。
(2)音声化:対象は視覚障害者になるが、一部の学習障害者(識字障害)にも有用。
 欧米では視覚障害者より学習障害者の利用の方が多いと聞いたことがあるが、日本では認識が遅れている。さらに、上肢等の障害でページを繰れない者にも利用可能な手段である。法的には、特定の専門施設(点字図書館など)は無許諾で音声化できるが、一般の個人や公共図書館では許諾が必要となる。学習障害者の場合、法的許諾だと「視覚障害者のため」と明文化されているので、点字図書館等では利用できない。許諾によって音声化された場合も、許諾文に「視覚障害者のため」とあるのがバリアになる。今後認識を広めて、法整備においては「文字・書物によって情報にアクセスできない者のため」と明記することが必要。
(3)文字化(字幕):聴覚障害者を主たる対象とし、視覚情報にアクセスし易いという自閉症の一部も対称となりえる。2000年の改正でテレビ番組の音声をリアルタイムで文字化し、インターネットで送信するという手段が、あらかじめ届け出た組織について無許諾で認められるようになったが、ビデオや映画については依然許諾が必要です。
(4)電子化:可能性としては多くの種類の障害者が対象となる。情報を電子ファイルの形にすることになるが、このファイルは通常文字データで入力されるが、そこから文字出力できるのはもちろん、点訳して出力(紙に出力するのとパソコンの点字ピンでの出力)もできる。また、読み取りソフトで音声化することもできるが、許諾が必要となる。
(5)翻案、再話:これは一部の学習障害者、知的障害者が対象となり、現実にはかなりおこなわれていると思われる。

2.「許諾」に関する改善点について
(1)著作権者の恣意により許諾を与えるかどうかが決められる。
(2)映画作品などの場合、許諾を得るべき相手が多すぎる。
 スウェーデンの場合、たとえば音声化の文芸家協会のようなものがあり、そこに誰に何を音声化して何部製作したと届け、協会側はそれをカウントして年末にしかるべき金額を著作権者に支払う、というシステムになっていると言われている。一挙に一切を無料で許諾せよというのは困難かも知れないが、スウェーデンのように、著作権者の恣意の入る余地をなくす方向で改善することが必要である。金額としては墨字本1冊で得られる印税と同額というのが妥当と思われるが、一方で晴眼者が図書館で無料でアクセスできるのと同等の手段は保障するべきである。
註1)点訳も字幕も要は視覚⇒触覚、聴覚⇒視覚といった感覚モードの変換ですので、第30条3項後半は「障害のある人アクセスのためにモードを変換することを確保するためのすべての適当な行動をとる。」とでもすれば今後の技術の進歩にも対応しやすいのではないか。
註2)情報保障には「開かれた(open)」ものと「閉じた(closed)」ものがある。後者が手話や点字のように、その方法を知る者にのみアクセスできるのに対して、前者は字幕や音声化のように、健常者でも誰でもアクセスできるというところに違いがある。日本では上記の点訳と音声化の扱いの違いや、選挙の政見放送で公費での手話通訳は認めても、字幕には積極的でないところにその違いが見られる。結果として中途障害者に対するアクセスのバリアが、より高いことがあるのを認知してほしい。
註3)著作権法と障害者について、外国の実情はよくわからないところがある。英米法の諸国では「フェア・ユースの原則」というのがあって、目的がよければ許されるという観念がある。だから著作権法上は障害者に対する配慮が明文化されていなくても、実際にはかなり行なわれていると思われる。

第33条(国内実施及び国内モニタリング)

●DPI日本会議
1.政府部内のどこに「中心的機関」及び「調整機関」を置くべきか明確にするとともに、調整機関に当事者の意思を反映させていくことが必要である。女性差別撤廃条約では、内閣府男女参画局の担当部署が、同条約の国内履行に関するモニタリングの実施に対応している。障害者の権利条約の国内履行においては、少なくとも外務省の所轄部局と密接に連携し、内閣府の障害者施策推進本部が関係省庁との総合的調整機能をもつ中心的機関としての役割を果たし、NGOの参画と意見を反映するための協議機関を設置することが必要である。

2.1998年の自由権規約委員会からの日本政府への「主な懸念事項及び勧告」では、「…委員会は、締約国に対し、人権侵害の申立てに対する調査のための独立した仕組みを設立することを強く勧告する」ことが述べられている。国内実施及び国内モニタリングにおいては、「国内人権機関に関するパリ原則」(1993年)を踏まえ、行政機関からの独立性と当事者性(委員構成における障害NGOの積極的な参画等)が確保され、実効性のある権限と役割をもたせるためには、次の基本的な要件が必要である。
(1)条約の国内履行状況を監視し、その結果を踏まえた現状と課題について政府への提言を行うこと、
(2)障害に基づく差別と人権侵害に対する救済を含む監視・救済委員会の設置が必要である。

3.国内実施及び国内モニタリング機関の主な役割について
(1)条約に基づき、国内の法令、政策及び計画を監視し、必要な見直しと改廃または新規立法についての検討を行う。
(2)条約に基づき、国内法令の影響に関する研究に着手し、それを推進すること。また、障害のある人に与える影響を評価するための制度を開発すること。
(3)国内監視・救済委員会は、条約の国内履行に関する不尊守の申立てを受けると、まず、任意の調査を行い、任意の調査によって事案が明らかにならない場合でかつ事案の解明が必要と判断される場合には、職権による立ち入りも含めた調査を実施する。
(4)調査の結果、条約に違反することが確定した場合は、不利益または被害の回復に向けた調停を行う。
(5)調停が不調に終わった場合で、かつ差別、権利侵害の行為が認定されるときには、事案の重大性、緊急性に応じて、是正命令、警告、公表、勧告、要望等の処分を行う。
(6)条約の実施状況について調査・監視し、定期的にその調査結果をまとめ、関連法令の改廃・制定に関する提言を内閣に提出する。

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