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■最終更新 2013年3月5日
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文部科学省「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」
関係団体ヒヤリングにおける意見
平成20年11月10日
文部科学省「特別支援教育の推進に関する調査研究協力者会議」
関係団体ヒヤリングにおける意見
日本障害フォーラム(JDF)
発表者 藤井克徳(幹事会議長)
東 俊裕(権利条約小委員会委員長)
河原雅浩(企画委員会委員長)
1.早期からの教育相談や教育支援
障害の有無を問わず、子どもの成長にはさまざまな環境整備が必要です。障害をもつ子どもの場合も特に子育て支援や家族支援が重要です。
2006年12月に国連総会で採択され、2008年5月3日に発効した障害者権利条約(以下、権利条約)は、第24条第1項で、締約国は「あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度」を確保すると規定し、同条第2項(b)に、自分の生活する地域においてインクルーシブで質の高い教育にアクセスすることができること(can access)を確保する、と規定しました。障害をもつ子どもともたない子どもが一緒に育つという「インクルーシブ」を前提として、幼稚園や保育所での障害のある子どもの受け入れの促進はもちろんのこと、それらに対する障害児専門機関(児童相談所、特別支援学校幼稚部、障害児通園施設、児童デイサービス等)からの支援と連携が「インクルーシブな教育の実現」という目的のもと強化されなければなりません。
さらにろう児の場合には、幼児期からの手話の習得の機会が与えられるべきです。権利条約は手話を言語とし(第2条)、ろう者の集団的なアイデンティティの確保を規定しています(第24条)。
また、幼児期における支援は教育と福祉に分断できるものではなく、両者が密接に連携・協力できる施策を推進することが求められます。
2.障害児の就学先の決定手続について
(1)インクルーシブ教育への方向性の明確化
権利条約は、第24条第1項の「インクルーシブ」とは、障害のない子どもに提供されている場に、すべてではないにせよ障害をもつ子どもを受け入れるもの、と理解されることが、この間のJDFと政府との意見交換会等で確認されています。ちなみに日本政府は2007年9月に権利条約に署名しています。
現在の特別支援教育は、特別支援学校、特別支援学級を中心に展開されていますが、本来は、一人ひとりのニーズに応じた教育が、居住地の小中学校の通常学級に在籍しながら行われるべきだと考えます。
ついては、特別支援学校の分校や交流及び共同学習というような対応にとどまらず、まずは入り口を分けることのないインクルーシブ教育の方向性を明確化することが重要です。
(2)学校教育法施行令第5条等の見直し
現在、市町村教育委員会が、就学基準に基づき就学予定者の就学先を決定します。学校教育法施行令第5条により同施行令22条の3に該当する障害をもつ子どもは、障害のない子どもと別の手続きのもとで、原則として特別支援学校に就学する制度となっています。これらの法・制度を見直す必要があります。
第一として、障害のある子どもとない子どもを区別することなく、同じ手続きのもとで就学通知を出し、本人や保護者が望む際、特別支援学校への就学を認める、というのが、本来のあるべき就学制度であると考えます。そして、就学先の決定にあたっては、本人や保護者の意向に基づいたものであるべきと考えます。
(3)合理的配慮と個別教育支援計画について
地域の医療、福祉等の関係機関との連携も含め、子どもひとり一人のニーズに合った支援を行う「個別教育支援計画」に基づいて、地域における普通学校への就学を原則として、どの就学先においても合理的配慮が得られるようにするべきです。
現在の就学先決定手続の中に合理的配慮の提供を含む「個別教育支援計画」を明確に位置づけ、機能させる必要があります。権利条約や「子どもの権利条約」における障害をもつ子どもの意見表明権等の規定から、個別支援計画や合理的配慮の内容等の決定プロセスについては、障害をもつ子どもの保護者や教員、障害をもつ本人等が加わって策定するようにすべきです。
合理的配慮とは、障害のある人とない人との実質的な機会の平等を確保するために必要で適切な変更や調整のことをいい、個別の場面で、その個人にあった形で提供されるものです。合理的配慮の提供を行わないことは「差別」とされ、権利条約を始め、最近、多くの国で取り入れられている概念です。
現在、「個別教育支援計画」の普及が図られていますが、すべての小中学校においても「個別教育支援計画」の策定を義務化する必要があります。同時に、学校設備の改善と教員・特別支援教育支援員の配置を促進するとともに、それらを担う人材の確保とその質の向上を図ることが肝要です。
(4)地域の小学校の受け入れ促進
幼稚園、保育所、障害児専門機関に通う障害児について、地域の小学校が事前に当該障害をもつ子どもの支援に関する情報を共有し、受け入れ態勢の整備を図れるような施策を講じる必要があります。
3.進路指導の充実・強化について
学校を卒業後、円滑に社会人として生活し、一般就労できるよう、在学中から就労移行支援事業、委託訓練等、福祉や労働機関との連携を強化するとともに、進路指導担当教員の加配等、進路指導の充実・強化を図る必要があると考えます。
4.その他
(1)ろう児教育の在り方について
あらゆる子供にとって、その子供に最も適した自然な言語の取得と自然なコミュニケーション環境の中での成長は重要であり、ろう児においても例外ではありません。ろう児にとって最も適した自然な言語は手話であると考えます。このことは、最近のろう学校への手話の導入による、ろう児の全人的な成長における目覚しい効果を見ても明らかです。
ただし、そのためには、手話による教育だけでは不十分であり、ろう児の集団の中での手話による自然なコミュニケーションを通して成長することが必要です。このろう児の集団が存在する場としてのろう学校の存在意義は非常に大きいと考えます。また、ろう児は「ろう学校」という名称の学校で学ぶことにより、ろう者として自覚と誇りを持って生きていくという意識が培われます。
しかし、特別支援教育制度によって、障害種別の学校の統合計画が出され、併設や統合がない場合にも、「ろう学校」という名称がなくなった学校も出ています。このような動きは、これまでろう学校が保持していたろう児の集団、すなわちろう児の全人的な成長の場の存続を危うくし、ろう者として自覚と誇りを持って生きていくという意識が培われるのを困難にするものと考えます。さらに、ろう教育に携わる教員の手話によるコミュニケーション能力及びろう教育の専門性の維持も危ぶまれています。
権利条約第2条で、手話は言語である、と規定されました。そしてその第24条の3項の(b)では、手話の取得とろう社会の言語的なアイデンティティの促進を容易にする、という規定もされました。ろう学校は、こうした目的のために、手話を言語として位置づけたろう教育の場として「ろう学校」を存続させるべきであり、それとともにろう教育に携わる教員の資質の維持及び向上を図るべきです。
(2)難聴者、盲ろう者等について
聴覚障害者には、ろう者、難聴者、中途失聴者が存在します。難聴の子どもは、聴覚を活用して成長しており、難聴の子どもの教育に関しては、聴覚を活用した日本語学習・学科学習ができるように、支援が行われなければならないと考えます。また、聞こえの程度もさまざまであり、一人ひとりにあった支援が必要であると考えます。
また、世界の多くの国では、「盲ろう」が独自の障害区分として位置づけられています。わが国でも、「盲ろう」を独自の障害として考え、盲ろう者の教育を行わなければならないと考えます。
(3)特別支援学校の課題
現在の特別支援学校は、教室不足で図書館をなくして教室に転用している、あるいはトイレが不足しているという実態があります。また、特別支援学校への統廃合によって、空き教室で、ろう児が他の障害をもつ子どもと一緒に教育されているということもあります。こうした状況を早急に改善してください。
(4)最後に-障害者権利条約への批准に向けた検討の場の設置について
本日は、貴重な意見発表の機会を設けて頂いたことに感謝を申し上げます。
ただ、権利条約第2条で「障害に基づく差別」を定義し、第3条で非差別の原則、第5条等において、平等・非差別の規定をおいています。直接差別、間接差別、合理的配慮を行わないことは差別となるとされ、差別に対して、効果的な法的保護を障害者に保障するとあります。これは教育の分野でも当然適用されるものです。また権利条約第24条では、生涯学習等の規定もされています。よって、権利条約の批准に向けた検討の場は教育全般に関する検討の場となるべきです。
厚生労働省では、「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応のあり方に関する研究会」を立ち上げています。同様に、権利条約に基づいて障害をもつ子どもの教育における課題や論点を整理し、政策に生かすための検討の場をもつことを望みます。
そして、議事や資料は迅速に公開され、そこに参加する団体にはJDFといった権利条約への取り組みを行ってきた障害関連団体と専門家が含まれたものとしてください。
以上