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障害者権利条約内閣府関連の項目についての意見書
2008年10月17日 第5回 政府意見交換会
日本障害フォーラム
障害者権利条約内閣府関連の項目についての意見書
1.障害および障害者の定義(前文(e)、第1条、第2条他)
(1) 障害者基本法における障害者の定義の見直し
1) 障害者基本法における障害者の定義を、障害者の権利条約(以下、権利条約)の規定から、機能障害をもつ人のみならず、態度や環境との相互作用から制約を受けるすべての障害者が含まれる、いわゆる発達障害者、高次脳機能障害、難聴者、難病等の障害者手帳を所持していない等の特定の障害者を排除しない、広い定義に改正すべきである。今年2月14日に行われた第2回政府との意見交換会において、貴省(内閣府)より、継続的に生活上の支障があるという実態があれば、たとえ障害者手帳が無くても障害者ではないか、との回答があったところである。貴省(内閣府)においては、どのような見解を持ち、また、準備をされているのか明らかにされたい。2) 平成十六年の障害者基本法の一部を改正する法律案に対する附帯決議の六に関連して、今回の改正において、決議に基づく具体的な作業が進んでいるのか。
3) 精神障害者など、心身の状態が一定・継続していない場合でも、障害による生活上の支障が生じた場合も障害者であると解釈すべきであると考えるが、貴省はどのようにお考えか。
(2)差別禁止・権利保障法における障害の定義
1) 権利条約2条において定義されている障害に基づく差別を禁止する法律における障害の定義についても、上記(1)の1)と同様に、機能障害と態度や環境との相互作用から生じる制約に着目した広い定義が必要であると考えるが、貴省の見解を明らかにされたい。2) アメリカのADAや韓国の差別禁止法等では、障害を持つ過去の経歴や、障害があると見なされる者に対する差別も対象としている。差別禁止法・権利保障における障害の定義においては、1)に加えて障害を持つ過去の経歴や障害があると見なされる者も対象とするのか、貴省の見解を明らかにされたい。
(3)政府仮訳文
政府仮訳文における障害ならびに障害者の定義の問題については、第2回意見交換会でも指摘したところであるが、公定訳作成のために具体的な作業を行っているのか。
参考1:【障害者基本法第2条】
この法律において「障害者」とは、身体障害、知的障害又は精神障害(以下「障害」と総称する。)があるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいう。【平成十六年の障害者基本法の一部を改正する法律案に対する附帯決議の六】
また、てんかん及び自閉症その他の発達障害を有する者並びに難病に起因する身体又は精神上の障害を有する者であって、継続的に生活上の支障があるものは、この法律の障害者の範囲に含まれるものであり、これらの者に対する施策をきめ細かく推進するよう努めること。
「障害者」の定義については、「障害」に関する医学的知見の向上等について常に留意し、適宜必要な見直しを行うよう努めること。
障害者の権利条約では、障害及び障害者の概念について、前文(e)と第1条で述べられている。特定の障害者が排除されないように、第1条の「障害者」の前に「すべての」という修飾語が付され、さらに末尾に「含む」という言葉が加えられた。また、障害者には、障壁との相互作用から他の人との平等を基礎とした社会参加を妨げる機能障害をもつ人も含むとしている。参考2:
第2回意見交換会意見書 2の(2)および(3)
2-(2)政府仮訳文
(略) 第1条の後段の部分を政府仮訳文では「障害者には、長期的な身体的、精神的、知的又は感覚的な障害を有する者であって、様々な障壁との相互作用により他の者と平等に社会に完全かつ効果的に参加することを妨げられることのあるものを含む」と訳している。問題は、1) impairmentとdisabilityの訳し分けができていないこと、2) which以下は、impairmentsを修飾しているものであり、誤訳の可能性が高い、ということである。さらに、この訳文では、障害者の範囲が限定的に解釈される恐れがあり、条約の目的に合致したふさわしい訳とはいえない。厚生労働省もICF(国際障害機能分類)の訳でimpairmentを「障害」とは訳しておらず、JDFとしてはimpairmentを「インペアメント」や「機能障害」や「機能障害」(構造障害を含む)等として、disabilityと訳し分けるべきであると考える。2-(3)「盲ろう者」の訳について
deafblindを「視覚障害者と聴覚障害者の重複障害」と訳している部分がある(第24条)。deafblindは一般的に「盲ろう者」と訳されるべきである。ここでは障害者の定義に関連する事項として問題提起を行うものである。
2.障害者の差別を禁止する新たな権利法の必要性と条約に反する現行法令の改廃(第2条、第3条、第5条他)
(1)障害者差別禁止法(仮称)
1) 裁判規範をもつ差別を禁止する法律の必要性
権利条約は障害に基づく差別(合理的配慮を行わないことを含む)を定義している。それに基づき、何が差別で何が禁止されるのかを裁判規範性をもつ法律に定めることが求められる。現在、障害者基本法は裁判での規範性をもたず、救済手段についても明示されておらず、実際の差別事例にはなんら効力を発揮しえていない。
障害者基本法は理念法であり、また、行政施策の指針となる性質のものであり、具体的に差別を禁止する実定法ではなく、条約が要請する差別を禁止する法制度とは性質を異にする。条約が要請しているという法制度についての認識を確認させていただきたい。 2001年8月、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)の規約委員会は、日本政府に対して包括的な差別禁止法の制定を勧告している。また、ほとんどのいわゆる先進国では、障害に基づく差別を禁止する法律が、その適用分野等の違いこそあれ存在するのが現状である。これら国際的な動きについての政府関係省庁のご意見をお聞きしたい。2) 分野を網羅する内閣府所管の包括的な差別禁止法制度の必要性
障害者が社会参加をする上でさまざまな制約が存在する。家庭から外出・移動、職場や学校における支援は体系的に一貫してこそ初めて、他の者との平等な権利が保障される。例えば、職場に向かう移動の最中に不利益をこうむると、それは「移動」という分野のみの事象ではなく、雇用や昇進等の労働の分野にも影響する。実際に自力通勤を雇用の条件とする職場が多くを占めている。
この場合、障害者保健福祉部が管轄する障害者自立支援法では、通勤における移動介助は認められていない。よって、障害に基づく具体的差別事象が一分野の法律ではまったく対応できない現状においては、関係省庁の総合的な調整機能を果たす立場にある内閣府において、可能な限り独立性が確保された仕組みみのもとでさまざまな分野を網羅する包括的な差別禁止法が必要であると考える。また、こうした理由から、関係各省庁を取りまとめる省庁としての内閣府所管の法律とするのが望ましいと考える。これらの点について、関係省庁のご意見をお聞かせいただきたい。
(2)差別を受けた人の救済について
「重点施策実施5か年計画」で指摘している点を踏まえて、被害の申立のあった障害者差別を具体的に調査し、迅速に審査・認定し、救済する制度の設置が必要である。私たちは、こうした権利救済の役割を果たす障害者権利委員会(仮称)についての規定を差別禁止法(仮称)の中で具体的に行うべきであると考えるが、貴省の見解をお聞きしたい。
(3)権利条約に違反する現行国内法制度の改正・廃止について
1) 内閣府が主導する体制作り
第4条(b)で「障害のある人に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適切な措置(立法措置を含む。)をとること」とある。同規定に基づき、条約に反する法令の改廃が必要となる。
これに関連して障害に係る欠格条項の見直しにおいて、内閣府には大きな実績がある。1998年、障害者施策推進本部にて各省庁に対して行った調査の結果をまとめている。そして、中央障害者施策推進協議会(中障協)で見直しの方針が出され、1999年、政府対処方針が決定した。この方針によって各省庁が見直しを行ったという経緯がある。
これら前例に習い、内閣府が積極的に権利条約に違反する現行法制度の改正・廃止を推進すべきであると考えるが、貴省の見解をお聞きしたい。2) 障害者・障害関連団体の参画
権利条約第4条3項で、権利条約の実施において、障害者・障害者団体と緊密に協議し積極的に関与させると規定している。権利条約実施のためには、国内法制度の整備に関する協議・決定の場において、障害者・関係団体の実質的な参画を保障する制度が必要である。貴省としての方策をお聞きしたい。
3.条約の実施とモニタリング(第33条)
(1) 政府の中心的機関(focal point)及び政府内における調整の仕組み(coordination mechanism)について
1) 第33条1項に定める政府の中心的機関(focal point)及び政府内における調整の仕組み(coordination mechanism)については、内閣府が担うべきであると考える。障害者の生活分野全般にわたる規定がされている権利条約の実施のためには、関連省庁を横断的に取りまとめる部署である内閣府が一番望ましいためであるが、貴省の見解をお聞きしたい。2) 1)に関連して、障害分野に特化した局級の部署を設置すべきである。現在の統括官制度は他の分野との掛け持ちとなっており、その数も多く、内閣が変わるたびにその管轄する領域の数が変化するようである。この体制では、障害分野における権利条約の実施において、各省庁を横断的に取りまとめることは困難ではないかと考える。貴省の見解をお聞きしたい。
(2)パリ原則に基づく政府から独立した機関
1) 障害者権利委員会(仮称)の必要性について
第2回意見交換会の際の意見に対する貴省の回答の中で、イギリスの例を挙げ、障害者に特化した委員会が必要かどうか、人権機関全体の問題になるのではないか、という意見が出された。それに対し反対するものではない。逆に、まさにイギリスのDRC(障害者権利委員会)から2006年、新しい法律により、EHRC (Equality and Human Rights Committee)に統合されたということは、権利条約上の義務を履行すべき日本の現状において、参考にこそなれ、決して、問題を起こすものではないと考える。そもそも、1998年の自由権規約委員会からの日本政府への勧告に基づいて、パリ原則に基づく国内人権機関設置の議論が開始されたが、すでに10年が経過したがなんら成果は見られない。
第33条の実施のため、権利条約は監視機関の設置は必須であると考えるが、貴省において他の実施方法を考慮中なのかをお聞かせ願いたい。2) 委員会の設置方法
内閣府設置法第49条以下に規定している内閣府の外局として設置すべきであると考える。
先ず、「外局」という組織のあり方が、パリ原則に基づく政府から独立した機関として該当するのかについてである。もともと人権擁護法の議論から政府側の提案として出されたものである。限界はあるにせよ、一定程度の独立性を持つことと判断される。内閣府の外局を見ると公正取引委員会などがあるが、問題点があるのかお聞きしたい。
次に、なぜ内閣府なのか、という点である。大きな理由は二つある。まず、権利条約は障害者の生活分野全般にわたる規定がされており、特定の省庁の下に置くべきではないこと、二つ目に、現在の人権擁護法案の議論等から法務省の外局に置くべきであるという議論がされているが、障害分野から強い反対がある「心神喪失者等医療観察法」の所管省庁が法務省である。強い縦割り行政の仕組みの現状において、同じ省の中の部署が所管している施設で起きた差別または人権侵害事案についての調査、審査等を別の部署が「外局」という形式をとったとしても、独立した立場から行うことができるか、大きな疑念があるといわざるを得ない。
(3)条約実施における当事者参画の保障
1) 新たな制度の必要性
障害者基本法の下で中障協が運営されている。評価する点もあるものの、運営が形式的である感は否めない。第33条の定める条約実施における障害者団体等の参画の保障については、新たな制度が必要であると考えるが、貴省の見解をお聞きしたい。参考:【第2回意見交換会での意見書7での説明】
障害者の権利条約以外の国連人権条約で、1)「独立した条文で」、2)「パリ原則に基づく」、3)「条約実施を促進・保護・監視するための」、4)「独立した枠組の」、5)「維持・強化・指定・設置」、という5点を同時に義務づけている条項を有するもの(33条2項)はない。これは、国連や国際社会が、条約の国内における実施とモニタリングの重要性を深く認識してきたからに他ならない。わが国ではかつて国会で、例えば子どもの権利条約と、拷問等禁止条約の締結承認に当たり、独立した人権救済機関ないしオンブズマンの設置は必要ない(既存の国内諸制度を活用・強化すべきである)、という政府答弁があったが、こうした認識を変える必要がある。
第33条第1項では、政府内に中心的機関を指定するとしている。現状では、内閣府の障害者施策担当室が考えられるが、女性の条約を所管している「男女共同参画局」とは、各省庁との関係で格段の権限の違いがある。女性差別撤廃条約批准等によって、内閣府には男女共同参画局が置かれたことをかんがみ、同程度或いはそれ以上の権限を持つ機関が必要となってくる。
また、同条第2項では「この条約の実施を促進し、保護し及び監視するための独立した仕組みを国内で維持し、強化し、指定し及び設ける。」と規定されている。「独立した仕組み」は、国連人権委員会が「国内人権機関」に関するガイドラインとして策定した「パリ原則」(1993年)を踏まえたものであり、条約の実施には大変重要な事項となってくる。
さらに同条第3項に規定されているように、条約の国内における実施過程には、障害者団体を通じて、障害者が完全に参加し、関与しなければならない。
「パリ原則」に基づくガイドラインでは、独立した仕組みの確保とともに、多様な当事者の参画は原則として明確になっていることに留意する必要がある。