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第2回意見交換会(主に内閣府関連項目)意見書
2008年2月4日作成
第2回意見交換会(主に内閣府関連項目)意見書
JDF(日本障害フォーラム)
※条約仮訳文は川島・長瀬仮訳(07年10月29日版)を使用しています。
1.障害および障害者の定義の見直し(前文(e)、第1条、第2条他)
(1)障害の定義の見直し
この条約の交渉過程においては、特定の障害者が排除されないように、第1条の「障害者」の前に「すべての」という修飾語が付され、さらに末尾に「含む」という言葉が加えられた。この条約の趣旨に照らして、日本の障害法制における「障害者」の定義を点検し、特定の障害者が排除されないようにして見直さなければならない。たとえば、福祉サービス・障害年金・社会手当・生活保護の受給等にかかわる通知や政省令を含むすべての現行法令において、身体の欠損や機能の状態に偏った支給決定基準や障害程度区分を見直し、廃止すべきである。
また、新たな立法措置を講ずる場合にも、この条約の趣旨に照らして「障害」及び「障害者」の定義を設けなければならない。たとえば、「障害者差別禁止法」(仮称)や「総合的な福祉法(総合サービス法)」(仮称)等の立法措置を講ずる場合にも、身体障害者福祉法等の現行障害者関係法令に準拠する一元的な基準によらず、難病等の特定の障害者が排除されてはならない。
(2)政府仮訳文
以上の問題意識から、政府仮訳文の翻訳の問題を取り上げる。いうまでもなく、政府仮訳文は条約実施のための施策を検討していく段階で参考とされる非常に重要なものである。
第1条の後段の部分を政府仮訳文では「障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む」と訳している。問題は、1)
impairmentとdisabilityの訳し分けができていないこと、2) which以下は、impairmentsを修飾しているものであり、誤訳の可能性が高い、ということである。さらに、この訳文では、障害者の範囲が限定的に解釈される恐れがあり、条約の目的に合致したふさわしい訳とはいえない。厚生労働省もICF(国際障害機能分類)の訳でimpairmentを「障害」とは訳しておらず、JDFとしてはimpairmentを「インペアメント」や「機能障害」や「機能障害」(構造障害を含む)等として、disabilityと訳し分けるべきであると考える。
(3)「盲ろう者」の訳について
deafblindを「視覚障害者と聴覚障害者の重複障害」と訳している部分がある(第24条)。deafblindは一般的に「盲ろう者」と訳されるべきである。ここでは障害者の定義に関連する事項として問題提起を行うものである。
【説明】
障害及び障害者については、概念が前文(e)と第1条で述べられている。第1条は、障害者には、障壁との相互作用から他の人との平等を基礎とした社会参加を妨げる機能障害をもつ人をも含むとしている。上記1
(1)のとおり、権利条約での障害の概念が日本の現行法におけるそれより広いことは間違いない。現行の障害関連の福祉法制度は、デシベル、身体の可動域や欠損、臓器別等の機能障害や疾病、IQに傾斜した障害認定制度となっている。そのため、高次脳機能障害、いわゆる発達障害、難聴、難病等の場合、生活上の困難さが反映されず制度の狭間におかれてしまい、必要な諸制度が利用できない問題点がある。
上記に関連して2007年7月、北九州市では肝臓に障害をもつ方が餓死する事件がおきている。現行の日本の福祉施策は、臓器別や疾病別に規定された対象要件があるため、肝機能障害等の内部障害、慢性疾患者の継続的な体力の制限、疲れやすさは同じ内部障害でも、臓器や疾病が違うために勘案されず、様々な雇用施策の対象要件となっている障害認定も取れず、障害年金制度の対象にもなりにくい現状にある。まさに、「福祉制度の狭間」にさらされている。生存権を保障する生活保護が唯一生活を成り立たせる最後のセーフティ・ネットとなっている。このような制度上の不備は、障害者基本法の附帯決議等にあげられてから10年以上も放置されたままとなっており、二度とこのような事件を繰り返さないためにも、早急な対策と現状を踏まえた改正を進める必要がある。これらの問題認識から12月13日の国連における政府の発言を再確認することが求められる。
2.第2条「定義」関連
(1)コミュニケーション
1)『筆記』に要約筆記が含まれること
2)「触覚コミュニケーション」には、「触手話」、「手書き」、「指点字」等の「盲ろう者のコミュニケーション手段」が含まれること
3)上記2)に関連して、第9条2(e)に関する部分で、「ライブアシスタンスの諸形態と媒介者(案内者、朗読者及び専門の手話通訳者を含む。)」には、「盲ろう者向け通訳」や「要約筆記通訳」等も含まれていることの確認。
4)政府仮訳文の訳語に関して第2条ではコミュニケーションを「意思疎通」と訳している。コミュニケーションの解釈を狭める恐れがあり、問題であると考える。
(2)言語
1)第2条定義において手話は言語であると定義されている。これを踏まえて、国内で言語には音声言語と手話言語があることの規定、社会のあらゆる場面で音声言語と対等に手話を使う権利、及び手話(通訳)による情報・コミュニケーション保障を受ける権利行使への国内法整備が必要である。
(3)合理的配慮(第2条ほか)
1)『不釣合いな又は過度な負担を課さないもの』の立証責任は、合理的配慮を求める側ではなく、配慮を準備する側にあることの確認
3.障害者の差別を禁止する新たな権利法の必要性
(第2条、第3条、第5条他)
(1)障害者差別禁止法(仮称)
権利条約の「非差別平等」原則に基き、条約における「障害に基く差別」の概念を確認し、何が差別で何が禁止されるのかを法律で定めること、合理的配慮の内容等を定める法制度が必要である。また裁判規範性などを取り入れ、差別禁止の強制性と実効性を担保する必要から、条約の規定する障害による差別を禁止する法制度=障害者差別禁止法(仮称)が必要である。
【説明】
第2条の「障害に基く差別」の定義は、特に注目すべき部分である。すべての人権及び基本的自由の認識、享有、行使を害し、無効にする目的又は効果を差別としており、「直接差別」「間接差別」が含まれている。この点について、日本政府が、条約交渉過程において、「あらゆる形態の差別」(2条)の中には、直接差別のみならず間接差別も含むと述べたことに留意しなければならない。
さらに、「合理的配慮を行わないこと」が「障害に基づく差別」と定められことは、障害者の実質的な平等を図るために障害者が勝ち取ってきた新たな概念が国際条約に明文化されたという大きな意義を持つ。また、第2条に定義されている「合理的配慮」は障害者と障害をもたない人の実質的な平等・機会均等を確保するための新しい概念であり、権利条約における重要ポイントといってよい。第3条の一般的原則でも非差別平等を規定し、第5条では、実質的な平等をはかり、差別を禁止するという個別条項が設けられ、合理的配慮の確保を規定している。
この点について、条約交渉過程において、日本政府が、合理的配慮を障害差別と関連づけることには消極的な姿勢をとっていたが、これが条文中に明記されることになったことに留意すべきである。したがって、条文中に差別であると明記されたことにより、この条約と国内法とが抵触していると考えることができよう。
以上をかんがみるに、権利条約に基づいて「障害に基づく差別」を規定し、禁止する法制度の確立が必要であり、「合理的配慮を行わないこと」を障害差別として国内法で明記しなければならない。改正された障害者基本法3条で差別の禁止を謳っている点は前進と評価しているが、何が差別なのか言及しておらず、裁判規範性がないばかりか、救済手段についても明示されておらず、実際の差別事例にはなんら効力を発揮しえない現状は放置できない。
4.条約に反する現行法令の改廃(第4条、第5条及びその他関連条項)
(1)権利条約に違反する現行国内法制度の洗い出しおよび改正・廃止
第4条(b)で「障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む。)をとること」とある。同規定に基づき、条約に反する法令の改廃が必要となる。
5.批准と国内法整備にむけた障害者団体の参画の確保の必要性
(前文(o)、第4条、第33条他)
(1)国内法制度についての検討委員会の設置
第4条の規定にかんがみ、障害者および障害者団体の参画の保障についての具体的な方法を明確にすべきである。国内法整備についての検討委員会を設ける等、定期的な政府とNGOの協議体制の確認をしたい。
6.条約の周知化を含む意識向上(第8条、第49条)
(1)障害者週間等、内閣府など政府が行っている障害者関連の行事については、障害者団体と共にすべきである。
(2)第49条にも関連して、条約の啓発パンフレット(Q&Aを含む)や知的障害者等に向けたわかりやすい解説書の作成、日本手話版の作成を障害者団体と共同で行うべきである。
【説明】
(2)に関連して、たとえばハンガリー手話版はすでに以下のように国連サイトに掲載されており参考になると思われる。→ http://www.szmm.gov.hu/main.php?folderID=16485
7.条約の実施とモニタリング(第33条)
(1)政府内に局級の中心的機関の設置をすべきである
(2)パリ原則に基づく政府から独立した権利条約の実施に関する仕組みを作る必要がある
(3)「救済機関」に関して
教育、労働・雇用などの場面で、情報保障に関して「合理的配慮」を求める場合は、即時的救済を必要とすることが非常に多い。国内に設置される救済機関に、即時的救済・仮処分の権限を付与し、本人が簡便な救済申し立てが出来る制度を確立すべきである。
(4)条約実施における当事者参画の保障
【説明】
障害者の権利条約以外の国連人権条約で、1)「独立した条文で」、2)「パリ原則に基づく」、3)「条約実施を促進・保護・監視するための」、4)「独立した枠組の」、5)「維持・強化・指定・設置」、という5点を同時に義務づけている条項を有するもの(33条2項)はない。これは、国連や国際社会が、条約の国内における実施とモニタリングの重要性を深く認識してきたからに他ならない。わが国ではかつて国会で、例えば子どもの権利条約と、拷問等禁止条約の締結承認に当たり、独立した人権救済機関ないしオンブズマンの設置は必要ない(既存の国内諸制度を活用・強化すべきである)、という政府答弁があったが、こうした認識を変える必要がある。
第33条第1項では、政府内に中心的機関を指定するとしている。現状では、内閣府の障害者施策担当室が考えられるが、女性の条約を所管している「男女共同参画局」とは、各省庁との関係で格段の権限の違いがある。女性差別撤廃条約批准等によって、内閣府には男女共同参画局が置かれたことをかんがみ、同程度或いはそれ以上の権限を持つ期間が必要となってくる。また、同条第2項では「この条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した仕組みを国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」と規定されている。「独立した仕組み」は、国連人権委員会が「国内人権機関」に関するガイドラインとして策定した「パリ原則」(1993年)を踏まえたものであり、条約の実施には大変重要な事項となってくる。
さらに同条第3項に規定されているように、条約の国内における実施過程には、障害者団体を通じて、障害者が完全に参加し、関与しなければならない。
(1)条約の実施のためには、省庁横断型の政策立案・実施の体系の再編が必要である。
(2)上記の政策体系再編において、予算体系の整理を含めた財政的担保が重要となる。
【説明】
権利条約の特筆すべきもののひとつとして、障害当事者を取り巻く問題の解決をその人の権利として構成していることがある。したがって、その履行のためには、政策立案や実施及びそれに伴う財源確保等の在り方についても、障害当事者個別の権利本位での見直しが前提となる。
たとえば、職場における介助は、障害者自立支援法の対象となっておらず、納付金制度上の予算から支給されている。しかし、その要件が実際の作業中の介助に限られるため、トイレ介助や飲水、食事等の介助ができないなどの非現実的な事態が生じてしまう。また、納付金制度上の通勤援助は極めて短期間の支給となり、かつ障害者自立支援法の地域生活支援事業においても、ほとんどの自治体は「通年、長期にわたる外出介護は認めない」としているため、実質的な制度の空白となっている。このように、労働権の保障といった観点からも当然保障されるべき職場・通勤における介助ひとつをとっても、行政側の担当部局と予算の費目ごとに支給基準が切り分けられているため、利用できなくなっている事態が看過されてはならない。
こうした例からみても、条約の実施の前提として、障害に関わる施策と予算の省庁部局横断的な再編が必要であり、介助のための給付の財源を雇用納付金、税金、障害者自立支援法等それぞれの予算からの財政調整を可能とする基金として構成したうえで、給付を個人のニーズに即した権利本位のものとする等の改革が求められていることを確認しておきたい。
以上
※2008年2月14日 政府との意見交換会にて