JDF-日本障害フォーラム-Japan Disability Forum

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「障害者の権利条約」に関する日本政府への意見書(2007年8月9日 政府との意見交換会にて【条約採択後・第1回】)

07.08.09 政府意見交換会

JDF(日本障害フォーラム)意見書

1.今後の批准と国内法整備にむけた障害者団体の参画の確保の必要性(前文(o)、第4条、第33条他)

1) 第4条の規定にかんがみ、障害者および障害者団体の参画の保障についての具体的な方法を 明文化すべきである。早期批准と国内法整備への姿勢を打ち出すために、条約の署名をしていただき、その上で国内法整備についての検討委員会を設ける等、定期的な政府とNGOの協議体制の確認をしたい。

2) JDFに関連する他の障害当事者団体の参画
 障害者の権利条約(以下、権利条約)では、条約交渉の経緯もあり、障害当事者あるいは障害者団体・関係者の参画を規定する条文が規定されている。まず、至近の課題として、わが国においては実際に政府の解釈と実質的にみなされることとなる「仮訳」が政府内で法制局などをまじえ、検討され、調整されていると聞く。仮訳が一度できると批准後にできる政府公定訳にそのままなる場合が多い。まずは条約の解釈についても政府は団体との意見交換の機会を保障すべきである。
 また、精神障害者団体は全国組織が複数あることをかんがみ、それぞれの連携のもとに各団体の参加を保障すべきである。

2.障害および障害者の定義の見直し(前文(e)、第1条、第2条他)

1) 国内障害関連法制度における障害ならびに障害者の定義を、医学モデルから社会モデルあ るいは、相互作用モデルへ変更する必要。特に権利や差別等を規定する施策においては特に包括的な障害の定義を設けること。
 第1条「条約」の条文にかんがみ、この条項に反している日本施策の現状があれば、条約の趣旨を尊重し、改正していく必要がある。権利や差別等を規定する施策においては、身体障害者福祉法の対象とせず、難病等や発達障害者、高次脳機能障害等、特定の障害者が排除されないように、包括的な定義をもうけるべきである。また、障害の定義の見直しによって総合的な福祉法(サービス法)の制定の必要性を認識するか。

2) 福祉サービス・障害年金・社会手当・生活保護の受給等にかかわる通知や政省令を含むすべての法令における身体の欠損や機能の状態に偏った支給決定基準や障害程度区分を見直しあるいは廃止することが必要。

3) 第1条・「目的」をどうとらえるか
 障害及び障害者については、概念が前文(e)と第1条で述べられている。第1条は、障害者には、環境との関係から他の人との平等を基礎とした社会参加を妨げる機能障害をもつ人をも含むとしている。これは、機能障害を障害と見る「医学モデル」と、環境との関係で障害は生じるとする「社会モデル」あるいは「相互作用モデル」と考えられる。障害が機能障害のみでなく、社会環境との相互作用から生じるということを述べているのは大変評価できる。権利条約での障害の概念が、機能障害のみを障害とする日本の現行法における定義より広いことは間違いない。現行の障害関連の福祉法制度は、デシベル、身体の可動域や欠損、臓器別等の機能障害や疾病、IQに傾斜した障害認定制度となっている。そのため、高次脳機能障害や発達障害、難聴、難病等の場合、生活上の困難さが反映されず制度の狭間におかれてしまい、必要な諸制度が利用できない問題点がある。
 上記に関連して2007年7月、北九州市では肝臓に障害をもつ方が餓死する事件がおきている。現行の日本の福祉施策は、臓器別や疾病別に規定された対象要件があるため、肝機能障害等の内部障害、慢性疾患者の継続的な体力の制限、疲れやすさは、同じ内部障害でも臓器や疾病が違うために勘案されず、様々な雇用施策の対象要件となっている障害認定も取れず、障害年金制度の対象にもなりにくい現状にある。まさに、「福祉制度の狭間」にさらされている。生存権を保障する生活保護が唯一生活を成り立たせる最後のセーフティ・ネットとなっている。このような制度上の不備は障害者基本法の附帯決議等にあげられてから、10年以上も放置されたままとなっており、2度とこのような事件を繰り返さないためにも、早急な対策と現状を踏まえた改正を進める必要がある。
 これらの問題認識から12月13日の国連における政府の発言を再確認することが求められる。

3.第2条「定義」について

(1)コミュニケーション

1) 『筆記』に要約筆記が含まれること

(2)言語

1) 第2条定義において手話は言語であると定義されている。これを踏まえて、国内で言語には音声言語と手話言語があることの規定、社会のあらゆる場面で音声言語と対等に手話を使う権利、及び手話(通訳)による情報・コミュニケーション保障を受ける権利行使への国内法整備が必要である。

(3)合理的配慮(第2条ほか)

1) 『不釣合いな又は過度な負担を課さないもの』の立証責任は、合理的配慮を求める側ではなく、配慮を準備する側にあることの確認

4.障害者の差別を禁止する新たな権利法の必要性(第2条、第3条、第5条他)

1) 権利条約の原則である「平等非差別」に基き、条約における「障害に基く差別」の概念を確認し、何が差別で何が禁止されるのかを法律で定めること、合理的配慮の内容等を定める法制度が必要である。また裁判規範性などを取り入れ、差別禁止の強制性と実効性を担保する必要から、条約の規定する障害による差別を禁止する法制度が必要。

 第2条の「障害に基く差別」は、特に注目すべき部分である。すべての人権及び基本的自由の認識、享有、行使を害し、無効にする目的又は効果を差別としており、「直接差別」「間接差別」が含まれている。さらに「合理的配慮を行わないこと」が障害に基く差別と定められことは、障害者の実質的な平等を図るために障害者が勝ち取ってきた新たな概念が国際条約に明文化されたという大きな意義を持つ。また、第2条に定義されている「合理的配慮」は障害者と障害をもたない人の実質的な平等・機会均等を確保するための新しい概念であり、権利条約における重要ポイントといってよい。
 第3条の一般的原則でも非差別平等を規定し、第5条では、実質的な平等をはかり、差別を禁止するという個別条項が設けられ、合理的配慮の確保を規定している。

 以上をかんがみるに、「障害に基く差別」を権利条約をもとに規定し、禁止する法制度の確立が必要である。合理的配慮の規定も必要となる。改正された障害者基本法3条で差別の禁止を謳っている点は前進と評価しているが、何が差別なのか言及しておらず、裁判規範性がないばかりか、救済手段についても明示されておらず、実際の差別事例にはなんら効力を発揮しえないのが現状は放置できない。

5.アクセシビリティ・移動について(第9条、第20条等)

(1)権利に基づいたバリアフリー施策の推進

1) 移動・利用の権利の確立の必要性。利用拒否等、被害者に対する救済機関や制度が必要

2) 地域間格差の解消に向けた施策の推進

 事業者側の「恣意的な解釈・判断」による乗車拒否に対して、消費者保護の観点も含めた対応・救済ができる機関や制度が必要である。バリアフリー新法の基本方針で、「施設の利用を正当な理由なく拒むことなく、円滑なコミュニケーションを確保する等対応を適切に行うことができるよう、計画的な研修の実施」等の追加記述も行われた。
 地方と都市部との地域間格差の是正問題も急を要する。とくに、既存の公共交通機関・施設等のバリアフリー化を進めていく必要がある。行き過ぎた格差の問題は差別の問題になりかねない。
 権利条約では、関連して、第9条アクセシビリティが一般規定(総論)部分におかれている。これは、障害者と障害のない者の実質的な平等を保障するためには、アクセシビリティが非常に大切であると認識されたからである。第20条は、個人の移動を支援することが書かれている。第9条や第20条ではいわゆる「移動権」の規定はない。しかし、条約の一般原則である「自立した生活」や「社会への完全参加」を可能にするための措置を取ると規定しているのが第9条である。アクセシビリティや移動性の確保を定める条項は、特定の場合における合理的配慮義務の発生も含めて、権利性が付与されるのであり、国内法制もそうした解釈ですすめる必要がある。

(2)個別

1) 第9条第2項(d)『公衆に開かれた建物その他の設備において、点字表示及び読みやすく理解しやすい形態の表示を提供すること。』の部分に文字(情報)表示が含まれること。「設備において」では、聴覚障害者のための補聴援助システム(磁気ループなど)の設置もすべきである

2) 第9条第2項(e) 『公衆に開かれた建物その他の設備のアクセシビリティを容易にするためのライブ・アシスタンス(人又は動物による支援)の諸形態及び媒介者のサービス(ガイド、朗読者及び専門職の手話通訳者を含む。)を提供すること。』に要約筆記者が含まれること

6.危険のある状況及び人道上の緊急事態(第11条)

1) 「自然災害の発生の状況」「における障害のある人の保護及び安全を確保するためのすべての必要な措置を取る」において、災害時の臨時ニュース(ローカルニューも含む)に手話・字幕を付けること、被災聴覚障害者に対する手話・字幕による情報・コミュニケーションを保障するべきである。

7.法の前の平等な承認(第12条)

1) 法的能力を権利能力に限るべきではなく、現行法体系の見直しが必要

2) 成年後見制度の見直し(第29条にも関連)  第12条2項から、成年後見制度における権利の制限が見直され、第29条(a)の観点から、被後見人・被保佐人においても、投票権が回復される必要がある。

 第12条は、この条約のすべての条文から誰一人として障害者を排除しないための条文である。何らかの例外を認め法的能力を否定された障害者がいれば、この条約のすべての条文からその人は排除されてしまい、その人にとっては何の意味もない条約となってしまう。12条は条約すべての条項から誰一人として障害者を排除しない重要な条文であり、この点は2007年3月30日の署名開放の午後行われたハイレベル対話の席上で国連人権高等弁務官も述べている。
 この条文の法的能力については権利能力のみをさすのではなく、行為能力をもさすという解釈は一貫して障害者団体が主張してきた。法的能力を権利能力に限るのであれば、たとえば財産を自己名義で持つことは認められても、その売買などはできない、という実態が生まれる。女性差別禁止条約の一般見解ではこうしたことは法的能力が認められている以上あってはならず、法的能力は行為能力を当然含むとされている。求められているのは権利を行使する際の支援およびその支援へのアクセス保障である。上記の国連高等人権弁務官も同様の解釈をしている。ここでの法的能力については女性差別撤廃条約の解釈同様、権利能力のみならず行為能力も含むとして解釈されなければならないと考える。

8.司法へのアクセス(第13条)

1) 取調べや裁判における合理的配慮
 特に知的障害・自閉症スペクトラムの範囲にあるあるいは精神障害の「障害のある人に対して他の者との平等を基礎とした司法への効果的なアクセスを確保する」(第1項)ために、取調べ全過程の録画及びコミュニケーション支援者あるいはその能力を有する立会い弁護士なしで誘導的尋問や調書が作成されることのない措置が講じられる必要がある。

2) 刑事及び民事裁判において、手話通訳の保障を聴覚障害者本人の負担ではなく裁判所の負担とする必要がある。

3) 受刑者への医療保障や福祉的支援やその情報提供はまったく不十分であり、獄死や年金権の喪失などを招いている。この問題は特別な刑務所に分離されることで解決されるべきではなく、すべての刑務所で最低保証されなければならない医療保障であり、福祉支援の情報保障である。

9.身体の自由と安全、強制施設収容と障害に基く拘禁について(第13,14,15,17条)

1) 自由剥奪時における障害者のみの特別な基準の禁止(13条)
 自由剥奪の手続きについては、非差別平等原則および合理的配慮義務によって、障害者のみに特別の基準を押し付け、それをもって拘禁することは許されない、と解釈されるべき。

2) 入所施設の廃止の将来的方向性を明確にすべき(第14条)  「いかなる場合においても障害の存在により自由の剥奪が正当化されない」(第14条1(b))ために、「入所施設は将来的に全廃する」という方針が明確にされるべきである。

3) インテグリティ(人間としての完全無欠性)についての解釈 (第17条)  拷問を禁止している自由権規約7条に関しての一般見解20のパラグラフ2でも触れられており、そこでは7条の目的は個人の尊厳と身体的精神的インテグリティの保護であるとされている。インテグリティ(人間としての完全無欠性)とは障害者が人として他の者との違い、多様性を持つことそのものを肯定し尊重すること、すなわち条約第3条(d)で定められている、「差異の尊重、並びに人間の多様性及び人間性の一部としての障害のある人の受容」を示している。そしてインテグリティ(人間としての完全無欠性)を尊重される権利を定めた17条は、人の精神や身体、自己の尊厳・誇り、自分自身について言いたくないことについて沈黙する権利、それらへの介入は一切許されないという意味がある。このインテグリティ(人間としての完全無欠性)の尊重という文言は、自由権規約7条により、この権利は絶対的なものであり一切留保がつけられてはならないものである。

10.拷問等の禁止(第16条)

1) 虐待防止法の制定と第3者機関の設置
 「あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待」(第16条1)から障害のある人を保護するために、障害者虐待防止法の制定をおこない、さらにそれが「独立の当局により効果的に監視されることを確保する」(第16条3)ために必要な第三者機関を設けることが必要である。

11.地域における自立生活の権利としての保障(第3条、第19条他)

1) 施設等、本人の望まない特定の生活様式を実質的に強いられる状況の即時的な改善措置

2) 地域社会での生活と完全な参加を可能にする施策の拡充

3) 障害者自立支援法の見直し等

  (a)項にかんがみて、障害の種別やその重さにかかわらず、障害のある人が望まない施設入所は決しておこなわれず、また、その意思は障害のある人の家族や後見人等をもって代替できないこと、さらに、希望する場合の退所及びその後の地域生活のために必要な支援や生活資源は公的責任において確保されることが明確にされる必要がある。
 さらに、障害者の地域生活をどういう形で保障しようとしているのか。特に必要な介助をどういうシステムの中で保障すべきと考えているのか。住宅政策についての考えはどうなのか。
 障害者自立支援法の見直しが必要になる。理由として

  • 同法1条の目的に、「個人の能力と適性に応じた」となっている。地域における生活が権利として定められていない。
  • 医学モデルを主としたサービス支給量決定の方法
  • 各地でサービスの利用抑制、サービス支給量の減少が起こっている。19条によれば、完全でかつ効果的な社会参加及びインクルージョンという目的のための福祉サービスなのであり、旧来の人権2分論による社会権の後退措置禁止義務に明らかに違反している。

12.第21条(表現及び意見の自由、並びに情報へのアクセス)関連

1) (b)項について
 『公の対話において、手話、点字、拡大・代替コミュニケーション、並びに障害のある人が自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、様式及び形態を用いることを承諾し及び容易にすること。』に文字表示、要約筆記、補聴援助システムが含まれることの確認。 『公の対話』とは、純然たる私人間の対話を除くすべての「対話」であることの確認。

2) (c)項について
 『公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体が、障害のある人のために情報及びサービスをアクセシブルかつ使用可能な形式で提供するよう勧奨すること。』に、映画・VTR・DVD・インターネット動画(全てに邦画を含む)に手話や日本語字幕をつけることが含まれるべき。

3) (d)項について
 『マス・メディア(インターネットにより情報を提供する者を含む。)が、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルにするよう奨励すること。』に、「全ての番組に日本語字幕付与を義務付けること」が含まれるべき。

13.インクルーシブ教育の推進(第24条)

1) 原則分離から原則インクルーシブ教育への政策の転換の確認。
 大臣答弁(2006年6月14日衆議院文部科学委員会)や国連における政府のブリーフィング(2006年8月)の趣旨の実行。障害の種別やその重さにかかわらず、障害のある人や子どもが望む場合には、普通学校で学ぶことが保障され、かつ、その際に適切な学内介助が無償で確保されるようにする必要がある。

2) 第2条において手話は音声言語と同様に言語であると定義づけられた。第24条第3項(b)において、「手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にすること」と規定されている。また、第3項(c)には「学業面の発達及び社会性の発達を最大にする環境」とある。この「環境」とは聴覚障害児の場合、手話でコミュニケーションできる環境のことであり、インクルーシブな教育制度にあっても、このことを確保するためには、聴覚に障害をもつ子どもの集団での教育が必要であり、一般校において「手話の習得及びろう社会の言語的なアイデンティティの促進」をはかることは容易ではない。第一義的にはろう学校での教育が必要である。

3) 合理的配慮の「過度な負担」
 第2条の定義では、配慮を準備する側の『不釣合いなまたは過重な負担』の抗弁が承認されるが、教育の場では、特に義務教育が無償であることは日本国憲法で保障されており、少なくとも、義務教育課程での合理的配慮について、他の者との平等を基礎とする限り、『不釣合いなまたは過重な負担』を申し立てて、「配慮」をしないことは認められない。教育の場での合理的配慮については、不釣合いなまたは過重な負担について抗弁を認めない形での運用形態をとるべきである。

4) 合理的配慮義務を履行し、必要な支援を行う体制の整備
 上記2) を踏まえたうえでの合理的配慮履行義務のための施策・制度をすべての障害児等に適用すべきである。具体的には、認定就学児童その他、普通学級・学校に通う障害児童すべてに対する支援が必要。これに関しては、障害のある人が……(その)能力を最大限度まで発達させること」を実現するために、通常学級をふくむすべての教育機関において教育条件の改善が急務であり、通常学級の学級規模、教職員定数の改善、特に通常学級の学級編制基準を30人にすることや特別支援学校の重複障害学級の認定を改善等、個人個人のニーズにあった支援が必要となるが、どのように考えるのか。

 第24条では、障害者の最大限の発達のためインクルーシブな教育を行うべきであると規定している。特に、第2項(b)では「自己の住む地域社会でインクルーシブで質の高い教育にアクセスできること」、(c)では合理的配慮、(e)においては必要な支援を「完全なインクルージョンという目的に則して」提供することと規定した。権利条約の原則の一つに「社会への完全かつ効果的な参加とインクルージョン」(第3条)がある。このために教育は行われなければならず、排除される教育では適切ではない。インクルーシブ教育を推進するためには、能力主義に貫かれた通常教育の抜本的改革が必要である。現在すすめられている、成果・効率主義の教育を改めなければならない。とりわけ、障害のある子どもの排除につながる「一斉学力テスト」は中止すべきである。  当面の課題として、LD、ADHD、高機能自閉症だけでなく、現に放置されている障害のある児童・生徒たちを含めた「教育上特別の支援を必要とする児童・生徒」への学習環境の整備を行うことが必要である。
 また、原則インクルーシブにのっとった就学制度が必要となる。

14.健康に関する権利について(第25条)

1) (d)に基づき患者の権利法制の新設が必要

15.労働における差別の禁止(第27条)

(1)27条の柱書きに関して

1) あらゆる形態の雇用にかかるすべての事項に関する差別の禁止と、そのための雇用差別を禁止する法令整備と権利擁護機関の設置が必要(DPI)。

2) 雇用割り当て制度について(DPI)

  • 根拠とされている障害者数の計算式の見直し
  • ダブルカウントについて、あり方を再検討すべき。

3) 最低賃金法の見直し(DPI)
法文第八条において「最低賃金の適用除外」に関して「精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者」と明文化されており、この条文の撤廃が必要である。

(2)個別項目について(DPI)

(a)項について

1) 障害者の一般就労における採用試験の受験や採用要件として「自力通勤可の者」、「介助者なしで職務が遂行できる者」、「活字印刷試験に対応できる者」、「口頭による面接が可能な者」等というものは差別規定であり、その撤廃が必要である。

2) 福祉的就労の場における労働条件に関しては、一般就労で保障されている諸権利が守られていないため、組合結成や参加も含めその改善が必要。

(b)項について

1) 一般就労における障害者の採用に際して初任給を障害のない人と比較して低く設定している場合があり、その改善が必要。

2) 福祉的就労で障害者の収入から費用徴収をすることは、障害のない人と比較して公正かつ良好な労働条件ではないためその廃止が必要である。

(d)項について

1) 障害者に対して労働に関する研修やサービス及び訓練等を保障するために、会場の構造や説明や資料の情報保障を障害者の必要に応じて対応できるようにすることが必要である。

(e)項について

1) 雇用の促進と同時に、継続雇用及び職場復帰に関する支援をする体制の整備

(g)項について

1) 国及び地方自治体は、民間に率先し模範的に障害者雇用促進をしなければならないので、現行の雇用率の設定の引き上げや障害者雇用方針策定の義務化が必要。

(i)項について

1) 障害者が必要とする設備整備、情報保障、人的支援等といった具体的に必要な職場環境及び労働条件の整備内容等を検証しなければならない。

2) 特に一般就労では、その通勤手当等の制度改善により個々のニーズに応じた対応の制度整備や職場における介助者や情報保障を確保するための人的サポートの提供体制の整備が必要。

3) 福祉的就労においては、通所や就労時間に福祉サービスが利用できない実態の改善も必要。

4) 腎臓透析等、定期的継続的な医療を受けなければならない障害者が、不利益を受けないための特別休暇等の制度が必要。

5) 手話通訳派遣等が企業の都合により費用負担ができないなどの「不釣り合いな又は過度な負担を課さないもの」として制限されることがないようにすること。

 本条約では、障害に基く差別とは、不利益取り扱いにかかる直接差別と間接差別、さらに合理的配慮を行わないこととなっている。現在、わが国では、「自力通勤可能の者」や「介助者なしでの職務遂行能力が必要」といった条件が雇用の場面で課されることが多い(地方公務員など)。条約では、あらゆる形態の雇用にかかるすべての事項での差別を禁止するとした。合理的配慮義務が生じるのは当然のこととなるため、条約条文に沿った法制度の改正が望まれる。  また、わが国では、障害者の働く形態が、労働部署管轄となる「一般就労」と、福祉部署管轄となるいわゆる「福祉就労」に分かれている。同一の労働内容・作業内容でありながら、一方では一般就労、一方では福祉的就労の扱いとなり、不平等が生じている。

16.十分な生活(第28条関連)

1) 第1項について
 第1項の規定から就労促進にとどまらず、障害基礎年金の増額、手当制度の支給範囲と支給額の拡大、漏給のない生活保護制度の運用等を通じて、積極的で直接的な所得保障を実現する必要がある。この点につき、障害者の所得保障のあり方をどう考えているのか。また、生活保護制度における扶養義務のあり方についてどう考えているのか。

17.政治的及び公的活動への参加(第29条関連)

1) (a)項について
 街頭演説・政見放送・公開討論会への手話通訳・要約筆記者の準備、字幕付与の義務付けをすべきである。

2) (a)-(ii) 適切な場合には支援機器及び新機器の使用を容易にして~」および、(b)~
障害のある人が、差別なしにかつ他の者との平等を基礎として政治に効果的かつ完全に参与することのできる環境を積極的に促進すること、~」の部分において、手話、代読、支援機器等の保障は当事者の自己選択によるべきである。

18.文化的な生活、レクレーション、余暇及びスポーツへの参加(第30条関連)

1) 第1項(b)について
 『障害のある人が、アクセシブルな形式を通じて、テレビ番組、映画、演劇その他の文化的な活動へのアクセスを享受すること。』のアクセシブルな形式に字幕表示、補聴援助システムが含まれることの確認。テレビ、映画、演劇、DVD等に手話・字幕を付けることを義務化することと、博物館、美術館、図書館等において、聴覚障害者に対する手話、要約筆記の保障を行うこと。手話通訳派遣においてレクリエーション、余暇に関する内容は派遣の対象外としないこと。

2) 第1項(c)『(略)へのアクセスを享受すること。』に、手話通訳、 要約筆記の準備、字幕・文字表示の準備、補聴援助システムの準備が含まれることの確認

3) 「障害のある人は、他の者との平等を基礎として、その特有の文化的及び言語的なアイデンティティ(手話及びろう文化を含む)の承認及び指示を受ける権利を有する」ことについて、ろう文化とはろう者(また難聴者)のコミュニティ確立が基盤になることから、コミュニティとしての組織的な団体活動に必要な手話、手話通訳、要約筆記の保障をすること。

19.条約の実施とモニタリング(第33条)

1) 政府内に局級の中心的機関の設置をすべきである

2) 政府から独立した仕組みを作る必要がある

3) 第2項「救済機関」に関して
 教育、労働・雇用などの場面で、情報保障に関して「合理的配慮」を求める場合は、即時的救済を必要とすることが非常に多い。国内に設置される救済機関に、即時的救済・仮処分の権限を付与し、本人が簡便な救済申し立てが出来る制度を確立すべきである。

 障害者の権利条約以外の国連人権条約で(1)「独立した条文で」、(2)「パリ原則に基づく」、(3)「条約実施を促進・保護・監視するための」(4)「独立した枠組の」、(5)「維持・強化・指定・設置」、という5点を同時に義務づけている条項を有するもの(33条2項)はない。これは、国連や国際社会が、条約の国内における実施とモニタリングの重要性を深く認識してきたからに他ならない。わが国ではかつて国会で、例えば子どもの権利条約と、拷問等禁止条約の締結承認に当たり、独立した人権救済機関ないしオンブズマンの設置は必要ない(既存の国内諸制度を活用・強化すべきである)、という政府答弁があったが、こうした認識を変える必要がある。
 第33条第1項では、政府内に中心的機関を指定するとしている。現状では、内閣府の障害者施策担当室が考えられるが、女性の条約を所管している「男女共同参画局」とは、各省庁との関係で格段の権限の違いがある。女性差別撤廃条約批准等によって、内閣府には男女共同参画局が置かれたことをかんがみ、同程度或いはそれ以上の権限を持つ期間が必要となってくる。
 また第2項では「この条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した仕組みを国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」と規定されている。「独立した仕組み」は、国連人権委員会が「国内人権機関」に関するガイドラインとして策定した「パリ原則」(1993年)を踏まえたものであり、条約の実施には大変重要な事項となってくる。

20.権利を保障する体系への予算立て

1) 障害者施策を権利ベースで再構築する必要性から、省庁横断型の予算立て、財源の整理が求められる。

 権利条約の意義の一つとして、障害を取り巻く問題を権利として捉えたところにある。その履行のためには、予算立てや財源等についても検討すべきである。
 例えば、職場における介助は、障害者自立支援法の対象となっておらず、納付金制度上の予算から支給されることとなっている。しかし、実際の作業中の介助に限られ、トイレ介助や飲水、食事等の介助には支給されず、全くの空白が生じている。通勤等における介護においても、納付金制度上の通勤援助は極めて短期間の支給であり、障害者自立支援法の地域生活支援事業で市区町村の裁量で支給できることとなったが、ほとんどの自治体は「通年、長期にわたる外出介護は認めない」としている。労働権の保障といった観点から言えば、当然保障されるべき雇用契約時間内の介助が、行政側の各担当する項目ごとに支給基準が切り分けられ、利用できなくなっている。
 こうした例からも、権利に基づいた施策のための横断的な予算が必要であり、基金等による、柔軟な運営が可能な予算措置が必要である。雇用納付金、税金、障害者自立支援法等それぞれの予算から基金を積み上げ、支給基準を個人のニーズに即したものにする必要がある。


(2007/8/9)

JDF意見書への追加資料

(社会福祉法人)全国盲ろう者協会

1) 第2条の定義について
 コミュニケーションの定義の中に出てくる、「触覚コミュニケーション」には、「触手話」、「手書き」、「指点字」等の「盲ろう者のコミュニケーション手段」が含まれることの確認。

2) 「手話通訳」が出てくる箇所には、「手話通訳」にとどまらず、全ての「通訳」を含むこと、例えば、「盲ろう者向け通訳」や「要約筆記通訳」等も含まれていることの確認。

3) 第24条(教育)3項-c
 「盲、ろう、盲ろう」と書かれている部分について、「盲ろう」は、単に「盲」と「ろう」を合わせただけの文言ではなく「目と耳の両方に障害を併せ持つ者であること」の確認。これは、多用なニードを持つという意味で重要である。

 なお、「盲ろう」という文言については、盲ろう者協会内でも、「もっとわかりやすくて、親しみやすい表現はないものか」と頭を悩ませている現状であり、「盲ろう(視聴覚重複障害者)」などと、かっこつきにするなどの検討を行っている。

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